さらさら
不慮の事故で亡くなって一か月と半分が過ぎた頃から、彼女は時々フッと僕の部屋に現れる様になった。恨まれていたのかと言えば、僕と彼女は誰もが羨むような仲睦まじいカップルだったから、そんな謂れはこれっぽっちも思い浮かばない。
実際、僕と彼女は涙を流して再会を喜び合い、写真フォルダを繰りながら、遊園地に出掛けたことや花火のこと、2人っきりのクリスマスやバレンタインデーのことを、時間を忘れて語り合った。
でも、僕は罰当たりにも、そんなことにすぐ飽きて了った。どうしてって、彼女と話すことと言えば昔のことばっかりで、結局僕たちが付き合っていたのはたったの8か月あまりだったから、思い出だってそんなに多いってわけじゃない。近頃は、彼女は部屋の隅で膝を抱えてむっつり黙りこんでいるだけだったし、僕はと言えばお構いなしにゲームをしたり宿題を片づけている。
ある蒸し暑い夜、開け放した窓からふらりと入って来た彼女は、今にも泣きだしそうな哀れっぽい目で僕を見すえながら、眠っていたい、と呟いた。もう眠らせて、と訴えながら彼女が指差す先には、時期を外れて放りっぱなしの七夕飾りが、大風の近付いて張り詰めた空気にさらさらと揺れていた。
たましいがえいえんにふめつでありますように
「そいつは出来ない相談かな」と僕は答えて、参考書に目を戻した。