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"英国の総選挙でフェミニストの票を得るべき政党はない" (翻訳記事)

ジェンダーをめぐる文化戦争の中で、女性の人権と安全を最優先する私たちには政治的な場所は存在していない
by  Julie Bindel  ジュリー・ビンデル(ジャーナリスト/作家)

アル・ジャジーラ 英語版(Al Jazeera English)オンライン
オピニオン記事 (2024年6月20日掲載)

女性の権利を守るために闘う私たちフェミニスト、特に男性による暴力を終わらせ、女性専用のための性別に基づく(single-sex)空間とサービスを確保しようと取り組む人々にとって、間もなく行われる英国の総選挙は地雷区域のようなものです。

この国の女性の人権活動家の大多数は、私も含めて政治的左派の立場に属しています。私たちは、不平等を根絶するためには、男性支配(家父長制)、資本主義、そしてこの二つの交差地点にある構造を理解することが不可欠だと考えています。女性の権利を持続可能な形で確保するには、構造的な抑圧という根本原因に取り組まなければならないことをフェミニストは理解しています。

私は、すべての女性が解放されるためには、私たちの社会のあらゆる側面を形づくり続ける構造的不平等を終わらせる必要があると信じています。そのため、英国社会で不平等と不正を一層深刻化させようと公に活動している保守党に投票することは、決してできません。

さらに、女性の人権とニーズに関する保守党の実績は、客観的に言って悲惨です。長期政権を維持するうち、保守党は、暴力的な関係から逃れようとする女性への支援サービスの適切な資金提供を一貫して怠り、最も恵まれない立場にある女性の窮状と苦しみを無視してきました。また、刑事司法制度をほぼ破壊し、女性や少女に対する暴力の加害者の多くが、法廷に立つことさえなくなりました。女性の権利に対する保守党の支援は、主に「ガラスの天井」を打ち破ることだけに焦点を当ててきましたが、それはすでに最も特権的な立場にある女性、約5%にしか影響しません。

保守党はまた、性別(sex)とトランスジェンダーのアイデンティティをめぐる広範な混乱に上手く対処できず、過去数年間、女性の人権と安全について深刻な影響を及ぼしてきました。保守党の指導の下、多くの女性と男性が、生物学的な性別が現実であることを述べ、ジェンダー・イデオロギーに屈することを拒否しただけで、裁判所や雇用審判所での法的闘争を強いられました。単なる事実、つまり性別(sex)は2つしかない、と明白な事実を言うことが英国で容認されるために法廷で闘わなければならなかったことは、私にとって許容できないことです。

長年にわたり、保守党には2人の女性党首と多数の女性大臣がいましたが、女性の権利と関心事を優先事項として扱ったことはありませんでした。これらが、100年以上の歴史の中で女性党首を選出できなかったにもかかわらず、英国の人々の多くが労働党を "女性に最も配慮する政党" だと見なしている理由です。

しかし、労働党の女性の人権問題についての記録はとても完璧ではありません。主要野党として、労働党性別(sex)の生物学的現実を否定し、女性の人権を犠牲にしジェンダー・イデオロギーを英国社会に押し付ける人々に完全に屈服することで、女性たちをひどく失望させてきました。

英国の制度がイデオロギーに乗っ取られることに意味ある抵抗をせず、女性の権利を主張したことで絶え間ない嫌がらせに苦しめられた女性たちにも、ほとんど注意を払ってきませんでした。実際、スコットランド労働党は自党議員であるロージー・ダフィールド(Rosie Duffield)議員が女性の人権を主張したことで受けた脅迫と虐待を守るための措置さえ全く取りませんでした。

スコットランド労働党の選挙公約は、性別(sex)とジェンダーを混同し、それに伴う危険性の認識を受け入れることを拒否することで、党が深い穴に落ち込んでいる姿勢をよく示しています。

その公約では、重要な契機となったキャス・レビュー報告書の勧告(「ジェンダーに関する苦しみを管理するための医療介入の長期的成果に関する良い証拠はない」と結論付けた)を実施することと、「トランスジェンダー包摂のため完全な "転向療法の禁止"」とジェンダー認証法(GRA, The Gender Recognition Act)の「煩瑣で時代遅れの制度」を「近代化、簡素化、改革し」「トランスジェンダーの人々に尊厳を提供する」ことを約束しています。これらの公約は、互いに矛盾しているだけでなく、これらの政策が女性の権利へ与える影響についても一切触れられていません。

労働党の公約では男性による女性や少女への暴力に取り組むことを約束していますが、DVシェルター、性暴力クライシスセンター、病院の入院病棟、女子刑務所が、自らを「女性」と自認(identify)するすべての男性に開放されることになれば、これらが不可能になるだろうことを認めていません。現在、この問題に関する法律は不明確です。その理由の一部は、ストーンウォール(LGBTQ+の権利団体)が多くの機関に "ジェンダーアイデンティティ" という概念を信じ込ませたためです。

