これが競馬の恐ろしさ
11/10(日)、京都競馬場を舞台にエリザベス女王杯が行われる。昨年、4年ぶりに京都に帰ってきたエリザベス女王杯では、Cルメール騎乗のブレイディヴェーグが重賞初制覇をG1勝利で飾った。
そのブレイディヴェーグ、今年は翌週のマイルCSの方に向かう。陣営の真意は定かではないが、昨年優勝したレースを回避するのはなぜだろうか。
それはともかくとして、ルメールは今年レガレイラに騎乗。ブレイディヴェーグと同じく、サンデーレーシングのG1馬である。ただ、このレガレイラは今年、皐月賞6着、ダービー5着、ローズS5着と奮わない。たしかに牡馬相手にダービーで掲示板に入ったことは立派であるが、やや伸び悩んでいる印象だ。ただ、2歳で牡馬相手にG1を優勝した実績を買われ、オッズは1倍台になりそうである。
サンデーレーシングの馬で、後方からレースを進める3歳の牝馬が単勝1倍台。ここまで揃うとあの伝説のレースを思い出す。2009年のエリザベス女王杯だ。
ブエナビスタ猛追
2009年の牝馬三冠路線。主役は紛れもなくブエナビスタだった。前年の阪神JF、桜花賞、オークスを異次元の末脚で制し、最後の一冠秋華賞へ。いつも通り後方からレースを進め、最後の直線では馬群に包まれる。前を行くのは桜花賞、オークス、前走のローズSでいずれもブエナビスタに敗れたレッドディザイア。「三冠か!?最後の一冠か!?」オークス同様、並んだどころがゴール。しかし、オークスの時とは違いレッドディザイアの方がハナ差前に出ていた。ブエナビスタは惜しくも三冠達成はならなかった。(2位入線、降着により3着)
ただ、内容的には負けて強しの内容。次走のエリザベス女王杯でも単勝1.6倍の圧倒的一番人気。G1レース4勝目に向け、京都競馬場に詰めかけた観衆の視線を一身に受ける。
スタートするとブエナビスタはいつも通り後方集団に位置した。前に行ったのはクィーンスプマンテとテイエムプリキュア。前走の京都大賞典では、テイエムプリキュアが逃げてクィーンスプマンテが2番手につけたが、いずれも大敗(14着と9着)。今回はクィーンスプマンテが先手を奪い、テイエムプリキュアが2番手につけた。
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何気ない序盤の逃げ争い。しかし、京都大賞典とは全く違っていた。先頭と2番手が逆だったというわけではない。
京都大賞典前半600m 12.7-10.9-11.0
エリザベス女王杯600m 12.5-11.3-12.2
京都大賞典のコースである芝2400mの方がスタートしてから最初のコーナーまでが長く、逃げ争いが長期化しがちである。そのため、2F,3F目まで全力で飛ばしていた。これでは最後まで持たない。
一方、芝2200mのエリザベス女王杯では比較的すぐにコーナーが来ることもあり、逃げ争いが落ち着いた。最初の2Fこそ飛ばしているが、ある程度じんわりと。そして、3F目にはもう流れが落ち着いているのである。実は序盤から、怪しい雰囲気が漂っていたのだ。
前の2頭はぐんぐん飛ばして2コーナーを回って向正面へ……行ったかに見える。ただ、これも言うほど飛ばしてはいない。
京都大賞典前半1000m 59.1
エリザベス女王杯1000m 60.2
前走の京都大賞典よりも1秒以上遅い。3F目の貯金がそのままあるにもかかわらず、大逃げの形になった。なぜこのペースでこの逃げになったか。それは、カンテレ実況の馬場鉄志アナウンサーがヒントを出していた。「問題は3番手だ、リトルアマポーラ3番手」
もちろんこの実況は当初、「前の人気薄2頭よりも、人気を集めていたリトルアマポーラの方が重要である」という意味だった。しかし、皮肉にも「(大逃げになった理由として)問題は3番手だ。」ということになってしまった。
どういうことか。その原因はリトルアマポーラに騎乗していたクリストフ・スミヨンにある。スミヨンはヨーロッパの名手であったが、この年の来日は6年ぶりだった。ヨーロッパにおいては、大逃げする馬はいわゆる「ラビット」と呼ばれる役割であることがほとんどであり、勝ちにいかずにペースを釣り上げることが多い。しかし日本では勝ちに行く戦法として稀に大逃げがある。それなのにスミヨンは完全に前の2頭を無視していた。あくまでマイペースを貫き、3番手を追走した。すると2頭はいつの間にか遥か遠くに離れていた。
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横山典弘はこのタイミングでポジションを上げ始めた。
いち早く異変に気づいたのはカワカミプリンセス騎乗の横山典弘だった。さすが、セイウンスカイとイングランディーレで京都の長距離を逃げ切った男である。3番手以降の馬群の流れが遅いと見るや、すぐに上がっていった。これを見て、ブエナビスタと安藤勝己も上がっていく。場内は最初、坂の上りで早くもこの2頭がポジションを上げたことで歓声が上がった。しかし、観衆はここから前に目をやる。
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青帽のカワカミプリンセスはもう4番手
ピンク帽、16番ブエナビスタも10番手まで上がる
気づいたら坂の下りも終わりかけなのに、全く差が詰まっていない。次第に歓声はどよめきに変わる。スミヨンはそれでもまだマイペース。横山典弘は慌てる。安藤勝己は仕掛けたものの、4コーナーで先頭に取り付いたつもりであった。が……
