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二種類の目的因

アリストテレスは物事の原因を分類し、目的因という概念を立てた。

例えば、満腹という目的を持つことは焼きそばを食べることの原因である。なぜならば、焼きそばを食べれば満腹になるからである。また、健康という目的は、散歩の原因である。なぜならば、散歩をすれば健康になるからだ。

アリストテレスも当然理解してとっくに書いているかもしれないが、目的因には識別すべき2種類がある。すなわち、達成を引き起こす目的因と、状態・方向性の維持や安定性をもたらす目的因である。

例えば、その都度の食事による満腹は達成可能なので、達成可能な目的因である。一方、散歩によって実現する健康という目的はもっと長期的であり、例えば毎年達成されているとも解釈できるが、「健康」という、それ自体は達成不可能な理想状態もしくは完全な均衡状態を目指しているとも解釈できる。

散歩によって健康をキープするというのは達成的な目的因とも状態維持的(衛生的)な目的因とも解釈可能だが、純粋な状態維持的な目的因の例としては「北極星」が挙げられる。なぜならば、例えば船乗りが北にある目的地の港に到着することは実際に可能だが、そのために利用した北極星に実際に到達することはないし、またその必要も意図されないからである。

しかし、到着が達成されなくてもなお、北極星は目的因の一種である。なぜならば、航海の針路修正という目的に対しては北極星は原因だからである。我々は大地が球面であることや、北極の存在を仮に信じなかったとしてもなお、北極星をたよりにして「北を目指す」ことができる。言い換えれば、ここでは究極的な到達点の存在はまったく必要ないのである。

このことを利用して、我々は自分たち自身で一種の理想や方向性を発明することができる。例えば、仮に死後に魂が裁判にかけられ、生前の行為の良し悪しによって賞罰が授けられるという神話をつくり信じているとしたら、我々は生きている現在のおこないを、誰もみていないところでも邪悪なものにしないでおこうという動機づけを得ることができるかもしれない。仮にそう信じ切っている場合でも、邪悪な行為を回避するのは、死というヴェールの向こうにある目的因(死後の罰)のためであって、むろん世俗の世界に生きているうちに死後の罰を受けるとは思っていないのである。

そして、この死後の裁判所が使っている道徳の法典を適切にコントロールすれば、つまり、到達不能な理想状態をうまく仕込むことで、反対にある現世での生活でも便益を得るかもしれない。すなわち、神話の効用、プラトンが言う「高貴なウソ」の効用、北極星の効用、行為へのリフレーミングの効用はうまく使えば我々の未知の領域やそれがなければ想像もできなかった良い状態に近づけてくれるかもしれない。

今回は、現実に到達可能な目標(不自由な目標)と現実には到達不能だが自由に設定可能な目標=方向性=理念について、字面は似ていても区別できるという話をした。

(1,218字、2024.10.04)


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