グッバイ・マイ・ライフ

 今日で2022年が終わる。例年は特に何もせずに年越しを迎えるが、今年に関しては確実に人生のターニングポイントで、あったので振り返っておくことにする。 

 2022年は前半と後半で別人の人生のようだった。年明け早々に会社に行けなくなった。以前より仕事の精神的負荷から病院に通ってはいたが、いよいよガタがきた。そのままあれよあれよと診断書を貰い、休職へという運びとなった。2月の中頃から地元へ帰り、4月末までダラダラと過ごした。それまでの期間、張り詰めた生活を過ごしていたこともあり、休職期間は脚色抜きで、生涯で最も楽しい1ヶ月半となった。ベランダでかまくらを作ったり、中高生時分に訪れた箇所を歩いて回ったりした。母親とはこまめに連絡をとっていたが、父親とはそうではなかったので変に気を遣っていたのが妙に可笑しかった。地元は例年稀にみる大雪で、しんしんと降り頻る雪を暖かい部屋の中からぼんやりと眺めた。夜には除雪車がランプを灯しながら、甲斐甲斐しく行き交う。10数年前にここで過ごした冬に想いを馳せながら、少し遠出をしたものだとナルシスティックに自省に耽った。「何もないがあるのよ」と『よつばと』で風香も言っていたが、何もしないなりに時間は矢の如く過ぎ去っていった。

 その後、4月から復職となったわけだが、正直、精神面の変化は、休職以前とさほど変わりはなかった。それでも一度、立ち止まることができたのは大きかったと今になって思う。上司と面談を重ね、第二四半期にあたる9月末で退職へと至ったのだが、この「辞める」という決断を下せたことは自分にとってかなり大きな一歩であった。コロナ禍に突入し、閉塞的な生活を続けていた2年間、自分に向き合う時間が多かった中で常に「退職」の2文字は過ぎっていた。それでも、「辞めて他の仕事に就けるのか」「そもそもこのしんどい情勢で生きていけるのか」「自分が辞めたら職場は大丈夫か(傲慢…)」などと考えて二の足を踏んでいた。結果論だが、それら全ては杞憂にすぎず、良くも悪くも自分などおらずとも社会は回るし、人生もなんとかなってしまう。視界が狭まっている状態では、目に映るものが全てに思えてしまうので、やっぱり立ち止まって深呼吸が大切だ。

 辞める辞めないでいうと、人生で最大の後悔が高校生のとき部活を辞められなかったことだ。入部届を出すのが遅れたので、顧問に「やれんのか?」的なことを言われた。当時の純朴な少年は二つ返事で「やれます」と言ったが、入部1週間後からずっと辞めたかった。練習がきつい、チームメイトとの人間性が合わない、そもそもの性根が文化部(なぜ入った)…などなど。こんなにキツかったのに、入部時の前述のやりとりや、その後の学生生活を考えたりと堂々巡りして、勇気を出せずに結局辞められなかった。おかげさまで高校3年間は二分したら「しんどかった」に区分されることとなった(他にも色々理由はあるが最大の要因はこれだ)。未だに練習風景を夢にみるし、当時の自分にもっと勇気があれば心の底から思う。それだけに、今回の退社を決断した自分を褒めてあげたい。

 辞める決断を下してからというもの、現金なもので体調が頗る改善した。退社確定後の数ヶ月はかなりの高いパフォーマンスを発揮できてしまった。診療内科にそこそこの期間通ったが、己の意志が最大の良薬となってしまったのは皮肉なものだ。仕事をするまでは「メンタル」にまつわるあれこれをあまり信用していなかったが、実体験をもってその重要性を学んだ。高い勉強料だった…あまりスピリチュアルに走るのはアレだが、ちょってケアしながら生きていこう。自分のメンテナンスは結局、自分しかできないのだから。

 仕事を辞めてからのここまでの3ヶ月は楽しいことしかなかった。ライブに行き倒し、キャンプに行き、友人と旅行に行き、治験にも行った。人生はこんなにも楽しいものだったのかと笑うしかなかった。かなりベタで恥ずかしいが、楽曲にも勇気づけられた。特にハナレグミの「光と影」の歌詞「なんにだってなれるぜ どこへだって行けるんだぜ」には心が震えた。フジロックの配信で見て、すぐにチケットを探した。結果的に神奈川県民ホールでの弾き語りに参加でき、「光と影」も聴けた。普段あまり歌詞は聞かないのだが、弱った心に真っ直ぐに刺さったみたいだ。同日、学生時代に聴き馴染んだ「明日天気になれ」も披露され、ノスタルジックな気持ちになった反面、台風の前日だったので「絶対無理だろ」と思った。
 仕事を辞めてからダラダラと転職活動を始めて(本来は次の仕事が決まってから辞めるのが望ましい。本当に…)、何とか次のお仕事にもありつけた。1/4から社会人復帰だ。ニート期間のブランクを取り戻すべく、忙しい新年が始まる。仕事が決まったことで、本当に「人生何とかなるのだな」と思った。この一年のアップダウンを教訓に、そこそこ事象については対処できてしまいそうだ。

 それにしても心機一転とはよく言ったもので、まさに新しい人生が数時間後から始まると思うと複雑な心境だ。

 あぁ、働きたくない。

https://music.apple.com/jp/album/%E3%82%B0%E3%83%83%E3%83%90%E3%82%A4-%E3%83%9E%E3%82%A4-%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%95/1538116441?i=1538116691


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