「茶色い焼酎」はジャパニーズウイスキーなのか?
ワシじゃ! ミーミルじゃ。
今回は「変なジャパニーズウイスキーをつかむと悲しい」という話じゃ。ジャパニーズウイスキーのフリをした謎のウイスキー……謎の焼酎スピリッツ……そういうものに初心者の人が引っかからんように、今回、ワシは記事をまとめたんじゃ。
ジャパニーズウイスキーが大人気
ジャパニーズウイスキーが人気じゃ。ジョニーウォーカーとかグレンリヴェットとかを知らない人も、ウイスキーといえば二言目には「山崎、白州」と言い出すぐらい、ジャパニーズウイスキーの人気は大衆に浸透しておる。山崎=うまい、人気、という機械的数式が出来ておる。誰でも知っておるんじゃ。これはもう、とんでもないブランド力の構築じゃ。
しかし実際、ジャパニーズウイスキーを過剰に追い求める層の人々が一般的なスコッチウイスキーとそれらを飲み比べているかというと、特にそういう事はなかったりするんじゃ。漠然としたイメージで「山崎、白州=良い」がインストールされており、挨拶代わりで「山崎、白州」と言っていたりするんじゃ。無論、無理して学ぶ必要などないが、こういう人々はカモられる危険が増している状態じゃ。
店の棚に、山崎、白州が売り切れた痕跡があるとする。その隣に、たとえば「朱雀」とか「翁」みたいな、それっぽい漢字が書かれたラベルのウイスキー(※今ワシが考えた架空の名前じゃ)が置いてあった時、条件反射で「おっ、ジャパニーズウイスキー。これも美味しいんだよね。買ってみよう」となると、悲劇の始まりじゃ。実際、そういう層を狙った商品が、ままあるわけじゃ。
謎の酒造会社の手によって作られた、謎のウイスキー。
当初、ワシは「さすがに誰も騙されないじゃろう」とタカをくくっておった。だがそういう問題ではなかった。ウイスキー初心者は、「ジャパニーズウイスキーをもっと知りたい!」というポジティブな向上心から、こういった品物に手を出し、結果として搾取されてしまう事があるんじゃ。これは悲劇じゃ!
ジャパニーズウイスキーは簡単には作れない
まずハッキリしておかねばならんのは、ウイスキーを蒸留するための設備を導入するのはめちゃくちゃ大変という事じゃ。蒸留に使うポットスチルだけをとっても、バカでかい銅の塊ですごい高額じゃ。あの蒸留器を2基導入すると大体5000万円ぐらいかかる。発酵・蒸留のノウハウから設備から何から、ものすごいお金がかかるし、覚える事も山ほどある。何億かかるんじゃ!? そのうえで、蒸留したニューメイク原酒を樽で何年も熟成させなければならん。それまでは商売の売上はゼロなんじゃ。その間の人件費はどうする? 何をやって食いつなぐ? 甘い話ではない。「ジャパニーズウイスキーって人気なんだな。いっちょ噛みしよ」。そういう意識で軽々と始められるような儲け話ではありえない。
それなのに、何故、市場にはこんなに大量の「ジャパニーズウイスキー」銘柄が出回っておるのか。当然、これはおかしい事なんじゃ。なにか妙なカラクリがあるから、そういう事になっているんじゃ。
カラクリ1:輸入原酒でジャパニーズ!?
スコッチウイスキーのブレンドを輸入して、日本で瓶詰めすればいいんじゃ。簡単な仕事じゃ。国外にはバルクウイスキー業者というのがあり、工場でブレンドまでやってあるウイスキー原酒を巨大なポリタンク(バルク)で日本に輸出してくれる。それを受け取り、日本で瓶詰めして、それっぽいラベルを貼ればジャパニーズウイスキーの完成じゃ~!
カラクリ2:焼酎=グレーンウイスキー!?
