ミントジュレップを握りしめて~2000ギニー&ケンタッキーダービー編~

” The Most Exciting Two Minutes in Sports "
~スポーツの中で最も偉大な2分間~

 これは、アメリカのケンタッキーダービーの別名である。「競馬界の中で」、「アメリカの中で」などではなく、「世界中の全てのスポーツの中で」最も偉大な2分間である。かなりの傲慢さを感じさせる別名だが、全米での視聴者数は1,437万人(2021年)である。この人数を見ると納得せざるを得ない。
 ケンタッキーダービーにおいて欠かせないのがミントジュレップという飲物である。バーボンウイスキーをベースとするカクテルだ。ケンタッキーダービーが行われるチャーチルダウンズ競馬場ではオフィシャルドリンクに指定されており、ミントジュレップを飲みながら観戦する人が多数いる。ちなみに、あんまり美味しくないらしい。

 今回の記事は番外編。いつもとは異なり、海外競馬に目を向けた記事である。主に、日本時間5月6日の夜に行われるイギリスの2000ギニーと5月7日の朝に行われるアメリカのケンタッキーダービーを取り上げる。

2000ギニー

 まずは日本時間6日土曜深夜にニューマーケット競馬場(ローリーマイルコース)8ハロンで行われる2000ギニーについてである。このレースはイギリスの牡馬クラシック三冠の一冠目であり、日本の皐月賞の模範となったレースである。
 今年は15頭が登録している。(数字は馬番)
1 Auguste Rodin 2.62
2 Cairo 51.0
3 Chaldean 6.0
4 Charyn 51.0
5 Dubai Mile 34.0
6 Flight Plan 51.0
7 Galeron 101.0
8 Hi Royal 67.0
9 Holloway Boy 26.0
10 Indestructible 17.0
11 Little Big Bear 5.5
12 Noble Style 17.0
13 Royal Scotsman 9.0
14 Sakheer 8.0
15 Silver Knott 13.0

 イギリスではシーズン初戦に2000ギニーを使う陣営が珍しくなく、むしろ多数派である。つまり、昨年の2歳G1の結果がそのままオッズに反映されていることが多い。そこで、昨年の欧州牡牝混合2歳G1について復習する。

フェニックスS(アイルランド、カラ1200m)
1 Little Big Bear 2 Persian Force 3 Shartash
モルニ賞(フランス、ドーヴィル1200m)
1 Blackbeard 2 Parsian Force 3 The Antarctic
ヴィンセントオブライエンナショナルS(アイルランド、カラ1400m)
1 Al Riffa 2 Proud and Regal 3 Shartash
ミドルパークステークス(イギリス、ニューマーケット1200m)
1 Blackbeard 2 The Antarctic 3 Persian Force
ジャンリュックラガルデール賞(フランス、ロンシャン1400m)
1 Belbek 2 Gamestop 3 Breizh Sky
デューハーストS(イギリス、ニューマーケット1400m)
1 Chaldean 2 Royal Scottsman 3 Nostrum
フューチュリティトロフィー(イギリス、ドンカスター1600m)
1 Auguste Rodin 2 Epictetus 3 Holloway Boy
クリテリウムドサンクルー(フランス、サンクルー2000m)
1 Dubai Mile 2 Arrest 3 Adelaide River
クリテリウムアンテルナシオナル(フランス、サンクルー1400m)
1 Proud and Regal 2 Espionage 3 Salt Bay

 2000ギニーの出走予定馬は太字にした。2歳G1戦線で活躍した馬のうち、6頭が出走する。
 この世代で唯一欧州2歳G1を2勝した牡馬であるBlackbeardは昨年の欧州最優秀2歳牡馬に輝いた。しかし、昨秋に故障が発覚し即引退、種牡馬入り。主役不在の中、春のクラシックが始まる。

