談義⑤ FMにイノベーションは必要なのか?
前回の談義④では、破壊的イノベーションから着想を得て、破壊的ファシリティマネジメントの提案を試みてみた。
今回の談義では、ファシリティマネジメント(FM)にイノベーションが必要なのか、もう少し俯瞰的な視点で補完的に述べてみたいと思う。
1.FMの起源、そもそもの定義
ファシリティマネジメント(FM)とは、元々はアメリカで生まれた民間企業に対する経営管理方式である。
公益社団法人 日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)によると「企業・団体等が組織活動のために施設とその環境を総合的に企画、管理、活用する経営活動」と述べられている。
1970年代後半にFMという分野は誕生したとされている。当時のアメリカは景気が低迷しており、企業の経営難の解消、建物老朽化への危惧から、保有する建物を資産と捉え最適化を図りながら経営を改善していこうとするのがもともとのFMの始まりである。
2.FMの拡張
前述の内容は、あくまで民間企業が対象である。しかし現在、その範囲は拡張され様々な分野で適用されている(図2)。
例えば、民間企業を官へ適用させると、企業=地方自治体となり、その保有する施設は学校、庁舎、公民館といった公共施設、インフラ、空き家…となる。地方自治体も財政難に苦しんでおり、公共施設やインフラ等の公的資産の最適化が求められている。また一方で、民間企業を建物自体の活用を生業としている不動産業等に絞って言えば、保有するマンション、貸しビル、賃貸住宅等、それらの運用方法、つまりビジネスのあり方がそのままFMと言えよう。
このように拡張されている現状をみてみると、FMの対象範囲は多岐にわたり、皆さんの身の回りに存在する庁舎、スーパー、病院、工場、道路、駅…まち・都市を構成している建物やインフラそのものと言い換えることができ、FMとは企業毎の経営だけでなく、まち・都市までにも影響が及ぶ重要な分野と言える。
3.社会とFMと経営の関係性
FMの対象範囲は拡張され、私たちの身の回りの建物・において重要な分野になりつつあることを前述した。次はさらに掘り下げ、FMの対象となる建物に、今どのような問題が起きていて、そして社会とどのように関係性があるか体系的に整理してみる。
すると、図3のように右から順に【人々の意識や社会の変化】→【建物資産の課題】→【建物資産】→【企業の経営】と繋がっていることが見えてきた。
社会はCOVID-19、人口減への転じ、経済縮小、環境意識、AI等の技術革新と大きな変化点を迎え→様々な課題を建物資産に与え→それがまち・都市を形づくると共に→企業や地方自治体の経営に影響を与えている。
そしてこの建物資産にかかる課題を解消するのがまさにFMの役目であり、FMがうまく機能しなければ、この社会の変化に対応できず、まち・都市は陳腐化し企業の経営は悪化してしまう。現に、中小企業の衰退が問題視され始め、財政破綻する自治体や消滅自治体が危惧されてきている。また社会の大きな変化点を迎えた今、現状うまく行っている企業でも今後今まで通り資産を運用できるかが問われているはずである。
また、このような課題の多さから、FM市場規模はグローバルに見ても拡大傾向で、2022年から2030年の年平均成長率は10.9%とも言われている。
こうしてみていくと、大きな社会の変化に対応するように、FMのあり方も何か大きな変革が必要そうだ。そしてそれと連動して、私たちのまち・都市をよりよくしていくためにもFMが重要な鍵となっていることも言えそうだ。
4.今こそ、FMにイノベーションが必要な時?
3では、多様に存在するFMが解決すべき課題は、社会と密接に関わりながら生み出されていることを体系的に示した。
さて、現在このFMはうまく機能しているだろうか。空き家問題や老朽化といったことは何年も前から言われており、様々な施策や補助金制度が講じられているが未だ完全に解決されてはいない。また、新しいライフスタイルや働き方に適応したオフィスとは何だろうか。実践している一部の企業はあると思うが、未だ答えや手法は見えておらず、浸透していないと思う。
こうした積み残された課題に対する解決方法も少し限界が見えてきて、自治体や企業で実践されている一般的なFMでは、どうも立ち行かなくなっているのではないだろうか。
なぜか?それは今までのFMが
”持続可能な解決”になっていないから
と私は思う。
前述の図3から、FMの課題はおおよそ、人口、経済、環境(資源・エネルギー)、情報・技術革新、災害(感染症や震災)に帰結する。
そのため、補助金のような場当たり的な空き家対策ではなく、根本的に辿った先の”人口(担い手不足)”や”経済(自治体の財政力)”に働きかける施策を考えるべきである。
いくつか事例を紹介する。
公共R不動産は、公共施設等の活用されなくなった公共空間の情報を全国から集め、HP上で公開することで企業や市民とマッチングさせる取り組みである。
これは先ほどの空き家問題に対して、
・人口(担い手不足)
→外部からマッチングさせ確保。
・経済(自治体の財政力)
→空き家改修にかかるお金を市民や企業の民間の力で担保。
と根本的に働きかけを行なっている。なおかつ、HP上でオープン化していることで、継続的・持続可能的に人、金を担保できる仕組みづくりができていると言える。
また、直接FMではないかもしれないが、VUILD株式会社が手がけるデジタル建築の活動では、中山間地域にデジタル加工機を導入し、外部の技術を遠隔で取りこみ、その地域の資源を使って家具や家を誰もが製造できる仕組みづくりを行なっている。
これも中山間地域の衰退、建築業界の人手不足等に対して、
・経済(中山間地域の活力)
→その地域に仕事を生み、お金を落とす。地方創生に寄与。
・人口(技術者不足)
→IT技術(デジタル加工機)により、技術力の遠隔取り込みと誰でも加工可能に。
・環境(資源)
→地産地消という従来のサイクルへの引き戻し。
と人口、経済、資源に働きかけ、持続可能な仕掛けとなっていると言えよう。
社会はかなり大きく変わり始めている。
場当たり的な解決ではなく、人、経済、情報、資源といったより根本的なものを循環させ、”持続可能的なFM”が今こそ必要ではないだろうか。
それがFMのイノベーションであり、今後求められていく方向だと私は思う。
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