ウイスキーの原酒には、大きく分けてモルト原酒とグレーン原酒の二種類が存在する。モルト原酒は大麦麦芽から作られ、ポットスチルで蒸留される。一方、グレーン原酒は穀物全般を原料としているし、コラムスチルで大量生産じゃ。つまりライ麦や小麦……もっというと穀類なら何でもいい的に解釈されたりもする。粟や稗。あるいは米もなにしろ穀物じゃからな。ウォッカだってグレーンなのでは? 蒸留には焼酎用のステンレススチルを流用し、無限の可能性じゃ~!
麹を使ったらもはやウイスキーではないのじゃ。麦焼酎を樽で熟成させてもウイスキーにはならん。それは茶色い焼酎じゃ。
ちなみに、色の濃い焼酎は焼酎として売ってはいけないルールが法律で定められておる。光量規制じゃ。そこで、食物繊維等を添加すると、それは焼酎扱いではなくリキュールになるので、販売できるようになるんじゃな。まあワシはそういう分類には興味はない。焼酎もリキュールも当然ウイスキーではないからじゃ。光量規制をくぐり抜けようが、とにかく茶色い焼酎はウイスキーではないという事じゃ。
カラクリ3:1と2のハイブリッド!?
輸入してきたバルクウイスキー原酒を10%以上つかって、そこに自社生産の焼酎グレーンを混和して、「厳選したスコッチ・モルト原酒に、腕利きの職人が日本のグレーン原酒をブレンドし、日本の名水で仕込みました。世界に誇るウイスキーを、ぜひご賞味ください」というキャッチコピーが可能じゃ。日本の法律では10%がウイスキーならウイスキーを名乗ってよいからの~。頭がクラクラしてきたじゃろう。
ウイスキーの蒸留設備をどう考えても所有しておらん会社が、熟成20年とか30年とか称する「自社原酒」を何故使えるのか。実際その由来は謎めいておるが、倉庫に眠っていた自社のグレーン「スピリッツ」(要するに焼酎)を使えば、それも可能であることは確かじゃ。
喝!
「厳選した原酒!」と言いながら輸入してきたバルクウイスキーをそれっぽくボトリングして売ったところで、それはジャパニーズウイスキーではない。大量の麦焼酎の在庫を木の樽で茶色く色付けし、食物繊維を混ぜてリキュール扱いにして「これはやっぱりウイスキーだった気がするんですよ! リキュール扱いですが、気持ちはウイスキーです。僕、じつは昔からウイスキーを作りたい気持ちでいっぱいだったんですよね」とか言っても、それはジャパニーズウイスキーではない。
だってそうじゃろ。なんで焼酎を樽に入れたらウイスキーになるんじゃ? おかしいじゃろ。混ぜっ返して言葉遊びをしても無駄じゃ。普通に考えておかしいものはおかしいんじゃ。それが美味しいなら、最初から「美味しい焼酎」として売ればよかろう。
最近この状況を問題視した日本洋酒酒造組合が、ジャパニーズウイスキーの基準を定めた。日本国内で、麹菌ではなく大麦麦芽で糖化させ、発酵させ、蒸留し、樽で三年以上熟成させたものでなければ、それはジャパニーズウイスキーとは認められん。ジャパニーズウイスキーでないものは日本っぽいラベルで売り出してはならん。そういう決まりが出来た。しかし、この決まりには特に意味はなかった。ワシの見たところ、状況はその後も一切、なんにも、変わっておらん。
組合の自主基準は法律ではないので罰則はない。悪意がある連中には何の拘束力も持たん。そもそも、ラベルの何処かに「海外原酒を使っています」と書いておけば、引き続き日本っぽいラベルで出してもいいみたいじゃ。一般消費者はいちいち基準の詳細を調べる事などせん。海外のユーザーに至っては言語の壁もあり、こんな内情は到底調べられん。イメージで買うしかない。つまり結局やりたい放題じゃ。
最近人気が出た
それにしても、いつからジャパニーズウイスキーがこんな世界的に強固なブランドを築いたのじゃろうか。実はそう昔の話ではないんじゃ。海外では21世紀に入って日本のウイスキーが賞を受賞し続け、高い評価が積み上げられていったという背景がある。国内ではハイボールブームが2008年。そこで突然人気が爆発した。ドラマのマッサンもウケた。そういう感じで国内外で価値が高まったんじゃ。
カモられない為にはどうすれば?
