
リアル異世界転生?
私は精神障害者雇用で、職場では内勤の事務仕事をしています。たまたまプログラマの職歴がわずかにあったため、それまではほとんど使ったことのないオフィスアプリ(エクセルなど)を習熟することになりました。
エクセルについてはインターネット上に無数の情報があり、むしろあり過ぎてITに馴染みがない人には雑音と必要な情報を識別するのが難しいほどですが、私は元々インターネットの住人なので、そこはいくらでも検索して自分が今必要な情報が存在すればたどりつくことができますし、それがエクセルの複雑な数式やエクセルのマクロ(VBAで書かれたコード)などであっても読み解く忍耐力があります。
なぜならば、それらはプロのプログラマが実務で格闘しなければならないコード(たいていは数千行以上あって、かつ自分自身で書いたものではありません。もしくはプログラミング言語やその言語で用意されているテンプレートの深い理解が求められます)よりも単純に短い(せいぜい数十行程度)からです。なおかつ、それらが実現する機能もオフィスアプリ上ですぐに実行して再現可能だからです。したがって、プログラマの世界、ITエンジニアの世界ではこの能力は強みにも何にもなりません。文字通り誰でもできます。ただ、エンジニアはそもそもWindowsのオフィスアプリを使うこと自体を面倒くさがるか、使わない可能性が知らないので、たまたま知らない可能性はあります。
一方、私の部署にいる人も業務に関連する法令の知識や公式非公式を問わないコミュニケーション能力には一般的な基準でみても圧倒的に優れているのですが、オフィスアプリの使い方については必ずしもこだわりがありません。つまり、ごく限定的な機能しか知らないのです。
そういうわけで、私は元々ほとんど知らなかったエクセルについて会社に入ってから学びました。例えば入る前はエクセルの「VLOOKUP関数」がどんなものかも知りませんでした。ただ、そういうものがあってそういう名前だということがわかれば、もちろん検索してそれがどんな機能を持つものなのか、どれぐらい使いにくいのかを理解することに拒否感はありません。むしろ今ではVLOOKUP関数よりも便利な新関数XLOOKUPを使っています(しかし他の人はVLOOKUPしかまだ知らない)。
結局、私は本業の事務仕事のほかで、私以外の従業員の人たちにエクセルを含むオフィスアプリの使い方を「伝授」する機会が多くなりました。もっとも、「伝授」といってもその機能を私が知ったのは40秒前に検索した結果からなのですが。私が務める会社自体はITのアプリやサービスを提供する会社ではないため、こうしたちょっとした「伝授」でも同僚の人たちにとってはおおいに助けになるようです。
なぜならば、オフィスアプリに関するノイズを含む大量の「お役立ち情報」の中で本当に今この場で役に立つ部分を抜き取って相手に合わせて提供することが当社のフツーの人にはできないみたいだからです。
私としては、いわゆる異世界転生した気分のまま、この数年を過ごしています。というのも、社会人経験、業務経験、法令知識、法令手続きの実務においてもすべて周りの人たちの方が優れていて、「先生」だと思っているのですが、話がオフィスアプリやパソコンのことになると急に自分が圧倒的に先生になるということ、それでいて、私ができることはほとんどすべてのITエンジニアにとってはできて当たり前過ぎることだというギャップがあるからです。それが東京のど真ん中の会社で生じていることにもめまいを憶えます。
本当にラッキーでした。
(1,487字、2024.06.15)