秋元奈美『ミラクル☆ガールズ』感想
秋元奈美『ミラクル☆ガールズ』は、幼少期の私の一番のお気に入りの漫画でした。いつしか手放してしまったのですが、最近になって古本で購入し、全9巻を読み終えました。
超能力を使うことができる双子の姉妹が主人公の物語。ふたりは性格も能力も正反対ですが、とても仲良し。心を一つにすると、テレパシーやテレポートができるのです。彼女たちはたびたび超能力を求める科学者などに狙われますが、平穏な日々を守るために奮闘する……というのが、ストーリーの主軸です。以下、『ミラクル☆ガールズ』の好きなところを好きなだけ語ります。
子供心に、ごく普通の生活を送る中学生(第二部途中から高校生)である二人が実は超能力を持っているということ、それが特別な秘密としてごく親しい者の間でのみ共有されているということにとても魅力を感じていました。『ミラクル☆ガールズ』で超能力にあこがれて、力を目覚めさせる訓練などをしていたのが懐かしいです……。
同じなかよし作品である『美少女戦士セーラームーン』もやはり好きなのですが、セーラームーンの力はファンタジー感が強く、担う使命も重く、自分には遠いような感じがしていました(それでも、幻の銀水晶を探してそのへんの砂利に這いつくばっている子供でしたが)。それと比較すると、超能力という「もしかしてあるかも?」と思える双子のパワーは妙にリアルに感じられ、とても心くすぐられるものでした。その特別なパワーの使い所も、学校に遅刻しそうなときにひとっ飛びするためにばかり使われており、とても身近に感じられます。
ビジュアル的にもとても絵がかわいく、特にふたりのファッションが魅力的です。二人が通うR大付属中学・高校が私服通学ということもあり、毎回いろんな服を着たふたりが見られます。姉のともみはカジュアルファッション、妹のみかげはピンクハウス風のフリルとリボンいっぱいのファッションで、全く系統が違うのです。その中でも、画一的ではなく「今回のともみのちょっとお上品な格好いいな」とか「今回のみかげのシンプルな格好もいいね」とか、ふたりの好みの範囲でゆらぎがあるのがまた素敵です。(『カードキャプターさくら』や『papa told me』のような服の描写にこだわりを感じられる作品大好き)
物語は三部構成になっています。第一部、第二部は主に学校周辺で事件が起こり、二人の楽しげな学生生活が見られるところが魅力的ですが、私が特に好きなのは、第三部ディアマス編です。みかげの想い人である倉茂先輩がロンドン留学に行くことをきっかけに、日本を飛び出しイギリスやディアマス公国を舞台にストーリーが展開していきます。イギリスの近くにあるという架空の国・ディアマス公国の双子の王女伝説を中心に、お城や二人の王女、ティアラやブルーベルの花などロマンチックなモチーフがたくさん登場し素敵です。そしてなにより、みかげと倉茂先輩の遠距離恋愛が切ないのです。わりと序盤からテレパシー並に心が通じ合い、高校からはクラスも同じでいつも一緒にいられるともみと野田くんとは対照的に、みかげは素直に感情を表現できないまま年月が過ぎ、倉茂先輩の留学を知ってやっと告白。先輩も留学があるためかはっきりと返事することはなく、ふたりは曖昧なまま離れ離れになります。現代のようにLINEやZoomで簡単にビデオ通話できるわけではない時代、ましてや高校生の二人にとっては、果てしない距離です(結局のところパワーアップしたともみとみかげは結構頻繁に先輩に会いにテレポートできているのですが)。
たびたびテレポートでイギリスやディアマスを訪れる二人ですが、一度だけきちんと飛行機に乗ってイギリス旅行に行く回があります。ビックベンの近くで待ち合わせるみかげと先輩のシーンは、子供心に非常にロマンチックに感じられ、強く記憶に残っていました。今見てもやはり素敵でした。
この作品の軸には、超能力と双子という2つの大きな軸があります。超能力が魅力的なのはもちろんですが、双子という要素はそれ以上に重要です。実際に双子の兄弟姉妹のいる方からすれば、夢を見すぎだと思われても仕方ないのですが、やはり双子は憧れの存在です。生まれたときから一緒の二人は、年齢差がある普通のきょうだいとも、単なる家族愛ともまた違った関係性です。そして、どんなに仲良くなった友達でさえも、恋人でさえも至れないであろう深い関係性です。何でも話せる、なんでもわかりあえるともだちがいたらいいのに、というのは、子供の頃特に願うことではないでしょうか。恋愛にも憧れるけれど、そんな友達がいたらという願いは、少なくとも私にとってはなにより切実なものでした。すべてをわかり合い支え合う存在が、まるでもうひとりの私のような存在がいてくれたら心強い。ともみとみかげは、性格も趣味嗜好も異なり、たびたび喧嘩もする、別の人間でありながら、生まれたときからそんな絶対的な安心感のある相手がいるのです。それがすごく、羨ましかったです。子供のそんな願望や憧れが、特別なふたごのキャラクターとして反映されているのではないか、なんてことを、大人になってから読んでみると感じました。