ASEAN、日本抜いてトップに─中国外交の「周辺国」序列
中国政府が「周辺国」と見なす国・地域の序列に変動があった。1年前は日本が筆頭だったが、王毅外相兼国務委員の最近の公式論文などで東南アジア諸国連合(ASEAN)がトップに浮上した。一方、「大国」では、近年順位を下げていた米国が欧州連合(EU)に代わって2位となった。
■中央アジアも順位上昇
習近平政権は自国と米ロを「大国」と見なし、EUも全体として同じ扱いをしている。かつて大国とされていた日本は現在、「周辺国」の一つと分類され、インドや韓国などと同列だ。
中国共産党理論誌・求是(隔週刊)の2021年第2号に掲載された王外相の外交政策論文で、周辺国に言及する順番は①日本②インド③韓国④ミャンマー⑤ASEAN⑥中央アジア5カ国(カザフスタンなど)─だった。ASEAN諸国の中でミャンマーだけ個別に触れたのは、20年1月に習近平国家主席が国賓として公式訪問したからだろう。
しかし、王氏が22年第1号の求是で発表した論文では①ASEAN②上海協力機構(SCO)③中央アジア5カ国④北朝鮮⑤韓国⑥モンゴル⑦日本⑧インド。ASEANが一気に首位となり、日印両国が下位に落ちた。SCOは中ロのほか、中央アジア4カ国とインド、パキスタンが加盟している。
王氏が毎年12月、外交シンポジウムで行う演説も同様だ。20月12月の演説は①日本②インド③韓国④ミャンマー⑤ASEAN⑥SCO⑦中央アジア5カ国─の順だったが、21年12月の演説では①ASEAN②SCO③中央アジア5カ国④日本⑤インド⑥北朝鮮⑦韓国⑧モンゴル─と大きく変わった。
中央アジアの上昇は、アフガニスタンから米軍が撤収し、イスラム主義勢力タリバンが政権を奪い返した結果、アフガンに対する中国の影響力が増したことが影響しているとみられる。
■「一帯一路」で協力強化
中国外務省報道官は1月7日の定例記者会見で中国・ASEAN関係について次のように詳述した。
一、中国とASEANは過去30年、相互尊重と協力・ウィンウィンの正しい道を歩んできた。指導者・閣僚などの対話・協力メカニズムを整えた。
一、両者は発展途上国の中で最大の自由貿易地域をつくり上げた。1991年から2020年にかけて、貿易額は86倍に拡大し、互いに最大の貿易パートナーとなった。
一、習主席は21年11月、中国・ASEAN対話関係樹立30周年を記念する(オンラインの)首脳会議に出席し、「全面的戦略パートナーシップ関係」確立を宣言。さらに、ASEANに対する新型コロナウイルス対策支援のほか、今後5年でASEANから1500億ドル(約17兆3000億円)の農産物を輸入し、今後3年で15億ドル(約1730億円)の開発援助を実施すると発表した。
一、地域的な包括的経済連携(RCEP)が既に発効した。中国はASEAN各国との全方位協力を引き続き深め、共に「一帯一路」(中国主導の陸海シルクロード経済圏)を築いていきたい。
環太平洋連携協定(TPP)メンバーのシンガポールやマレーシアが中国のTPP加入に肯定的なことも、中国が対ASEAN関係をより重視する要因になっていると思われる。
■「重要な共通認識」を格下げ
一方、日本について、王氏の21年初めの求是論文は「中日関係は平穏に推移した」と記述しただけだったが、22年初めの論文は「中日の指導者は、新時代の要求に合う中日関係を構築するという共通認識に達した」と前向きな表現になった。
21年末の演説でも王氏は「習近平主席は求めに応じて日本の新首相(岸田文雄氏)と電話で話し合って、新時代の要求に合う中日関係を構築するという共通認識に達し、両国関係が干渉を克服して健全に発展する方向を明示した」と語った。
ただ、20年末の演説が、習氏と菅義偉首相(当時)の間で日中関係を引き続き改善し発展させていくことに関して「新しい重要な共通認識」ができたと述べていたのと比べると、「重要な共通認識」が「共通認識」に格下げされた。
王氏の言う「干渉」は、対中強硬路線への同調を求める米国の対日圧力を指すとみられる。周辺国の中で日本の序列を下げたのは、日米首脳会談などの共同文書に相次いで「台湾海峡の平和と安定の重要性」が明記されたことに対する不快感が一因となった可能性がある。
中国は歴史的経緯から、米台が安全保障面である程度特殊な関係を保つことを事実上、渋々受け入れているものの、かつて台湾を植民地にしていた日本と台湾の関係は米台とは異なると考えているようだ。
■「中米関係に幾つかの変化」
大国の序列は、かつて首位だった米国がトランプ前大統領による対中制裁連発の影響でどんどん下がり、約1年前の王氏の演説などでは「ロ欧米」の順になっていたが、「ロ米欧」に戻った。
王氏は、中国が米側に対し、①中国の道と制度に挑戦してはならない②中国の発展プロセスを阻んではならない③中国の主権と領土保全を犯してはならない─と要求していると強調しながらも、習氏とバイデン大統領の電話会談やオンライン会談を肯定的に評価した。
また、国営通信社・新華社などとのインタビュー(21年12月30日)では「過去数年と比べて、21年の中米関係は確かに幾つかの変化が生じた」とした上で、「中国側が断固として(自国の)権利を守り覇権に反対したことから、圧力を極限にまで高めるやり方で中国を譲歩させることは不可能であるだけでなく、最後には石を自分の足に落とすことになることに米側は気づいた」と指摘した。
バイデン政権の対中政策にまだまだ不満はあるが、トランプ前政権よりは少しましになったと考えているようだ。
逆に、21年の中国の対欧州外交は不調だった。中国とEUは20年12月、難航していた投資協定の締結交渉で基本合意。中国側はこれを高く評価し、中欧関係の深化に期待を示していたが、実際には、香港や新疆ウイグル自治区での人権侵害に対して欧州議会で批判の声が高まり、同協定の批准プロセスは中断した。
また、台湾問題も火種となり、「台湾」の名を冠した出先機関の開設を受け入れた旧ソ連圏(バルト3国)のリトアニアとの関係が特に悪化。EU側では、大使召還などでリトアニアに圧力をかける中国の居丈高な姿勢に対する反発が強まっている。(2022年1月17日)