 一番人気はAugust Rodin。アイルランドの名門、オブライエン厩舎の所属である。鞍上はエースジョッキーのライアンムーア。ここまで4戦3勝。唯一の敗北を喫したデビュー戦は、後にベレスフォードステークス(G2)を制するクリプトフォースに敗北。
 この馬はディープインパクトのラストクロップである。欧州でG1を3勝したロードデンドロンとの仔。サクソンウォリアー以来5年ぶりのディープ産駒の2000ギニー制覇なるか。
 二番人気はLittle Big Bear。オブライエン厩舎2頭目。鞍上は未定。通算5戦4勝。デビュー戦2着のあと、4連勝でG1のフェニックスSを制覇。このレースが圧巻のパフォーマンスだった。1200m戦で2着につけた着差は7馬身。2着のPerisian Forceは決して弱い馬ではなく、モルニ賞2着、ミドルパークS3着の馬である。ノーネイネヴァー産駒ということもあり早熟すぎる可能性もあるが、ギニーでも強さを見せる可能性は大いにある。
 三番人気はChaldean。イギリス、ボールティング厩舎の所属。鞍上はランフランコ・デットーリ。彼は今年での引退を表明しているので、最後の2000ギニー騎乗となる。通算6戦4勝。デビュー戦こそ5着に敗れたものの、そこから4連勝でG1制覇。デューハーストステークスはスタートで若干後手を踏みながらも先手を奪い、最後はロイヤルスコッツマンの猛追を抑えて逃げ切った。今年に入り、前哨戦としてグリーナムS(G3)に出走したが、スタートでまさかの落馬。本番では気を付けて頂きたい。
 四番人気はSakheer。イギリスのヴァリアン厩舎所属。鞍上はイーガン騎手。4戦3勝。昨秋にG2のミルリーフSを3馬身半差で快勝した。
 五番人気はRoyal Scottsman。イギリスのポール&オリヴァー・コール厩舎所属。鞍上はJ.クロウリー騎手。6戦2勝、G2リッチモンドSを勝利し、デューハーストSで2着。
 ここまでがオッズ1桁台。

Silver Knott(アップルビー厩舎、ビュイック騎手)は6戦3勝。G3を2勝、G1BCジュヴェナイルターフ2着。
Noble Style(アップルビー厩舎、J.ドイル騎手)は3戦3勝、G2ジムクラックSを勝利。
Indestructible(バーク厩舎、ストット騎手)は5戦2勝。今年に入りG3クレイヴンSで重賞初制覇。重賞で2度シャルディーンの2着に入っている。
ここまでが20倍以下である。

2000ギニーは以上。

ケンタッキーダービー

 続いて、日本時間7日の朝にアメリカのチャーチルダウンズ競馬場、ダートコース2000mで行われるケンタッキーダービーについてである。全米最強3歳馬決定戦であり、アメリカの競馬で最も人気があるレースである。イギリスのグランドナショナル、日本の有馬記念、オーストラリアのメルボルンカップ的な位置づけ。
 日本からは2頭が出走。それでは上位人気の紹介だ。

15 Forte 4.5倍(プレッチャー厩舎、I.オルティスJr.騎手)
 プレッチャー調教師は3頭出し。いずれの馬も上位人気馬である。2017年のAlways Dreaming以来、3度目のケンタッキーダービー制覇を狙う。
 一番人気のForteは7戦6勝。2歳時にBCジュヴェナイルを含むG1を3勝。今年に入って既に2戦を消化しており、前走G1フロリダダービーも中団からやや後方の追走からひとまくりで勝利した。この時の勝ちタイムはかなり良かった。ケンタッキーダービーの一番人気馬にしては珍しく、中団からレースを進めるタイプの馬である。これがどう出るか。
 鞍上のI.オルティスJr.騎手はアメリカでG1を50勝以上している名手だが、まだケンタッキーダービーを制したことはない。悲願の初制覇なるか。これまでの最高着順は2019年、一番人気のインプロバブルでの4着。この時も後ろから行く馬だった。
追記:出走取消となりました。


5 Tapit Trice 7.0倍(プレッチャー厩舎、L.サエス騎手)
 プレッチャー厩舎の2頭目。3戦3勝の無敗。今年に入り、G3のタンパベイダービーとG1のブルーグラスSを連勝している。前走のブルーグラスSではスタート後中段につけ、向こう正面に入ったところで徐々に進出を開始。最終コーナーで先頭に並びかけ、最後はVerifyingとのマッチレースを制した。
 この馬もテンは速くなく、前々走のタンパベイダービーではジョッキーが促しても最後方からのスタートだった。道中徐々にポジションを上げ、最後は外から豪快な差し切り。先行有利のケンタッキーダービーでも同じパフォ―マンスができるかどうか。芦毛ということもあり、スタート直後にこの馬だけガシガシ動いている様子を見るとゴールドシップを思い出させる。

14 Angel of Empire 8.5倍(コックス厩舎、プラ騎手)
 3番人気、4戦3勝のこの馬。前走はG1アーカンソーダービーを制した。今年に入り、G2リズンスターSから2連勝を飾っている。
 アーカンソーダービーでは先団の後ろを追走し、3角から馬群の外を上がっていく。4角で先頭に並びかけ、あとは突き放す一方。完勝であった。
 おそらく、ケンタッキーダービーでも中団辺りを追走するのではないかと予想される。

10 Practical Move 9.0倍(ヤクティーン厩舎、ヴァスケス騎手)
 4番人気、7戦4勝。現在3連勝中で、前走は日本のマンダリンヒーローをハナ差抑えてサンタアニタダービーを制した。前々走のサンフェリペステークスにしても前走にしても、好位のインで進めて抜け出す戦法を取っている。今年の人気馬ではこのようなレースをする馬は少なく、枠も10番と悪く無いのでスタートさえ出られれば自分のレースができそう。
 追記:熱発のため出走取消となりました。

