29歳のブレイクスルー
【岐阜スゥープスショートコラム】
第8節徳島ガンバロウズ戦ゲーム2のポイントリーダーは15得点の岩松永太郎。3ポイントシュートを5本沈めチームの勝利に大きく貢献した。
岩松の特に後半のプレーを見てちょっと涙腺が緩んできた。もちろんこれまでも岩松の活躍で勝利した試合はあったが、これほどまでに中心選手としてチームを引っ張った試合があっただろうか。
大学卒業後1年間の教師生活を経て「やっぱりバスケがやりたい」と、岐阜スゥープスに入団した岩松。ただPGには吉田健太郎(埼玉ブロンコス)など実力者がおり、立場としては2番手以下。どちらかと言えばディフェンスを強化したい場面で使われることが多かった。ただ、プレータイムはそれほど多くは与えられず、その中で試合後は必ずシューティングを行い、自己研鑽に励んでいる姿が印象的だった。
彼の2年目。安城での試合後にインタビューというよりも、彼に軽く声を掛けたことがあったのだが、その時の答えはかなり深い悩みを含んだもので少し心配になった。その後トライフープ岡山に移籍し、23年秋に3年ぶりにスゥープスに復帰。メンタル面は強くなった感じはしたが、力を発揮しきれていたのかといえば”YES”とは言い難い。そんな感じを受けていた。
徳島戦のゲーム2は、ベンチスタートの選手が躍動した試合だった。スゥープスの魂、田中昌寛が勢いをつけ「チームとして理想的な試合ができた」と小林康法HCも納得の表情。中でもその田中とダブルMVPに輝いた岩松の第3ピリオドは、攻守においてアグレッシブで、自信を持って3Pシュートを決めまくっていた。ポジションとしては本来のPGではなく完全にシューター。「戻ってきた時はPGがいいなと思っていた」そうだが、自分の特長とチームのために何ができるかを考えその役を引き受けた。そしてコツコツと地道な練習を積み重ね、自信を持ってシュートを打てるようになったようだ。
振り返れば、以前の岩松は自分がシュートを打てそうな場面でも、味方に気を使いパスを回す場面が多かったように思う。それがこの試合では「自分が決める」という強い意志を持って打っていたことで感動したのかもしれない。「もう29歳なんで」と笑いながら囲みのインタビューに答えてくれた岩松。ディフェンスはもちろん、オフェンス面でもこれから本格化し、チームをリードする選手になっていくような気がしている。
【選手コメント】
岩松永太郎
--第3ピリオドはどんな意識で入ったのか。
今シーズンが始まってから、入りの4試合はちょっと流れがつかめない感じだったんですけど、もう振り切ってやろうということで、立川戦のゲーム2から感覚がつかめるようになりました。あとは本当にシュートを打つだけというか、毎試合毎試合同じシュートフォームで打つだけだと思っています。今日の前半は2分の0でしたけどいいシュートは打てていて、練習からシュートに関してはすごく自信を持っているので、「俺が決めてやろう」っていう気持ちで打ちました。
--シュートも素晴らしかったが、ディフェンスでも貢献していた。
第3ピリオドは自分たちに流れが来ていましたし、そうなるとアグレッシブにいけるので、すごくいいディフェンスになったと思います。前半は僕個人としてはエラーが多かったので、40分間アグレッシブにいく分、裏を取られたり得点を取られたりしやすいところはありますけど、バランスを取りながらやっていきたいと思います。
--シュートの意識が高くなったと感じたが。
スゥープスに戻ってきたオフからリズムトレーニングをやっているじゃないですか。毎日それをやっていて、自分の中でしっくり来ている感覚があって、シュートは1回弾むというか連動が大事なんですが、ジャンプをする時に力を入れるところと抜くところが非常に大切で、そのリズムトレーニングのおかげで感覚が良くなったのかなと。あとは本当にメンタル。シュートに関しては、それこそ今13番を付けていますけど、シーホース三河で13番を付けている須田侑太郎さんに相談したら、「ターンオーバーで終わるくらいならシュートを打て」って言っていたので、今日はそういう攻める気持ちで打ったから入ったのかなと思います。