犯罪ではない以上、変なものを売りたいなら勝手にやればよいが、消費者のワシらがそれを拒否するのも勝手じゃ。
では、引っかからないためにはどうすればよいじゃろうか。
・ウイスキーの分類に興味を持ってみる
たとえばシングルモルトとブレンデッドウイスキーの違いがわかれば、モルトとグレーンの違いもわかるし、グレーンウイスキーとグレーンスピリッツの違いも芋づる式にわかるんじゃ。詳しくなれば引っかかる危険も防止しやすくなる。
「嘘」はあまり使われない。それは犯罪だからじゃ。そうではなく「大袈裟」「紛らわしい」で攻めてくる。たとえばブレンデッドウイスキーをシングルモルトと偽るのは明確に表記の嘘じゃから、そういう事はしてこない。嘘ではなく、「言葉を濁す」「おかしな表記で惑わす」といったやり方をするんじゃ。
「グレーンウイスキー」と書くと嘘になるから「グレーン原酒」という言い方をして言葉を濁したり。焼酎をウイスキーとして売れば嘘になるから「これはもはやウイスキー?」(←つまりウイスキーではない)みたいなキャッチコピーを使う。そういう誤魔化しに敏感になるためにも、多少学んで損はない。
・まともな国産蒸留所を確認してみる
きわめて消極的な対応としては、「サントリーとニッカのシングルモルト以外は全部スルーする」という態度が挙げられるが、しかしこれはあまりに現状に則さない態度じゃ。真面目に頑張っている国内蒸留所は、ニッカやサントリー以外にも幾つもあるからじゃ。
ちょっと調べれば国内にどんな蒸留所が存在するかはすぐに判明する。「何だこのジャパニーズウイスキーは?」と思ったら、一旦立ち止まり、せめてその銘柄の名前をググるくらいの事はしてほしいんじゃ。それで大体わかる事が多いんじゃ。100%国内自社蒸留所で作った原酒を使っているケース。海外原酒と自社のモルト原酒を混ぜているケース。海外原酒と自社の「ウイスキーと誤認させるような」焼酎や醸造スピリッツを混ぜているケース。色々じゃ。
・過剰なジャパニーズウイスキー信奉をしない
そもそもスコッチウイスキーは美味しいんじゃ。ここに山崎12年と秩父10年とバルヴェニー12年があるとする。目隠しして飲んだらワシはバルヴェニー12年を選ぶかもしれん。丁寧に作られておって、とても美味しいからじゃ。ちゃんとしたジャパニーズウイスキーは実際美味しいが、値段はロマン価格じゃよ。
最近は新興ウイスキー蒸留所ブームじゃ。この記事で口を酸っぱくして書いてきた「海外原酒ロンダリング」や「茶色い焼酎」ではない、ちゃんと国内のポットスチルで生み出された本物のジャパニーズウイスキーも作られて、ポツポツとシングルモルトが出現しつつある。喜ばしいことじゃ。
しかし3年熟成の若いウイスキーを飲んで、何か凄い意味・感動的な体験があるかというと、まあ実際、そこまでではないのも事実じゃ。若いウイスキーのカスクストレングスは度数が強くてパンチがある為、初めて飲むとそれはそれで美味しい感じがするが、感動するかどうかは個人によるじゃろう。「国内で本物のウイスキーを作っている心意気を買って、10年後20年後にどんな美味しいウイスキーが生まれてくるかを楽しみに待とう」というスタンスなんじゃ。
漢字がラベルに書いてあるからといって無条件でそれに高いカネを払ってしまうメンタリティは、その時点でやられる危険ありだという事は念頭に置いたほうがよいじゃろう。
ロマンは大事じゃ。しかしロマンを投機につなげたり、ロマンを過剰な欲望につなげて、その結果、おかしな散財をしたり、偽のジャパニーズウイスキーに足元をすくわれる事がないようにしてほしいんじゃ。
今日はここまでじゃ。またの。