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遥か前にまだ2頭いる。直線でようやく気づき、懸命に追う安藤勝己とブエナビスタ。しかし、前半楽をした分だけ2頭は脚が溜まっている。
「これはとんでもない波乱になるのか!とんでもない波乱になるのか!これが競馬だ!これが競馬の恐ろしさ!ブエナビスタ猛追!ブエナビスタ猛追!しかし!しかし!クィーンスプマンテ!!!」
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結局、逃げた2頭が残ってワンツー。馬単は驚異の250,910円だった。
世紀の大逃げワンツーフィニッシュは、実は起きるべくして起こっていたのである。
今年のエリザベス女王杯
先ほども書いたように、レガレイラを見るとブエナビスタを思い出す。それは単にサンデーレーシングだからというだけでなく、後方からレースを進めるタイプだからだ。
私は以前のルメール考にて、レガレイラは危ないとバッサリ切っている。
レガレイラは後方からレースを進めるが、どちらかと言えば行き脚がつかないタイプの馬である。この手の馬はルメールが苦手とする馬だ。ルメールは気性難の馬を折り合わせることに関しては日本一だが、前進気勢があまりない馬に乗せると持ち味が生きないのである。シュネルマイスターもそうだった。
関西輸送とか淀の坂とかその辺の不安要素はどうでもいい。やってみないと分からないからだ。しかし、馬のタイプだけ見ると間違いなくルメールとってのベストではないはずだ。
他の出走予定馬も人気順に紹介する。
2番人気はホールネス。前走、新潟牝馬S(L)を制した。前々走の重賞、マーメイドSは52kgという比較的軽斤量で3着。
3番人気はシンティレーション。前走の府中牝馬Sではブレイディヴェーグの2着。最後に鋭く伸びた。ただ、これまではどちらかというと先行〜好位差しの馬。脚質転換が功を奏すか。それとも元に戻すのか。鞍上のマーカンドはどちらかというと先行タイプなので、前に行かせるのではないかと考えている。
4番人気はサリエラ。今年はダイヤモンドSで惜しい2着。スタミナはあるが、G1の舞台で通用するスピードがあるかどうか。昨年は大敗したが、今年はライアン・ムーア鞍上で一味違うか。
5番人気はシンリョクカ。前走は新潟記念で初の重賞制覇を飾った。2歳時の阪神JF以来、長らく馬券内入りはなかったが、前走、前々走ともに馬券に絡んでいる。
6番人気はスタニングローズ。2022年秋華賞覇者。前走クイーンSは見どころあるレースだった。ただ、2年以上も馬券に絡んでいないのはやはり気になる。
7番人気はハーパー。3歳時は善戦マン。しかし、有馬記念以降馬が変わったように凡走が続き、ここ2走連続で最下位である。今回はブリンカー(視野を狭める馬具)を着用。変わり身あるかどうか。
8番人気はコンクシェル。逃げ馬。今年の中山牝馬ステークスでは優勝したが、今回はやや距離が長い印象も。鞍上岩田望来騎手は天皇賞でホウオウビスケッツに騎乗し、逃げて3着だった。
9番人気はモリアーナ。後方からの追い込みが武器。戦績的には距離が長い方が合っているような気がしないでもない。
10番人気はライラック。今年は全て二桁着順。しかしなぜかこのレースでは阪神でも京都でも好走しており、一昨年は2着、去年は4着。「エリザベス女王杯専用機」として復活なるか。
11番人気はキミノナハマリア。京都での過去3戦はオール連対。特に重馬場で6馬身差を付けた北大路特別は中々の内容である。京都巧者、一発あるか。
12番人気はルージュリナージュ。重賞での馬券内の経験はないが、末脚を生かせる舞台では低人気でも関係なく突っ込んでくる。今年のヴィクトリアマイルでは13番人気ながら上がり最速の脚を使い、3着と4分の3馬身差の5着。かなり惜しかった。
13番人気はラヴェル。2歳時のアルテミスSで後の三冠牝馬リバティアイランドを倒して勝利して以来、馬券に絡んではいない。ただ、今年の京都記念では牡馬相手に善戦の5着。前2頭は抜けていたが、3着バビットとは0.1秒差。
14番人気はコスタボニータ。好走するのは小回り平坦1800〜2000という印象。前々走の小倉記念(中京2000m)ではハイペースを粘って2着。内で上手く立ち回りたいが、大外枠は痛い。
あと3頭はオッズ100倍台なので一旦省略。しかし逆にいえば、14番人気ぐらいまでは全然馬券内に絡むのが現実的であるということだ。
今回は本当に分からない。展開次第で全く変わってくるだろう。ただ、ルメールと武豊が乗る馬が後方から行きそうなのがポイントである。
他の騎手は、まずペースメイクを間違えない彼らを信用しきっている。ただ、ルメールのレガレイラは反応が遅く、武豊のハーパーは近走を見る限り馬にやる気がなく、後方ママの可能性がある。ちなみに、前回最初に危機に気づいた横山典弘はいない。
かつ、先行するのがマーカンド辺りだったらどうなるか。前を放っておいて楽に行かせてしまう可能性もあるのではないか。他にも先行しそうな騎手はいるが、どの騎手にしても、逃げ馬を捕まえるタイミングということに関しては信頼できない。
これで、天皇賞で自信を持った岩田望来が強気な、しかし絶妙なスロー逃げを見せれば……15年前の再現があっても驚かない。理想はコンクシェル逃げ、シンリョクカ2番手。
私は唯一前走で重賞を勝ったシンリョクカから広めに3連複流し、相手2,4,5,7,8,9,11,12,16。
レガレイラが飛んでくれれば万馬券であるが、今回レガレイラは連系でそこまで信用されていないのでこれで良いような気がする。
(追記)夢を追って3連単にした。
4⇔8→全。