感謝のできない18歳

私の姉は、感謝と謝罪ができない。

小さな時から病弱で、いろいろなことをしてもらっていた姉は、偏頭痛と低血圧を持ったまま18歳になった。

最近、家族の衝突が増えたように思う。

母の大きな怒鳴り声。父のたしなめる声。

姉の、笑い声。

姉は、努力家だった。
勉強を頑張り、体調が悪くて予定通りに物事が進まなかったとしても、立て直しに努めていた。

私は姉を尊敬していた。

私のことを、可愛い、大好き、と言ってくれる姉を、優しいと思っていた。

姉が中学2年生になった頃、私は姉の言動に違和感を覚えることが増えた。

ピアノの送迎をしてもらった時に無言で車から降りていく姉。

毎日中学校まで送り迎えをしてもらって、無言で車から降りていく姉。

いただきますとごちそうさまを言わない姉。

最初私は、姉は感謝を口にしない人なのだと思った。

けれど、外食や服屋、学校生活で、姉はよく「ありがとう」という言葉を口にする。

姉が家でその言葉を口にする場面は、既に限定的になっていた。

高校生になった姉。私は中学生になった。

この辺りになるとお互い思春期なこともあり喧嘩が増えてきて、両親に引き離されることも度々あった。

姉が家族に対して吐き出す言葉は、
「めんどくせーな、お前」
「は?」
そんなものばかり。

父は、私たちのために生活費を稼いでくれている。私たちを学校に行かせてくれている。

母は、私たちの帰る場所を作ってくれている。

そんな両親に感謝の気持ちを示さない姉が、理解できなかった。

姉は高校3年生になり、受験期に突入した。

本命の大学と、滑り止めの大学を3校受験することになった。

滑り止めにしている私大は、受験に合格した時点で多大な入学金を振り込まなければならない。

何十万、100万近くかかる。

試験を受けるための宿、新幹線代、受験費…

姉は、当たり前のように、受験は母と共に行くと言い張った。

「新幹線とか、電車とか、わかんないし。今まで𓏸𓏸とかが全部教えてくれてたし、1人で出来るわけないじゃん」

姉は顔が良く、そのお陰で、大抵の事はうまくいっていた。

遠征先で分からないことは、誰かが教えてくれる。

旅行の手続きは、誰かがやってくれる。

私の両親は、ここでも姉を自立させることが出来なかった。

全ての大学の受験に、母を同伴させると決めてしまった。

私は、そのことにすらありがたみを感じない姉を人間だとは思えなかった。

やってもらって当たり前、むしろどうして私がやるの?

そういう態度を見て、恥ずかしくなった。

両親が子供にかけるお金は、愛の形だ。

その愛が子供にどのような影響を与えたとしても、愛であることには変わりない。

塾代に200万。

お金というわかりやすい愛を与えられている姉が、感謝もせず、教材を活用せず、結果として金ドブ状態になっている。

その状況が悲しかった。

私の家は、ごく普通の家庭だ。

決して裕福である訳では無い。

それを分かっているはずなのに。

買ってもらった服をろくに着ず、着る服がないと騒ぐ。

毎日の送迎がないと学校に通えないのに、毎朝起きようとしない。髪の毛の準備や化粧で遅刻ギリギリになる。

父のことをお前と言う。

自分の受験についてきてもらうのに、薬や服の準備、受験票、試験の開始時間まで、全て前準備をしない。

父と母に、ありがとうと言わない。

やってもらっていることが、当たり前だと感じている、ありがたみをわかっていない。

姉を見る度に、私がお姉ちゃんだったら良かったのに、といつも思う。

私だったら、父と母に感謝してもしきれないくらい、ありがとうと言うだろう。

かけてもらった塾代を無駄にしないように、毎日講義を受けるだろう。

着回しを考えて服を選び、大切に着るだろう。

私の手に入れられなかった愛を、姉はありがたいものであると認識すらせずに、大切にしない。

自分の周りに存在する幸せを、わかっていない。

父や母も、流石に姉の態度にはいい気がしなかったらしい。

何度か、姉を叱った。

姉は、「うわー、なんか急に怒り出した。何でそんなにキレてんの?」

こんな態度。

姉は18歳になってしまった。

大人になったのだ。

これからもこのまま、生きていくのだろう。




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