中国「ウクライナ危機の元凶は米国」─ロシア擁護の宣伝キャンペーン

 中国の主要公式メディアがロシアのウクライナ侵攻について、北大西洋条約機構(NATO)を率いる米国こそが危機の元凶だと主張する宣伝キャンペーンを展開している。国際社会で孤立を深める盟友ロシアを擁護するためだが、関係各国の主権尊重を訴える一方で侵略国をかばう姿勢に対しては、中国の友好国からも矛盾を指摘する声が出ている。

■「米覇権主義」を連日非難

中国共産党機関紙・人民日報は3月29日、「ウクライナ危機から米国式覇権を見る」をテーマとする論評の連載を開始した。第1回は「米国は危機に対して逃れることができない責任がある」という見出しで、以下のように述べた。
 一、米国主導のNATOの東方拡大がウクライナ危機の根源であり、米国はウクライナ危機の元凶だ。
 一、米国が覇権を行使する道具であるNATOは(大規模な街頭行動で政権を倒す)「カラー革命」などにより、長年にわたってロシア周辺の情勢を不安定にしてきた。その結果、ロシアは包囲されていると感じるようになった。
 一、米国は自分が担ってきた不名誉な役割をきちんと反省して、冷戦思考と覇権的行動をやめ、全世界と地域の平和・安定のために具体的なことをしなくてはならない。
 第2回以降の論評も「米国はウクライナにNATO加盟を認めると約束して、ロシアとの衝突・対抗の落とし穴に誘い込んだ」「米国の陰謀と干渉がロシアとウクライナの衝突を招いた」「好戦的な米国は国際秩序の最大の破壊者だ」と米国を繰り返し非難した。
 国営通信社の新華社も3月31日から4月5日にかけて、「戦争を挑発して、そこから利益を得る米覇権主義」を批判する論評を風刺漫画付きで連日配信。「冷戦妄想症」にかかっているなどと米国をこき下ろした。

■不信買う中国流の奇説

一般論として反戦平和を唱えながら、ウクライナを侵略しているロシアのプーチン大統領の言い分を支持し、ウクライナの自衛を支援する米国などに戦争の責任を押し付けるのは倒錯した理屈で、常人には理解し難いが、中国共産党の主張としては目新しくない。
 北朝鮮が韓国を攻め、中国がそれを支援した朝鮮戦争(1950~53年)は、中国では「朝鮮半島で内戦が勃発し、米国が不当に軍事介入したことから、中国は侵略の脅威にさらされ、やむを得ず参戦した」とされ、「抗米援朝戦争」(米国に抵抗し、北朝鮮を援助する戦争)と呼ばれる。
 悪いのは戦争を始めた北朝鮮ではなく、侵略された韓国を助けた米国であり、中国の介入は正義の戦いだったというのが中国共産党の説明。中国で昨年大ヒットした戦争映画「長津湖」(監督=チェン・カイコー、ツイ・ハークら)もこの公式見解に沿って制作された。ウクライナ問題に関するロシア擁護・米国元凶説も似たような思考から編み出されたと思われる。
 しかし、このような奇説は、中国との関係が良好な国でも理解を得るのは難しいようだ。3月末に訪米したシンガポールのリー・シェンロン首相はシンクタンク主催の集会で、ウクライナで起きた戦争は領土保全、主権尊重、内政不干渉といった中国が重視する原則に反するもので、中国にとって「厄介な問題」だと指摘。集会では、もしウクライナの東部が独立しても良いのなら、台湾や中国の少数民族地区はどうなるのかという問題が論じられた。自国の分裂(台湾独立など)は絶対許さないと強調する中国が他国の分裂を容認すれば、「ダブルスタンダードだ」と言われても仕方ないだろう。
 また、中国が多国間外交のパートナーとして重視する欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表(外相)は4月5日、欧州議会で先のEU・中国首脳オンライン会談に触れ、「中国側はウクライナについて話したがらなかった」と習近平国家主席らの態度を批判した。ボレル氏は「話の通じない対話だった」と不満をあらわにしており、中国側はウクライナ停戦に向けて動こうとせず、ロシア擁護論を一方的に展開したようだ。
 米国を悪者に仕立てて、自国の親ロシア路線を正当化しようとする習政権の態度は、結果的に多くの国の不信を買っているように見える。(2022年4月10日)

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