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ジュース2本分のがんばれを握りしめて~天皇賞(春)~編

2017年4月30日

 当時、私は高校1年生であった。新旧菊花賞馬対決で盛り上がっていた第155回の天皇賞。一番人気はキタサンブラック。単勝オッズは2.2倍。二番人気はサトノダイヤモンド。単勝オッズは2.5倍。3番人気のシャケトラの単勝オッズが9.9倍だったことを考えると、二強ムードであったことが窺える。キタサンブラックとサトノダイヤモンドの馬連オッズが2.5倍だったことも納得がいく。


当時の特集号。公園でラジオを聞いたのが懐かしい



 私はキタサンブラックのファンであった。父ブラックタイドはディープインパクトの全兄だが、母の血統を踏まえると本来長距離戦は厳しいはず。それでも、丈夫な身体と圧倒的な調教量で徐々に実力をつけ、3歳時に菊花賞を制し、4歳では春の天皇賞とジャパンカップを制した。雑草魂という感じの強さが好きだった。
 対するサトノダイヤモンドは超良血。セレクトセールで2億3000万円で落札された。父はディープインパクト、母のマルペンサはG1を3勝。3歳時から一線級の活躍を見せ、皐月賞は3着、ダービーはハナ差の2着。菊花賞で悲願のG1初制覇を果たし、暮れの有馬記念でもキタサンブラックを倒した。でも、有馬記念はキタサンブラックの体調が悪かっただけだ!ちゃんとやったら強いのは絶対キタサンだ!!という思いでいっぱいだった。

 レースはヤマカツライデンのハイペースの大逃げで始まり、キタサンブラックは離れた2番手、サトノダイヤモンドは中団の外を追走する。最後のコーナー、キタサンブラックは絶好の手応えでヤマカツライデンを交わし、満を持して先頭に立つ。外から追い込むサトノダイヤモンドを抑えて見事に春の天皇賞連覇を達成した。勝ちタイムは3分12秒5のレコードである。サトノダイヤモンドは最後シュヴァルグランも捉えることができず、3着だった。

 この天皇賞の走りを見て、「自分もキタサンブラックみたいな雑草魂で、”サラブレッド”たちを倒して京都で輝くんだ!」という思いで受験勉強を頑張れた。今の自分があるのは紛れもなくキタサンブラックのお陰だと思う。

 そして、京大に受かったら京都競馬場で思う存分競馬を楽しむぞ!!と思っていた。

2020年5月3日

 当時、私は大学1回生であった。京大には受かったものの、コロナのせいで思い描いていたような大学生活を送れなかった。
 さらに。京都競馬場はスタンドの大改修工事のため、2020年の秋から2023年の春までレースが行われないことが発表された。控えめに言って絶望である。京都競馬場で競馬ライフを楽しむという私の大学生活の計画は幻と消えた。


コロナ禍の京都競馬場の入口。もちろん無観客開催のため入場はできない



 私は居ても立っても居られなかった。天皇賞の当日、レースの雰囲気だけでも感じようと自転車で京都競馬場まで行った。90分ほどかかったと思う。もちろん、コロナ禍で無観客開催が行われていたため、競馬場内に入場することはできない。入口の写真を撮り、競馬場の裏側から林の奥に僅かに見える馬たちを目に焼き付け、家に帰った。

3コーナー奥から。改修前の芝コースが見える。

 レースの方は連覇を狙うフィエールマンが最後にスティッフェリオをハナ差だけ交わしたというものだった。寮の部屋で、一人で実況動画を撮影したことを覚えている。


2023年4月30日

 私は大学4回生になった。待ちに待った京都競馬場でのG1レースである。

 先週、京都競馬場グランドオープンの週には土日連続で京都競馬場に行った。京阪電車の淀駅で降りたのは初めてだった。


通過するたびにスタンド建設の様子を見ていた

 京都競馬場の新スタンド、歴代三冠馬のメモリアルロード、楕円形のパドック、綺麗な馬場、コントレイル像……新たな京都競馬場を感じつつ、シンザン像やライスシャワーのお墓といったこれまでと変わらない京都競馬場も楽しんだ。高校から大学まで、現役時代リアルタイムで見ていたペルシアンナイトも誘導馬として頑張っている。