--ずっといい感覚で打てているんですね。
めちゃくちゃいい感じで打てています。それが入るか入らないかっていうだけで。
--PGというポジションにこだわらなくなったように見えるが。
そうですね。帰ってきた時はやっぱりPGがいいなと思っていたんですけど、去年はそれこそPGが4人いて、自分が彼らと違うところは何かと考えた時に「やっぱりシュートをもう1回磨こう」と思って。もともとシュートはすごく好きなので、自分に合っている部分もあって。でもやっぱり自分の1番のストロングポイントはディフェンスなので、ディフェンスをやってシュートを打ってという感じになりました。あとPGの気持ちが分かるので、そこへのサポートやダブルPGは今主流だと思うので、彼らが助けてほしい時に助けられるように考えていて、そこはすごくいいのかなと思っています。
--ベンチメンバーが躍動した試合だったが。
やっぱり昨日のゲーム1でトリプルオーバータイムを勝ち切ったのが大きくて、本当に1つの壁を乗り越えたと思います。本当は金沢で2連勝して、ここで4連勝と行きたかったところですけど、上手くいかないことも楽しいですし、崖っぷちを楽しんでいます。
--まだ6勝8敗。これからが大事です。
そうですね。もう僕たちは毎試合が勝負なので。相手が弱い強いは関係なくて、どこであろうとも僕たちのスタイルを貫き通すだけだと思います。だからといって気負わずに、伸び伸びやることが僕たちの良いところだし、気持ちを前面に出していきたいですね。もう歩みを止めるつもりはないので頑張ります。
--今自分が目指しているものは?
それは最初にここに来た時から変わっていません。あんまり公言はしていませんけど「岐阜スゥープスと言ったらあいつがいるチーム」だって言われる存在。岐阜スゥープスの顔になりたいんで。このチームのフランチャイズプレーヤーというか、B1の宇都宮だった比江島(慎)さんだったり、田伏(勇太)さんだったり、いろんな顔が出てくると思いますけど、僕もそうなるつもりで帰ってきましたし、本当にスゥープスに全てを捧げて、ここで現役を終えるぐらいの気持ちでやっているので。それには人間性も大事なので、どんどん気持ちを前面に出してみんなを引っ張っていけたらと思います。
サンブ・アンドレ
--試合を振り返って
個人的にすごく良かったと思います。先週は流れがつかめずみんなが悔しい思いをしたけど、日々の練習でその壁を一緒にどうやって乗り越えていくのか、チームとしてもどうやってレベルアップをしていくのか話し合いをしました。それをコートの上で証明したことで勝利につながったと思います。
--第3ピリオドで強く頭を打ちましたが
その時はアドレナリンが出ていて。今はちょっと首が筋肉痛みたいになっています。病院に行って検査します。
--特に後半、すごく頑張っているのが伝わったが
チームのみんながシュートを決めてくれました。永太郎さんも昌さんも兼慎さんもマスさんもなかなかプレータイムが少ない中で、それでも出た時はハードにディフェンスをしてくれて、そういう一人ひとりの選手がいるからこそ、自分も出た時に頑張る姿を見せないといけないと毎回思っています。コートに出た時は120%のプレーを何回も出しています。
--プレーに落ち着きが出てきたが
コーチとか上のレベルの人に相談して、もうちょっと我慢をすること、時計を見ながらプレーをするとか、今日も1回だけわざとパスを出さずに時間を使いましたけど、そこで慌ててシュートを打って相手にオフェンスのチャンスを与えないように、自分の能力を生かしながら、そういう落ち着いたプレーをどんどんやっていきたいと思います。
--前半に納得のいかないファウルを取られてもすぐに切り替えた。
コーチのサポートもあったし、チームメートも「分かっているよ」っていう声を掛けてくれた。これからもそういう激しいディフェンスをしていきたいし、審判を相手にせずにできるだけポジティブに。今年は僕、チームの中でポジティブキャプテンなので。そのポジティブがプラスになっていると思います。
--ポジティブキャプテンはどんな役割?
