見出し画像

祇園祭は平安時代のクールジャパン

昨日が宵山、いよいよ今日は山鉾巡行を迎える

京都は祇園祭の宵山を迎えて、いよいよ明日は山鉾巡行という段取りになる。最近は海外の観光客が京都の人口の半分ぐらいを占めるのではないかと思われるほど京都の街は観光客があふれていて、明日の山鉾巡行は天気さえよければ空前の人出になるだろうことが容易に想像できる。かつて私は、山鉾巡行のスタート地点となる、四条通りの大丸百貨店の少し東の方にあった山一證券ビルに仕事で出入りしていて、祇園祭の山鉾巡行の日は、おめでたくも毎年祭事の一番前で見物することにしていた。山一證券は、ある時劇的に事業の終焉を迎えたが、幸いにも山鉾巡行は永遠で今年もまた健在だ。

長い歴史に磨かれた京都の精華
先人の努力を忘れて京都の未来はない

私は宵山の四条通を歩きながら、外国人観光客に囲まれた宵山の鉾や山車を見ていた。それはオーバーツーリズムとかいったとってつけたような視点ではなく、長い時間をかけて紡がれてきた京都の祇園祭の文化と美意識を、外国人が享受していることについては嬉しく思うとともに、何か腑に落ちないものを感じていた。もっと言えば、基本的に世界の人々が好んで自国以外の国に旅行するのは、自国のモノとは違った国や他の地域の自然や風土に触れたい、その国の文化や歴史を知りたい、自国とは違った食文化に接してみたい…という素朴な興味ではないかと思う。それはそれで健全だと思う。しかし、どんどん来日観光客が増えだすと、いつの間にかサブカルチャー版の「ジャパン・アズア・ナンバーワン」といった風情で、一気にユーチューブでも日本文化礼賛のコンテンツで埋め尽くされている。

たぶんそのことは目くじらを立てるようなことではなくて、日本人として許容される範囲の自己礼賛だと思う。しかし現在京都に住んでいる私が思うに、京都に海外から想像できないような多数の観光客が訪れるようになった背景には、長い歴史的な時間をかけた京都人や芸術家、文化人、宗教家、商人、各分野の工芸作家、職人たちの美意識と知性の積み重ねがある。言ってみれば海外から訪れる多数の旅行者が京都に落としていく大きな外貨収入は、こうした先人たちが創りあげた文化と歴史の遺産が生み出したものに違いない。その遺産が生み出す利益を享受している京都の産業界は、それを否定する必要は少しもないが、少なくとも先人の文化遺産と、それを現在支えている人に敬意を払って、未来に向けて新しい文化遺産の創造を支援する意欲は忘れてはいけないと思う。

同じ水脈につながる「祇園祭」と「クールジャパン」

これは単に京都だけの話ではないが、いまや日本のアニメやアニメ関連のビジネスは日本のサブカルチャービジネスの一翼を担うまでに成長している。こうした産業界の流れを政府もメディアも関連大手企業も,いかにも自分の手柄の様に喧伝しているが、私たちは日本のアニメーション映画、テレビ・アニメなどの黎明期をずっと目にしてきた。「火の鳥」の手塚治虫も、「千と千尋の神隠し」「もののけ姫」などスタジオ・ジブリの宮崎駿、高畑勲も、「AKIRA」の大友克洋も、無数の優れたアニメーターとともに、厳しい経済環境の中で独自に数々のアニメーション映画やテレビ・アニメの名作を生み出し、アニメやアニメーション映画の世界を切り拓いてきた。今ではわれこそ、「クールジャパン」の創造の一部だとばかりに胸を張る人や機関がここかしこにいる。それはいいとしても、こうしたサブカルチャーの世界を作ってきた人たちに向けて、その業績を成し遂げてきたことに対して賞賛を与えることは当然ながら、政府や産業界は彼らに対する大いなる支援を果たしてもらいたいと思うのだ。それがまた、海外から多くの観光客に日本に来ていただく新しい文化遺産へと成長するのだと思う。


いいなと思ったら応援しよう!