京都名物の円形パドックは無くなったが、これはこれで良い。


コントレイル像。側面には全戦績が載っている


昔からあるシンザン像。かっこいい。


ライスシャワーのお墓。今も多くの人が献花のために集まる 

 先週日曜日のメインレースはマイラーズカップ(G2)であった。一番人気のシュネルマイスターが快勝。前残り馬場もなんのその、G1馬の貫禄の差し切りである。

さすがG1馬、G2では敵なし。

 
 そして、今日。大学生になって初めての京都競馬場でのG1。春の天皇賞である。阪神競馬場では5度、中山競馬場でも1度G1レースを観戦したが、京都は初めてだ。


やはりG1となると皆テンションが高いよ

 家庭教師のアルバイトを終えて、13時過ぎに京都競馬場に到着。先週とは明らかに人々の熱気が違う。駅で「ここにいる人、誰も幸せそうじゃないな」と彼女に言っている男性には思わず吹き出しそうになった。やかましい。

 高校同期と合流し、馬券を購入する。この高校同期はいつもnoteに出てくる彼である。私と共に生徒会に所属していた。私が会長、彼が副会長。生徒会室でよくスポーツ新聞を広げて週末のレース予想をしたものである。やっていることは今も昔もあまり変わらない。
 
 私の今日の頑張れ馬券はタイトルホルダー。2017年も2020年も、キタサンブラックとフィエールマンが連覇を達成している。今年も昨年覇者のタイトルホルダーの連覇で間違いないだろう。最強ステイヤーの底力を見せてほしいという想いを込めた。


オープン記念の柄付き馬券

 高校同期はジャスティンパレスの単勝で勝負。今期はまだ勝っていないらしく、絶対に勝つと息巻いていた。

 ザ・チャンピオンと共に出走馬が本馬場に入場する。人気馬で唯一スタンド前に来たのはルメールとジャスティンパレス。観客の大歓声にも彼は動じなかった。


返し馬も素晴らしかった。

 各馬が向こう正面のゲート裏に移動し、タ
ーフビジョンで煽りVTRが流れる。観客のボルテージは最高潮。スターターが台に登り、旗を振る。実に917日ぶりに京都競馬場にG1ファンファーレが鳴り響いた。

 レースが始まる。観客から上がる大歓声。いつものようにタイトルホルダーが好スタートから先手を奪う。しかし外からアフリカンゴールドがハナを奪う。タイトルホルダーは2番手でレースを進めた。


ジャスティンパレスは一頭ポツンと追走。

 一周目のスタンド前、大歓声が上がる。アフリカンゴールドが早々に失速し、タイトルホルダーが再び先頭へ。2コーナーをカーブして向こう正面へ向かう。いよいよ2度目の坂越えである。私はこの京都の長距離戦の坂超えが大好物なのである。力が残っていない馬の哀愁も、後ろから差を詰めてくる馬への期待も、競馬の全てが詰まっている。久々にこの光景が見られたことに感動しつつ、先頭の一番人気馬に目を向ける。タイトルホルダーはじっくりと溜めてペースを落とし、縦長だった馬群が凝縮する。そしていよいよ坂の下り。各馬はここから仕掛けだす。タイトルホルダーはここから引き離すのがいつもの戦法だ。

 しかし、タイトルホルダーの行きっぷりがよくない。残り800mで早々とアイアンバローズに先頭を譲り、失速していく。明らかにおかしい。いつもとは雰囲気が違う。そして、遂には4コーナーで競走を中止してしまった。まさかこんなことになるなんて……

 最後の直線、まずは2年連続2着のディープボンドが悲願のG1初制覇に向けて先頭に立つ。外からルメールのジャスティンパレスが絶好の手応えで交わして突き放す。内で粘るディープボンドに、外から白い馬体が忍び寄る。シルヴァーソニックだ。しかしジャスティンパレスは止まらない。ディープボンドも粘りを見せた。最後は2馬身半差でジャスティンパレスが優勝。圧勝であった。2着は粘ったディープボンド、3着はシルヴァーソニック。


ジャスティンパレスは強かった。ディープボンドも頑張った。

 ジャスティンパレスが勝ったことは分かったが、それ以外の情報は全てVTRで分かったことだった。私は4コーナーで留まるタイトルホルダーのことしか考えられなかった。脚は大丈夫か……ゆっくり止まったし心臓系か……とにかく無事であってくれ、馬券の勝ち負けはもうどうでもいい……

 かつてのライスシャワーの悲劇が頭をよぎったが、タイトルホルダーは右前脚のハ行で命に別状は無かった。他にも、アフリカンゴールドは心房細動で競走中止、トーセンカンビーナは左前浅屈腱不全断裂で大差の15着入線となった。

 サラブレッドが最後まで無事に完走することの難しさを改めて思い知った天皇賞。タイトルホルダーにはまた元気な姿を見せてほしいものである。その時まで、私も頑張りたい。

ルメールは開催3日連続重賞勝利。令和の盾男である

 高校同期はタイトルホルダーの故障で複雑な思いをしつつも、見事に勝ち。旨い鰻を食べて帰って行ったそうである。

 次は競馬の祭典、日本ダービー。