ジェンダー・アイデンティティは英国平等法の保護対象の特性ではありません。しかし、スコットランド労働党が望むように、ジェンダー認証特例法(GRA)を「煩瑣で時代遅れ」ではないものに改革すれば、女性専用(single-sex)スペースを女性専用(single-sex)のままにしておくことはほぼ不可能になるでしょう。

この問題に関する緑の党の立場はさらに極端であり、「セルフID制」を導入し、医学的診断なしに法的性別を変更できるようにしたいと言っていますが、これが女性にどのような影響を与えるかには一切触れられていません。

自由民主党(The Liberal Democrats, 英)も、男性が政府発行の「女性」のID証明書を取得するのを容易にすることに取り組むようです。さらにいわゆる「ノンバイナリー」のアイデンティティにも法的承認を与えたいと述べています。女性の権利を保護している現行の法規定は、すべての人が生物学的性別である男(male)・女(female)、2つのいずれかであることに基づいているため、これでは女性の人権が危険にさらされることになります。

女性の権利について悪い実績を持つにもかかわらず、今回の選挙では、保守党だけが、性別(sex)とジェンダーの問題に対する賢明な計画を含む選挙公約を持っているようです。保守党の公約は、生物学的性別(sex)とジェンダーアイデンティティの決定的な違いを認識し、ジェンダーに疑問を持つ人々への証拠に基づいた倫理的な対話療法の禁止につながる「転向療法」を禁止するという以前の公約から撤退しています。また、キャス・レビューの結論を踏まえ、再選された場合、保守党は「この分野での追加的な法整備について、最終的な判断を下すまでにもっと時間をかける」と説明しています。

女性の権利を長年にわたり侵害し、フェミニストの主張を軽視してきた保守党が、ジェンダー・イデオロギーに対するフェミニストの異議を真剣に受け止めている唯一の党であるように見えるのは、まさに驚くべきことです。

保守党がこの選挙で "女性の権利を擁護する政党" として自らを位置づけることができているのは、労働党が自党の活動家のうち双方の要求を満たせず、ジェンダー・イデオロギーに関する女性の懸念に目をつぶることを選んだからです。

しかし、このジェンダーアイデンティティの熱狂を最初に主流に持ち込んだのは、保守党だったことを忘れてはいけません。

2016年、保守党のマリア・ミラー女性・平等相は、トランスジェンダー平等に関する調査を主導し、個人が誰でも自身の「ジェンダーアイデンティティ」に応じて、男性または女性とみなされるかどうかを決められる「ジェンダー・セルフID」の原則を英国が法的に採用することを強く推奨しました。そのような法律が採用されれば、生物学的性別(sex)は法的な意味において無意味なものにされ、女性専用(single-sex)スペースを男性に開放することになったでしょう。

これが、英国におけるジェンダーをめぐるいわゆる「文化戦争」の始まりでした。フェミニストにとっては、長い年月、闘い取ってきた性別に基づく権利(sex-based rights)を守り抜くことが急務となりました。

今日において、かつてマリア・ミラー調査でこの「戦争」を始めた保守党の議員たちは、私たちの見方であるふりをしています。それは、女性の権利を本当に大切にしているわけではなく、単に政治的に都合がよく、レズビアンとゲイの人々をいつも好んでこなかったことと同様に、トランスジェンダーの人々を好きでないからに過ぎません。女性の性別に基づく権利(sex-based rights)を守り、フェミニストの側を支持することに新たに関心を寄せているのは、単に「敵の敵は味方」という単純な話に過ぎません。彼らは、本当には私たちフェミニストの味方ではありません。

では、私はこの選挙でどのように投票すべきでしょうか? 投票用紙を無効にしないならば(そうするのはとても誘惑的ですが)、そうしないとすれば、労働党に投票するしかありません。

しかし、もしそうするなら、党とその内部で闘い、その党史上で初めて女性の権利が最も適切に優先されるよう、現実の持続可能でラディカルな変化を実現するために尽力しなければなりません。

(原注:本記事で述べられている意見は著者(原記事)自身のものであり、アル・ジャジーラ英語版の編集方針を必ずしも反映しているわけではありません)

原文(アル・ジャジーラ英語版):
 
https://www.aljazeera.com/opinions/2024/6/20/no-party-deserves-the-feminist-vote-in-the-uk-election

※ 日本語訳:日文越境列車考究小組  6/20
(当和訳について、誤訳やミスなどの責任は全て訳者にあり)

photo: Angelina Bambina (iStock)
https://www.instagram.com/angelina_bambina_dsgn/


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