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女性専用(single-sex)スペースとサービスに関する法律は混乱している。 政治的得点稼ぎではなく、これを修正する必要がある。(翻訳記事)
"The law on single-sex spaces is a mess. It needs fixing, not political point-scoring" (2024/06)
ソニア・ソダ(ジャーナリスト/英 "オブザーバー" 紙コラムニスト)
"ケミ・ベイドノック女性・平等相の性別(sex)の定義の提案に対する労働党の反応は、単なる不運な欺きではなく、法的な無知でもある"
2024年6月9日 英 "オブザーバー" 紙より
私の友人が運営する、トラウマや虐待の経験を持つ女性を対象とした宿泊型のワークショップがある。参加者にとって、女性のみの空間であることは極めて不可欠だ。過去の参加者は、男性が参加していたら話せなかったような形で、自分の経験について自由に話せたと語る。しかし、彼女は男性を一切排除することが、法的な訴訟のリスクを招くのではないかと心配し始めている。
私はこの分野の専門家に彼女を紹介し、法律の状況を説明してもらった。結論として、女性のみのサービスを運営することがどのようなときに合法的かは明確ではなく、この曖昧さから、訴訟されるリスクを考慮する必要があるということだ。フリーランサーにとっては、このリスクは最終的に壊滅的な影響を及ぼしかねない。彼女はそれ以来、この問題で苦悩しており、ワークショップの運営を中止するかもしれない。
ケミ・ベイドノック女性・平等相(訳注:肩書は当時)が先週、保守党が法律を明確化すると述べたことに対する狂気じみた反応を理解しようとする際に、このようなサービスを失う女性のことを考えた。左派の男性たちは、この法的な曖昧さの影響について全く理解がないようであり、平等法の保護特性である性別(sex)は生物学的性別(biological sex)を指すと明確にするという穏健な提案を、「醜悪な」「トランスフォビアの十字軍」などと非難した。
この明確化が必要なのは、英国平等法(2010年)とジェンダー承認法(GRA 2004年)の相互関係によるものだ。平等法は、性別(sex)や「ジェンダー適合(Gender reassignment)」など9つの「保護特性」に基づく差別を禁止している。ジェンダー認証法(GRA)は、ジェンダー違和(Gender Dysphoria)の医学的診断を受けた人が、ジェンダー認証証明書(GRC)を取得し、一部において法的には異性であるかのように扱われるようになる(ただし全ての法的目的においてではない)。しかし、GRCを持つ生物学的男性(male)が平等法上の「性別(sex)」において女性(female)とみなされるかどうかは不明確だ。どちらの側にも正当な法的議論がある。
平等法の「性別(sex)」は生物学的性別(biological sex)であると明記すれば、女性専用サービス(single-sex)に関する法律がはるかに明確になる。
これは単なる法的で技術的な細かい話ではなく、実際には大変重要な問題である。英国平等法(2010)には、女性専用(single-sex)のスペース、サービス、スポーツの提供を可能にする重要な「例外規定」がある。もしジェンダー認証証明書(GRC)を持つことにより、男性が法的に "女性(female)" とみなされるべきとするなら、女性のみのサービスから男性を除外することが、はるかに複雑になる。
たとえば、レズビアン(女性同性愛者)のサポートグループのような女性のみの会員制団体から、GRCを持つ男性を除外するのが違法となる可能性がある。
また、介護サービスが障害を持つ女性からの女性のみの身体ケアの要請に応じることができなくなったり、刑務所にいる女性が、男性からの裸体の身体捜索を拒否できなくなったりする可能性がある。
これは非常に重要な問題だ。なぜなら、レイプ被害者支援センターや女子更衣室など、女性のための専用(single-sex)のスペースやサービスの存在は、多くの女性にとって、基本的なプライバシー、尊厳、安全に関わる問題だからだ。
特に、女性であると自認(identify)する男性の中には、自身の性的な満足を得るためにそうしていることを公然と表明している男性がいることを考えると、それは彼らのプライベートな問題ではあるが、そうした物事に公共の場において参加することを女性たちに期待するのは完全に間違っている。
