20200619
セミの声
家電量販店に行くと、録音されたセミの声がフロア中に響き渡っていた。
その声は、ポータブル扇風機や涼感グッズなどが陳列されているコーナーで再生されていた。セミの声はそこでは「鬱陶しく、忌避すべき夏」を象徴しており、その「夏」をできるだけ快適に過ごすための商品が対抗馬として選出され陳列されていた。
人間の記憶は幸福なものも不幸なものも、いとも簡単に呼び起こされてしまうものだなと思う。
セミの声が思い出させるのは、「不快な夏」だけでなく、「飛ばしたスイカの種の軌跡」や「アイスクリームの形をした入道雲」や「土に埋められた金魚」など人によって様々だ。
セミの声は音だが、もっと直接的なものとしては、故人を思い出させるための墓があるし、危機を救った英雄に感謝を捧げさせるための記念碑や銅像があるし、ドイツの「つまずき石」もそうだ。
何もない場所でつまずくようになんのきっかけもなく急に思い出すこともあるし、小指をタンスの角にぶつけるように強制的に思い出させられることもある。