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怒鳴度・賭乱腐な人 〜正月帰省録 #1
実家を出て以来もう30年以上になるけれど、どれほど忙しくても元旦だけは休みを取って両親宅で過ごしてきた。だけど本当に気が休まらない。退屈している父親がメシといえばとても変な時間に食事の支度が始まる。せっかく母親(認知症)がこたつでうとうとしていたのに…起こしてやるなよ。2025年も実家のドナルド・トランプは改心する気配がない。
確かに昨夜は呑んだくれながらミッドナイト競輪を楽しんだが…悪いんだけどギャンブルってのはひとりで楽しむのが一番楽しいと思っている。だが、この父親と競馬をやると、こっちがいくら出馬表を見て考えようとしても本人が喋りたくてたまらない蘊蓄を私にこれでもかとブッこんできたりする。うるさいから黙って考えさせてくれ…いや、競馬はもういいから元旦ぐらいのんびりと無駄なテレビでも見せてくれ。
元旦から名古屋と高知で地方競馬が開催されるという。元旦ぐらい選手も休ませてあげればいいのに(苦笑)。あら、競輪も開催されているの?…でも、昨夜タナボタで取ってしまった7万円也。あれは1円たりとも溶かしたくはないんだ。これで当座の滞納金が片づく。少なくとも3が日のうちはやらないつもりでいる。競馬のほうは父親が馬券代は出すと言っているので…だったら心置きなく全レース溶かしてやろうと思っている。
母親が雑煮を少しだけ食卓にこぼしてしまったようだ。父親の「なにしとんねん、お前は!」というイラっとした怒鳴り声を聞いた。認知症の母親をそんなふうに怖がらせたら、ますますテンパってしまうではないか。何より雑煮を少しぐらいこぼしたぐらいでねえ。私だったら黙ったまま拭いて終いにする。
それにしてもおせち料理というのは、令和のこの時代にはあまりに〝時代遅れ〟な風習だなと思う。どこかで買ったものだから2万円ぐらいはするんだろうか。私は子供の頃からおせちがどうも好きになれなかったし…いまだにそうだ。父親いわく「お前が帰ってくるからもてなしてるんだからな(ありがたく思え)」なのだそうだ。
私はイカやタコや貝があまり得意ではない。
父親が「ほら、タコだ。おまえタコ好きやろ」と母親に無理に押し付ける。
すると母親は「もうおなかいっぱいだから要らん」と愚図って、私が魚介が苦手なことを知りながらも私にすすめてくる(認知症でも長期記憶は損なわれないってのは本当のことだ)。愚図る母親に対して、父親がイラつきはじめる。仕方なく私が箸をのばして気の進まないそれを食べる。すると2人ともが納得したというか何事もなかったような顔つきに戻る。
子供の頃からそればかりだった。妹はそういうふうにすぐ取り繕ってしまう私を毛嫌いしている(というか私は妹から見下されている)。結局、実家に帰るたびにそういうことを蒸し返してしまう羽目になる。昭和の頃の家族ゲームをそのまま再現させられて、私のほうはまた憂鬱になってしまうってわけだ。まあ親子関係に関しては諦めたほうがいい。
父親がいうには、私が帰ってくるからと私のための布団を敷き始めたりすることがあると。ベランダに出て夜中に私の名前を呼びつづける…というのはさすがに父親が話を盛ってるだろと思う。
食事をしている間、母親は私の挙動のひとつひとつを観察し続けている。手を汚したらすぐにティッシュを差し出してくる。お茶を飲み干したらすかさず注いでくる。もうお腹いっぱいなのに、もっと食べろと急かしてくる。無理だというと「若いんだから食べれるでしょ」と返してくる。馬鹿言うな、もうオーバーフィフティだというと「またうそばっかり」という。
父親も父親で、インシュリンの注射を忘れて栗きんとんに箸を伸ばしている。私も私で、そういうときに奴のリマインダーをやめればいいのだと思う。思えば私が実家にいた頃、薬を飲むのを忘れたら母親をなじっていたこともあったはずだ。
母親は寝てばかりだ。おそらく普段服んでいる薬にそういう効果があるのだろう。漢方に切り替わったようだから…それほど強い薬ではないはずだ。うつらうつらして目覚めるたびに、こたつの差し向かいにいる私が誰なのかを考えて、諦めてまたうつらうつらする…食後の小一時間、そればかりを繰り返している。
こちらを伺って目を合わせるとちょっとおどおどした風になるが、私だとわかると逆にオキシトシンを全力で分泌しようとするかのような目つきになる。子供返りでもしているんだろうか。自分の親のことだけに申し訳ないのだけど…その目つきと視線がやはりどこかキモくてしんどい。息子を溺愛なんて年齢じゃないんだから。
こうして老人だらけで2025年が始まった。
(第2章へつづく)