京都御苑は京都御所を中心として100ヘクタールに渡って広がる公園だ。
御所は平安時代から明治に至るまで天皇の住居、政の場であったが、明治維新後に都が東京に移り荒廃してしまった御所周りの公家屋敷を整理して公園化した。苑内には御所や拾翠亭などの歴史的建物、四季折々の景色をつくりだす庭や小川、テニスコート、運動場、児童公園などの施設の他、葵祭や時代祭といった歴史ある催事も行われる。そこは公園と聞いてイメージする芝生広がる場所というよりも、古の街の中に迷い込んでしまったようなタイムスリップ感のある場所だ。
京都に暮らす人は、この場所を京都御苑ではなく、「御所」と呼ぶことが多いように思う。もちろん苑内に京都御所があるからなのだが、そこには近所の公園という存在以上の愛着、歴史への敬意や誇りのようなものが含まれているように感じる。自分たちの暮らしの一部、その延長線上で大事にされている場所なのだ。御所周辺には町屋を改装した店舗、大学、こだわりを感じる住居とその周りのポケットパーク、そして少し歩くと鴨川があり、周辺を含んだ街そのものが公園のような場所だ。
かつて京都に住んでいた時は自転車で御所や周辺の店をよく訪れた。通っていた美容院は御所の目の前で、その緑を店の中に借景として取り込むように二階部分まで全面ガラス張りで作られていた。ひさびさに訪れたその店舗のビルの屋上には何やら森のようなものが広がっていて御所に呼応して緑のセッションをしているようだった。御苑の中、そして周辺に自分のお気に入りの場所を探すのが楽しい。それが京都そのものの楽しさということなのかも知れない。