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人間ってこんなことで許されるの?
普通の人ってどんな人を言うのかと思い悩む
その人とは友人としての親しい付き合いはなかったが、仕事上での付き合いがあった。ある時、電話ではなかなか要領を得ないことがあったので困っていたら、その人が説明のために訪ねてきてくれた。顔を合わせて話したら仕事のことは簡単に解決したのだが、そのあとは仕事一〇パーセント、茶飲み話九〇パーセントといった感じでどうという事のない雑談が続いた。そして話が途切れがちになってきたところで、その人が突然、芸能誌に登場するような皇室のスキャンダルを話題にしたのだった。戦前なら大不敬になるような話だ。私はその辺りの話にまったくと言っていいほど興味がなかったので、こんなことに関心を持つ人がいるのだと話を聞き流していたら、急に話が変わって就任したてのアメリカのトランプ大統領の偉大さについて語りだした。彼はどうも熱心なトランプびいきのようだ。こんなつまらない話題であまり突っ込んだ会話をするのを避けたかった私としては、意味のある反応をしなかったのだが、その人は私が彼の話に聞き入っていると思ったようで、さらに話題のバリエーションを増やしていろんなニュースを本格的に口にし始めた。ほとんどが「陰謀系のスキャンダル」の類なのだが、それをあたかも自分の眼で見てきたように得々と解説するのだった。
「ファクト・チェック」とかなくていいの!
私も世間並みのネット人間なので、ネットを飛び回る無茶苦茶なニュースについては知らないわけではない。しかし彼が不毛な話題をなぜそれほど熱心に話すのか不思議なので、「いろんなことをよくご存じですね?」と尋ねると、彼はよくぞ聞いてくれたとばかりに、私はすべての事実をすでに知っているからなのだと言う。そして、YouTubeでしっかり見たから、世の中のすべての理屈が完璧に分か分かっているとまで言うのだった。「真実」と「フェイク」の問題は、人間の歴史ととも成長、拡大してきた大きな課題だと思うのだ。AI時代の今日に至っては「真実」と「フェイク」の境界がますます見えなくなってきていて、人間の存在の基礎となる「真実」と「フェイク」の境い目を失った人間は、これから何を手掛かりに生きていけばいいのか、未曾有の混乱に突入しようとしているように思える。
この問題に関して、私が簡単な処方を出せるとは思えないので、議論するつもりはないのだが、老いも若きも、私の知人のような状態に陥っている人は日々増加していると思ってしまう。根拠のないYoutube・SNSなどを見ただけで、自分の世界観が一八〇度変わらざるを得なくなっても、何の疑いもなくそれを受け入れる。それがこれからの人間の基本姿勢という事になれば、「自分」などないも当然で、もうすでに人間は「ハメルーンの笛」の音色の中に囚われてしまっているのに違いない。明日もまたいつものように続くのだろうが、人間はこんなことで許されるんだろうか。