チームのみんなが下を向いている時に声を掛けたり、絶対にネガティブにならないように声を出したり、怒りの感情が出てきた時に「ポジティブキャプテンだよ」って声を出して(笑)。
--ぴったりな役割だ。
そうですよね。僕の課題だと思っていたので、結構プラスになっています。
--今目標にしていることは
僕の目標は、このスゥープスをB2、B1に昇格させること。今日本国籍を取ろうとしていて、そうすればコートオンスリーとかできるのでチームにプラスだと思うし、勝てる試合も増えると思います。
--日本に来て10年になりましたね。
ずっと日本の文化とかいろいろ勉強をしてきたし、苦しい時もありましたけど、周りの日本の方々がすごく優しくて、自分も日本に残りたいという気持ちになりました。日本国籍を取りたいと思ったのも周りの優しい人たちのおかげだと思っています。
--次のヴィアティン三重戦に向けて
今日の24時まで喜んで、また新しい日が始まります。三重は絶対に負けられない相手だと思うし、土曜日は僕の誕生日なので暴れたいと思います。自分の誕生日ですけど、僕からスゥーピーのみんなに勝利というプレゼントを贈りたいと思います。楽しみにしてください。
田中昌寛
--昨日誕生日でしたね。おめでとうございます
僕だけが飛び抜けて40代で、他の日本人選手だって28とか29なので、普段の練習から彼らのハードワークについていくのが、気持ちの若さを保つ秘訣だと思っています。それにしても今日は勝てて本当に良かったです。
--選手個々がそれぞれの役割を果たしたナイスゲームでした
そうですね。ここまで来るのに本当に苦しい状態でした。その苦しい中でもチームで闘うという崩れない姿勢、練習から崩れずにできているので今日の勝利につながったと思います。どうしても選手のベクトルはいろいろな方向に向きがちですけど、今年のチームは外国籍選手も含めて、自分の役割は何かということを理解していて、負けている展開でもベクトルを向けることができています。それがホーム2連勝につながったと思っていて、本当に若いチームですけど、そういった精神年齢は高いのかなと。
--第3ピリオドには「さすが田中昌寛」と思わせるシュートもあったが
今は難しい状況で試合に出ることが多いので、プレータイムが本当に数分の中、ワンショットで流れを変える役割を担っています。何試合か脳振とうで全くプレーできなかったし、そこでもう1回自分の役割と気持ちの作り方を勉強させてもらっています。この表現が正しいのか分からないですけど、自分は心を動かさないようにしているというか、自分のプレーで他の人の心は動かしたいけど、自分は心を動かさない。でもそのワンポイントで出る時にそれを意識しすぎると自分の心に負けてしまうことがあるので、自分の仕事は何かということだけに集中して、心を動かさないようにして自分のベストを尽くす。いい結果を出そうとすると上手くいかないことが多いので、なかなか難しいですけど、そういう気持ちで出ています。
--これまでとはまた違う役割でプレーの幅も広がった?
そうですね。ただ、岐阜農林高校時代は光の当たらないプレーヤーで、ずっとシックスマンだったんですよ。大学では3年生からスタートでしたけど、それまではいろいろな経験をしました。社会人になっても国体で12年間キャプテンをやらしてもらいましたが、何回もスタートから外れることがあったので、その経験が今生きているのかなと。高校時代に「不撓不屈」という言葉に出逢って、40歳を過ぎても自分と対話をしながらプレーしていて、だから小林HCからも杉本アシスタントコーチからも勉強させてもらっているシーズンです。
--今日はベンチスタートメンバーの活躍が勝利につながった。強いチームになってきている。
本当は最初からすぐに結果を出したかったですけど、シーズンを通してこのチームは成長して、その結果としてプレーオフに進出して昇格をしたいと元々考えていたので、苦しい状況から2連勝できて、少し自分たちの形も見えたので、本当にシーズンを通して右肩上がりで成長できるように、このままいけばそうなるんじゃないかなという期待は持っています。
--チームとしてのメンタル面が強くなってきた感じがするが。
金沢戦で連敗をして、選手だけで話し合いをしたことも大きかったと思います。やっぱりより強いチームは求め合うんですよね。これまでの僕たちは優しくて「いいよ、いいよ」となりがちでしたけど。まだ波はありますけど本当にいい選手がそろっていて自信を持ってやればもっと結果が出ると思う。だからもっと自分たちで求め合ってやっていこうと、そう言った感じの話し合いができました。それの継続がこういった勝利につながるとおもうので、それをやめないことが大事だと思います。あとは若いチームなので何かあったらすぐにはドルを組むこと。しゃべらなくてもいいので目線を合わせることが大事になってくると思います。
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