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芸術家とのお付き合い。
『ランダムに選んだ過去の写真からインスピレーションを受けた小咄、コラム、戯言などを書き留める写真で二言三言。』
これまでの人生で、数えられるほどではあるがそれなりに普通に恋愛を重ねてきたと思っている。
とびきりの美人やお家柄のよろしいお嬢さんといったフィクションのような経験は無いが、極々普通のそんな中にもわたし的にとても魅力を感じる女性が相手である。
そんな数少ない恋愛相手の中でも一際特殊な経験をしたのは、芸術家の彼女だったときである。
彼女はモダンバレエのダンサー。普段はなんてことない普通のOLなのだが、こと舞踏会を前にすると芸術家のスイッチが入り、別人の様に感じるのだ。
彼女と付き合ってからはじめて知ったことだが、モダンバレエの演目というモノはすべて自分で創作するようで、まずはテーマの選定から始まり、踊り方、小道具を使用するときは小道具の準備と本番で踊るまでに様々なセルフプロデュースをこなさないといけない。
『今度の踊りは安部公房の箱男にしようと思うの。』
ある日突然彼女に言われ、これはしばらくは箱男について延々と議論を交わすことになるなと思ったわたしは、読んだことのない『箱男』を買い求め、彼女の問いかけに答えられるように、何度も何度も繰り返し秋の夜長を『箱男』とともに過ごしたのである。
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