17 デルマソトガケ 11.0倍(音無厩舎、ルメール騎手)
 5番人気タイ、8戦4勝。前走は海外2戦目、G2のUAEダービーを勝利した。全日本2歳優駿やサウジダービーでは逃げなかったが、前走はすんなりハナを奪うことができた。これは他にテンの速い馬がいなかったことが最大の要因だろう。ペース的にはキングズバーンズのルイジアナダービーと同じようなものであった。ただ、サウジダービーの追走ペースを考えると、ケンタッキーダービーでも先団で追走することは不可能ではないと考える。1600mはこの馬にとって若干短かったような感じもする。あとはチャーチルダウンズの直線でアメリカの強豪相手にどこまで食らいつけるかだ。日本調教馬史上最大の快挙の可能性は十分にある。

6 Kingsbarns 15.0倍(プレッチャー厩舎、J.オルティス騎手)
 5番人気タイ、3戦3勝。前走は初の重賞挑戦、G2のルイジアナダービーで3馬身半差の圧勝。逃げ切りを飾ったが、ペース自体はかなり遅く、ケンタッキーダービーでは最初の400mをもう2秒、最初の800mをもう3秒速く走ることになるだろう。ケンタッキーダービー特有のハイペースをこなせるかどうかが注目だ。

2 Verifying 15.0倍(コックス厩舎、ガファリオン騎手)
 7番人気、6戦2勝。重賞勝利経験こそないものの、前走のブルーグラスSでは最後までTapit Trice相手に抵抗した。前々走のG2レベルSの4着は、若干騎手が下手に乗った印象がある。脚質は先行。重賞初制覇がこのケンタッキーダービーとなってもおかしくない。そのポテンシャルは十分にあるだろう。

8 Mage 15.0倍(デルガド厩舎、カステリャーノ騎手)
 8番人気タイ、3戦1勝。重賞未勝利。前走はフロリダダービーでForteの2着だった。前走はスタートで出遅れ、最後方からレースを進めるも、最終コーナー手前で先にフォルテより前に出た。コーナーで一番外を回った分最後に差された、立ち回りの差だったという風に見ることもできる。未勝利戦しか勝っていない馬が20倍を切るオッズとなっているのはこのような見方があるからだろう。前々走のG2ファウンテンオブユースSの4着をどう捉えるか。

9 Skinner 15.0倍(シレフス厩舎、ヘルナンデス騎手)
 8番人気タイ、6戦1勝。重賞では3着が最高。それも離された3着が多く、唯一善戦したのは前走のサンタアニタダービーの3着ぐらい。その一発だけで比較的高い人気に推されている。この馬基準で考えればサンタアニタダービーのレベルは疑問だが、タイムを見るとハイレベルとは言えなくとも低レベルではないはず。急成長を遂げている可能性がある。
追記:熱発のため出走取消となりました。

22 マンダリンヒーロー 15倍(藤田輝信厩舎、木村和士騎手)
 上位馬の出走取消により、滑り込みで出走を果たした。昨年は補欠馬だったリッチストライクが優勝。ラッキーボーイの番狂わせに期待したい。
 6戦4勝、2着2回とパーフェクト連対。ずっと大井で走っていたが、前走はアメリカに遠征しサンタアニタダービーに出走。アメリカの土が合っていたのか、大健闘のハナ差2着。アメリカと日本に衝撃を与えた。
 アメリカで一戦使い、陣営は良い調整を段々と掴み始めたという。ひょっとすると、地方調教馬が全米の頂点に立つアメリカンドリームが見られるかもしれない。

ここまでがオッズ20倍以下。残りの馬は割愛するが、主要プレップの2、3着であるか、ややレベルの低い重賞を勝ったような馬たちだ。レース映像やラップタイムを見て、光るものがあれば人気薄でも侮れない。


20 コンティノアール 67倍(矢作厩舎、坂井瑠星騎手)
 現在のところ最低人気。5戦2勝。今年はサウジダービーで5着、UAEダービーで3着だった。もちの木賞では僅差だったとはいえ、ここ2戦の海外レースの内容をデルマソトガケと比較すると、力の差があることは否めない。それでも、この舞台に出走までこぎつけたことが素晴らしいし、調教師は世界のYAHAGIである。坂井瑠星には思い切って乗ってほしいところだ。
 追記:歩様に乱れが見られたため、出走取消となりました。

 今回は2000ギニーとケンタッキーダービーの出走馬の紹介だった。私の脳内の整理も兼ねていたため、良い記事になった。ありがとうございました。