目標地点まで最短で移動するには?
目標地点、すなわちゴールまで最短で移動するにはどうしたらよいだろうか? 答えはシンプルだ。現在地点(現在地、現状、As Is)から目標地点(達成、To Be) まで直線(正確に言うと線分)を引き、それに沿って移動すればよい。
異論(1) 「そんなことは誰でもわかっていることで確認するまでもない話だ」と言われるかもしれない。しかし、現実にはダイエットであろうと、語学学習であろうと、何かの習慣化(定期実行)であろうと、言い換えればプラスの獲得であれマイナスの低減であれ、自分が望んだ状態まで最短距離を描いて進捗しているという人はなぜか少ない。なぜならば、頭(知性)ではわかっていても、現実にはさまざまな撹乱(かくらん)、誘惑、想定外の障害が現れるからであろう。だから、私たちが最短距離を「わかる」ためには確かに何かが欠けていて、それはこの「誰でもわかっていること」のすぐ隣にあるような何かなのだ。とはいえ、もしかしたらそれは万人に通用するような概念ではなく、個別に自分自身の投げ込まれた状況に合わせて取捨選択して拾ってもらうようなアイデア集(いわゆるライフハック)で「わかる」に到れる人もいるかもしれない。あるいは、単に今日自明だったことを心理的に思い出して再確認したことで弾みがついてうまくいき始めるかもしれない。例えば私自身も自分自身に言い聞かせ、自分自身という船の航路を確認し、必要な修正がありはしないかと目を光らせるためにこの文章を買いて確認しているのだ。
異論(2) 「直線に沿って移動すると言うが、実際には数多の障害がある。例えば障害に正面からぶつかって克服したり、障害物を破壊する手もあるが、ときには迂回しなければならないし、迂回するならどのように迂回すれば最適なのか計算する必要がある。だから、そんなシンプルな経路にはならない。優秀な人はともかく、このような課題に対して自分は混乱して途方にくれる。なぜならば、自分は数学が得意なわけでもないし、あらゆる障害を粉砕する方法を知っているわけでもないからだ」という切実な意見もあるだろう。
最短距離を取りたいが、実際には障害物があるから直線の経路は取れない。そうであれば、(A)まず障害物のリストアップをするか、(B)すべての障害物をスキップできるような特殊な経路(例えば航空機を使って地上の障害物をスルーしたり、自分にはどうやってこなしたらいいかわからないタスクを外注するなど)を探索するかのいずれかが次のタスクとなる。実際はこの両者を経由する中間地点ごとに選択してなるべく早く、そして実現可能な経路を計画することになるだろう。現在地から目標まで太い直線を引くことはできないかもしれないが、その間で経由する或る地点Aから地点Bまでは真っ直ぐ行けるところもあるかもしれない。仮にそうした地味な計画作業を組んで実行してみたとして、例えば3回も4回も失敗することはザラだろう。あなたにそれでもやり直したいという根性があったとしても、5回目も6回も失敗するのではないかという不安が払拭できないかもしれない。それをいきなりゼロにはできないかもしれないが、緩和したりゼロにするには、かったるいだろうが、いったいどこで自分は道を外れたのか、誘惑に負けたのか、進捗を中断してしまったのかを特定し、その原因を分析し、それが再現しないような手当や経路の再設定をする必要がある。もう一度言うが、これは想像するだけでもダルい作業である。それに加えて、全体の経路を大きく変えたり、目標地点をそもそも変更してしまう方が圧倒的に楽できるかもしれないのだ。あるいはおカネなどの他のリソースがあるならば、もったいぶらずに外注に頼り切りにしてもいいかもしれない。これらのやり方の中で自分が良い組み合わせだと思ったものを順次作業仮説を立てて実行していく他ない。なぜならば、これらの中には効果や効率が測定されたものもされていないものあるし、また測定ができるものもできないものもあるからである。
ただ、そういった検討ばかりしていても忘れてはいけないのは、とにかく立ち止まっていては目標に近づくことはあり得ないということである。ウサギとカメの逸話を引くまでもないことだが、理論上の最短経路で無くとも、脚がどんなに遅くても、一歩一歩進むことができればいつかは目標地点にたどりつける。反対に理論上の最短経路の上にいても、実際に自分の筋肉を動かして一歩を進めなかったもの、乗り物の運転をしなかったもの、寄り道したもの、最短経路の計算ばかりして実際に動かなかった者は目標に近づかないのである。これは、あなたが王侯貴族であろうと一市民であろうと豊かであろうと貧しかろうと若かろうと老いていようと健常者であろうと障害者であろうと変わらない条件である。だから、理論上の最短経路とは別に、とにかく自分の脚で踏みしめて実現可能な「最短経路」は、いかに「ムダ」が多くとも、あなた自身の筋肉や運転が実現するものなのだと信じて進んでもらいたい。私もそう信じて毎日「進んで」いるつもりである。
(2,088字、2024.02.18)