さらに、男性全員を女性専用(single-sex)スペースから除外するための法的審査は非常に複雑であるかもしれないが、女性専用(single-sex)のスペースやサービスを必要としている女性に対し提供しないこともまた、違法な差別に当たる可能性があるという点も、問題を複雑にしている。
法律の解釈は混乱しており、ストーンウォールのような運動団体がこの混乱を利用して法律の内容について人々に誤解をさせていることで、状況はさらに悪化している。
私の友人のような小さな組織や個人がこの地雷原をどのように乗り越えられるというのだろうか? 私はこの分野で活動している弁護士数名に話を聞いたところ、全員が法律の明確化が急務であると述べている。平等・人権委員会も同意見である。
英国平等法の「性別」が生物学的性別(biological sex)であると明記すれば、女性専用(single-sex)のスペース、サービス、スポーツに関する法律がはるかに明確になり、組織が女性に対する責任と権利を果たすのに役立つだろう。これによって、ジェンダー適合によるトランスジェンダーの人々に対する差別禁止に関連する、この法律の重要だが別個のものである保護が損なわれることはない。
保守党には女性の権利と支援に関して多くの批判すべき点があるが、この問題については彼らは正しい立場だった。ただし選挙以前にこれを優先して行うべきだった。
では、なぜベイドノック氏の提案に対して狂気じみた怒りが湧き起こるのか。これは、オンラインで過ごす時間が長すぎる人によく見られる思考症状であり、批判能力を腐らせ、世界を漫画のようなヒーローと悪役の集まりとして見るように駆り立てられたものである。彼らにとって、保守党の政治家であるベイドノックは憎むべき存在なので、彼女が言うことは間違っていると考えるのだ。
特に左派を含む多くの男性が、男性の前で服を脱ぐことを強要されたり、トラウマについて語ったり、男性から身体的なケアを受けたりすることを望まない女性に対し、ほとんど共感を感じていないことも原因になっている。それらの問題は女性にとっては、当該男性がどのようなアイデンティティを持っているかには関係がない。
また、この明らかになった極度の非合理性は、黒人女性に課せられる基準が異なっており、より厳しい基準が適用されることも一因ではないかと私は疑っている。その女性がベイドノックの政治思想を持つか、ダイアン・アボット(労働党)の政治思想を持つかにかかわらず同様である。
労働党のベイドノック氏の提案に対する反応を丁寧に表現すれば、「法的に無知」ということになる。同党は、この分野の法律は明確であると主張しているが、実際は非常に不明確だ。
スコットランドの裁判所を経た司法審査の結果、今後近いうちに最高裁判所は、平等法における「性別(sex)」が議会において何を意味していたかを解釈しなければならない。
労働党は法律を変えるには議会しか権限がないにもかかわらず、法的拘束力のない指針(ガイドライン)で対応できると主張しているが、これは誤りだ。指針では法律を変えることはできない。できるのは議会だけである。私が話を聞いたある弁護士が言うように、労働党の立場は問題のある現状を維持することだ。法律を明確にせずに、GRC(ジェンダー認証証明書)取得をしやすくする計画を進めれば、事態をさらに悪化させてしまうだろう。
しかし、法律を理解しているジャーナリストがほとんどおらず、知識ではなく雰囲気に基づいて熱狂的な意見を表明する人々が多数いる現状では、労働党はこの問題から逃げ切れている。
それをベイドノックという邪悪な保守党の魔女の発案だと喜んで非難する評論家たちがいるのだから、本当にこの重要な問題の解決になぜ政治的資本を費やす必要があるだろうか?
これは双方にとって有利な状況である。評論家たちは、自分たちの「文化戦争」をパフォーマンス的に非難しながら、煽動するスリルを味わう。労働党の幹部は無能な曖昧さに対する責任を問われることがなく、自分たちの不適切なごまかしに対する責任を逃れる。
唯一の被害者となるのは、女性専用(single-sex)サービスにアクセスできないレイプやDV虐待の被害者の女性たちだけだ。
ソニア・ソダ氏は、英オブザーバー紙(ガーディアン)のコラムニスト、ジャーナリスト。
原文出典:"The Observer" 紙(英ガーディアン姉妹紙)(2024/06/09)
https://www.theguardian.com/commentisfree/article/2024/jun/09/the-law-on-single-sex-spaces-is-a-mess-it-needs-fixing-not-political-point-scoring
(和訳:日文越境列車研究服務機構*、他協力人員)