「花束みたいな恋をした」考察。関係の変化は、ふたりの成長の証
日常をのぞきみるような映画。(すき)
起承転結もあまりないので、つまらない人にとってはとことんつまらない映画になりうる。のに、''リアルさ'' だけでそこに挑戦していく強さを感じます。
ニッチな層を刺す。(刺された側の人)
特に良さ③を読んでほしいです。
良さ①
自分の物語だと感じさせるリアルさ
もはやこのリアルさの部分については言及する必要のないくらい、前提となっている気がするのですが、、
・ノスタルジー
ふとした会話から、カラオケのシーンから
その時代によく聞いていた曲、流行っていたことが自然に、とても自然に組み込まれているところが、同世代がノスタルジーに駆られる所以だなと思いました。
※「クロノスタシスってしってる?」のところ、うっはぁぁぁぁあ!ってなりました。きのこ帝国持ってくるの絶妙。
・喧嘩
普段の何気ない喧嘩。鳥肌が立つくらいリアルで、絹ちゃんの感じるもどかしさすら、自分の体験の中のものか、映画を観て感じたことなのかわからなくなるほど。
良さ②
キャラクターが生み出す
魅力の詰まった会話
・人物の背景を想像させるセリフ
主人公たちがたくさん本を読む人であるが故の、洗練された、丁寧なことばたち。
芸術作品にも関心を寄せているからこそ、内からあふれてくる言葉にも深みと表現力があって引きき込まれるのだとおもいます。
というか、「そういう人物から出たことば」としてセリフを考えている才能に震えが止まりません。
小説の一節のような心の声。そこにきゅんがつまっている、、(恋愛よりも)
素敵な台詞が本当に、とても多かったです。
それをもう一度読むためだけにノベライズを買ったので(笑)届いたらまた、紹介したいです。
良さ③
男女の考え方の乖離を絶妙に表出
・絹視点
絹ちゃんは「永遠はあるのか」と心のどこかでずっと思っている。麦くんを大好きで仕方ない、でもふとした絹の言動の中に、心の中にどこか覚悟を持っているのが垣間見えます。
花の名前を教えると、その花を見るたびに一生その女の子を思い出す、という話のときに、花の名前を教えなかった絹。
「はじまりは、おわりのはじまり」という絹のセリフ。終わりを意識しながら進むことは、とても苦しく、切ないけれど、尊い。
意識している、というよりは、してしまう、の方が近いのかも。そう思うことが、絹なりの自己防衛だったんだろうと、すごく共感できます。
終電というおわりではじまって、(友人の)結婚式というはじまりでおわる。すごく手の込んだ仕掛けだなと思います。
・麦視点
麦くんはセリフからもわかるように絹ちゃんに比べるとその辺の意識は薄くて、「俺の人生の目標は、絹ちゃんとの現状維持です!」と笑っている。
でも、麦くんも現実をしっかり見られていて。
「ふたりで生きていくために」絵をかくことを捨てて働くことを選ぶ。
経済的なこと、将来のこと。その部分がうまく絹ちゃんに伝わらないもどかしさがあります。
ふたりで生きていくために、絹との現状維持のために働いているはずが、絹との時間や現状を壊しているという皮肉。
別れ話で、気持ちに揺らぎが出るのも、麦くんの方。今までの覚悟から堂々としている絹ちゃんとの、対比。
・男女の違い
ふたりなりに、未来を真剣に考えている。
だからこそ起きる考え方のすれ違いが絶妙。
男性はその関係で「いる」ことが大事で、女性はその関係を「する」ことが大事なのだ
と、ジェンダーの講義で聞いたのを思い出しました。
ここで感じたのはやっぱり、話し合うこと がなによりも大切だということ。
良さ④
関係の変化は、ふたりの成長の証
・変化は内側から
外側からの変化(他の異性が寄ってくるとか、だれかに言われた言葉とか、周りの環境)で、ふたりの関係が動いてしまう映画が多いんじゃないかなあと感じていて。
でもこの作品は、ふたりの気持ちや距離の変化が、全て自分たちの内側で完結している。 (他の人の意見を聞く場面はあるけど)
成長していく、大切なものが変化していく中で生まれるズレ。
麦くんは「大人であることは、ある程度割り切って生きること。こうあるべき像を強く持ち始める。」
絹ちゃんは「大人になっても、したいことをするしそのための変化を恐れない」
ただの恋愛映画ではなく、人生の向かう方に重きを置いている点で、すごく勇気をもらいます。
(ジャンルは違うけど、似ている関係性でいくとララランドかなあ)
まとめ?
物語を面白くするための変な駆け引きもイベントも何もない。ただ、どこにでもいるふたりの、ただの日常に寄り添う。はっきりした展開をつくらなくても、「絶妙なリアルさ」だけでここまで勝負できることに素直に驚きました。すごく素敵な作品に出会えて嬉しかったです。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。