わたしはもっと、わたしになりたい
向上心がないよね、と言われたことがある。
勤めていた職場を去るとき、お世話になった人たちに挨拶をして回っていたなかで直属の先輩からはっきりと言われた。
一番近くにいて、毎日仕事の時間のほとんど一緒にいた。
引っ込み思案の性格が災いして、すごく仲良くなることはなかったけれど、それなりにうまくやれていると思っていた先輩からだった。
まだ、20代前半の頃の話。
言われた瞬間、わたしはかなりショックを受けた。
どのくらいショックだったかというと、10年以上経った未だに折に触れて思い出すほど。
言われた場所も、シチュエーションも、どこにどんな向きで座っていたかだって鮮明に覚えている。
新天地へ旅立つ前のご挨拶だったから、「今後も頑張って」みたいな言葉もちゃんといただいたのだけど。
全部をひっくるめると、あなたには向上心がない、だからそこを直せばもっとよくなれる、みたいなことだったと記憶している。
歳だって、そんなに違うわけじゃない。業務上もたかだか数年だけの先輩。
そんな人が、職場にいるときだけの、わたしのほんのちょっとを見て、なんてことを言うんだ。
あの頃の先輩より年上になった今、いいように解釈すれば、あれは多分愛の言葉だったんだと思う。
次の場所へ旅立つ後輩が、これから先困らないようにという、愛。
でも当時のわたしには、それを愛としてかみ砕く能力がなかった。
そしてそれはわたしに深く刺さって、結果的に呪いになった。
確かに、対外的にどこからどう見てもわたしには向上心はなかった。
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