誰も僕らを救えない
腕が切り痕で洗濯板みたいになっている。それを撫でながら、僕はまた虚無に苛まれている。なんでなんにもできないんでしょうかね。死ぬことひとつですら、何度も失敗して何度もなぜかかわそうとしてきた。なにもできないんですね。周りはみんなちゃんと人生しとるぞ、人生しとらんのは俺だけ。マフラーをいつもよりきつく巻いてみる。首は絞まらないけれど。どうしてこうなっちゃったかなあ。僕だってこんなふうになりたくなかった。でも何がそんなに嫌なのかもわかんないなあ。僕はパキシルがなかったら受験にも向かえなかっただろうし、東大に落ちたら自殺しようと心に決めていたし、すべてを自分に向かわせるから鬱になるんだろうなと思っていたけど、本郷キャンパスで3人を切りつけた高校生もそんなにはればれとした顔をしていなさそうで不思議になった。何をしても鬱屈するんだろうな。刃先が自分に向かおうが、家族に向かおうが、無差別殺人となろうが、僕らは永遠に鬱々としている。何をしても救われない。あの高校生も救済を探していたのだろうけれど、結局救済なんてどこにもないんだ。人間は人間を救えないんだ。人間に救いを見出そうとするから救われないんだよ。僕はあの高校生を非難できるだろうか。そう考えては首を振っている。ニュースのコメントを読んでいると、そうなんだけどそうじゃないんだよみたいな気持ちになってくる。いやそうなんだけど。でも違うんだよ。何が違うのかは明確には言語化できないのだけれど、なんとなく論点がずれているんだよなあという感じがする。ああいうふうに煮凝った人間をどう救えばいいのか、みんなどうしたってわからないからだ。わからないんだよ。いかに優しそうな言葉をかけても権威ある言葉をかけても、僕らみたいな人間には響かないんだ。僕らは自分で自分を救うことすらできない。虚無があり、そこに落ちていくだけなんだ。