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書くと読む、その違い
※AIの助けを借りて作成された文章です。
しかし、〈書く-読む〉というのはやはり 通常のコミュニケーションにおける話し手-聞き手と同じ仕方で具体的なペアが固定されていない点で──つまり、読み手が誰になるか書く時には分からない/決まっていないという点で───特殊な営みという気がする
— はるか (@hrk_book) January 13, 2025
「だけどさ、〈書く-読む〉ってさ、普通の会話とちょっと違うじゃん?」
そう言いながら、彼女はグラスを持ち上げ、薄い赤ワインを一口含んだ。その表情にはどこか不安げな色が浮かんでいる。
「どういう意味だ?」
僕はテーブルの端で煙草をもてあそびながら聞き返す。彼女がこうした抽象的な話を始める時は、大抵何か深いことを考えている時だ。
「だって、普通の会話だったらさ、誰と話してるか明確でしょ。だけど、文章を書くときって、読む人が誰かなんて分からないじゃない。それがちょっと奇妙というか、不安にならない?」
「なるほどな。」
僕はグラスを傾けながら答えた。話の流れを考えるふりをしながらも、正直、彼女の言葉がどうも腑に落ちなかった。確かに、書く行為が相手の不明確さを伴うのはその通りだ。でも、それが彼女にとってどうしてそんなに問題になるのか分からない。
その時だった。後ろのドアが勢いよく開き、居酒屋特有のざわめきが一瞬止んだ。現れたのは一人の中年男。脂ぎった髪を無造作に後ろで束ね、少しよれたスーツを身にまとっている。顔には日焼けとも疲れともつかない濃い影が落ちていた。
「おい、聞かせろ。その話!」
いきなりの割り込みに、僕たちは思わず顔を見合わせた。
「えっと、あなたは?」
彼女が控えめに尋ねると、男は椅子を引き寄せ、無造作に座った。
「北村だ。まあ、そんなことはどうでもいい。さっきの話、面白いじゃねえか。書くとか読むとか、不特定とか言ってたろ。俺も考えたことあるんだよ、そういうの。」
「それは、どういう…?」
僕が話を促すと、北村はテーブルに肘をつき、声を低くした。
「文章を書くってのはな、自分のためにやるもんだと思ってたよ、昔は。でもな、読む奴が誰かなんて関係ねえ。結局、人間ってのは、自分を分かってほしいだけなんだ。誰だろうと、どこだろうと構わねえってわけだ。」
その言葉にはどこか説教臭い響きがあったが、妙に説得力もあった。
「でも、それって結局、独りよがりにならないんですか?」
彼女が少し鋭く問い返した。
「独りよがり? それがなんだ? お前が誰かを知りたがるのは、お前自身の安心のためだろ。だがな、世の中ってのは、もっと不確定で、もっと雑多だ。それが普通だ。」
北村の言葉が突き刺さるような重みを持って響いた時、僕たちは何とも言えない沈黙の中に取り残された。
北村がぶっきらぼうに話し始めたことで、店内のざわめきがまた少し戻ってきた。隣のテーブルから聞こえる笑い声や、店員の「生ひとつ!」という威勢のいい声が、何とも言えない居心地の悪さを増幅させているようだった。
彼女はそっと赤ワインのグラスをテーブルに置き、意を決したように北村に尋ねた。
「でも、そんなに不確定な中で書くって、本当に誰かに伝わるものなんですか?」
北村は眉間にしわを寄せながら、小さく鼻で笑った。
「伝わるかどうかなんて、誰が気にするんだよ。俺が書いたものを読む奴がいたら、それはそいつの勝手だ。そいつがどう感じるかなんて、俺の知ったこっちゃねえ。ただ――」
そこまで言って、北村は一呼吸置いた。
「ただ、俺自身が書きたいと思うかどうか、それが全てだ。それがないと、そもそも始まらねえんだよ。」
僕たちは何も言えず、ただその言葉に耳を傾けるしかなかった。彼の声には妙な迫力があった。語る内容は粗雑にも聞こえるが、そこには彼なりの覚悟のようなものが滲んでいた。
彼女がまた口を開こうとしたその瞬間、北村が急に大声を出した。
「けどな、最近の若い奴らはそうじゃねえんだよ! 自分を飾ることばっかりで、肝心なことが抜けてる。お前らもそうだろ? ワインなんか飲んで、雰囲気だけ作って、本当に大事なもんが分かってるのか?」
唐突な指摘に、僕たちは一瞬、目を見合わせた。確かに、彼の言うことには一理あるようにも思えたが、それをそのまま受け入れるのも癪に触る。
「私たちは、自分たちなりに大事なものを探してるんです。」
彼女が静かに答えた。その声には、どこか彼を突き放すような冷たさが含まれていた。
「探してる? そんなもん、探すもんじゃねえ。腹の底から湧き上がってくるもんだ。」
北村はそう言うと、手元のビールジョッキを一気に飲み干し、ゴンとテーブルに置いた。
僕たちは何も言わず、その様子をただ見つめていた。北村の言葉には一種の説得力があるようでいて、どこか空虚な響きも含まれていた。それでも、彼の話が終わった後の静けさには、不思議な感情が漂っていた。
彼が席を立ち、ふらふらと店を出て行くと、残されたのは僕たち二人だけだった。彼女は僕を見つめ、少し困ったような笑みを浮かべた。
「不思議な人だったね。」
「そうだな。」
僕も曖昧に答えたが、心の中にはまだ北村の言葉が響いていた。果たして、僕が書く理由はなんなのか。それを見つめ直さなければならない気がしたのだ。