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匿名蒸留所の謎に迫るんじゃ!

ワシじゃ!

ボトラーズのウイスキーとかを物色するようになると、遅かれ早かれ出くわすのが、謎めいた「シークレットスペイサイド」「シークレットアイラ」等のシークレットボトルじゃ。これは何じゃろうか?

シークレットのボトルというのは、その名の通り、秘密じゃ。つまり「蒸留所がどこの蒸留所なのか明かさないよ」という事じゃ。シークレットスペイサイドという場合、「スペイサイド地方に存在する蒸留所の何処かで作られたウイスキー」という事しかわからんわけじゃ。スペイサイド地方には50を超える蒸留所があるので、これだけではほぼ全くわからんという事になる。


匿名ボトルの理由

なぜ蒸留所名を隠すのじゃろうか? どういう都合の悪さがあるのじゃろうか? こればかりは、隠す側の立場にならねばわからん。ぱっと考えつく理由は幾つかあるが……特に、ブランディングの観点が大きいように思う。

オフィシャルボトルのシングルモルトは蒸留所のブレンダーがしっかり味をデザインして、銘柄ごとに味のキャラを立てて完成させるわけじゃ。

たとえばグレンモーレンジといえば、バーボン樽メインのデリケートでエレガントな香りが特徴的で、ピート感はほとんどなく、飲みやすい……等のイメージが基本としてあるわけじゃ。その一方で、仮に、ボトラーズから3年熟成ぐらいのやたら若いグレンモーレンジや、どっしりシェリーのグレンモーレンジ等がたくさん出ていたら、なんだかよくわからんじゃろ? 毛色の違うものを出すにしても、限定扱いにしたり、特別なキャンペーンを打ったりして、準備した上でやりたいじゃろう。無秩序は困るというわけじゃ。

なにより、シングルモルトとして出す際には色々な樽原酒をバッティングして一定の味の水準を満たし、「これだ!」という形にして出すわけじゃが……自分たちと関係のないボトラーによって、なんだか美味しくない・バランスの悪い原酒がリリースされて、それを飲んだ人間に「この蒸留所のウイスキー美味しくないな」と思われたら迷惑なわけじゃ。美味しくても不味くても、出口までコントロールできていない商品に責任を負うのは結構厳しいものがあるじゃろう。

自分で完成させた商品が結果的に不評でも、それは自分のせいとして納得できるが、自分の手を離れたものがなんだかおかしな形で受容されて、巡り巡って責任だけを負わされるとか、最悪じゃろう。とはいえ同時に、樽でまるごと売れれば、それはビジネスとしては小さくないディールじゃ。

そこで、「原酒は売るが、別の名前として出してください」「ウチの名前は出さないでください」といった条件をつけるんじゃな。中には「他のものとブレンドしないと売っちゃダメです」という条件も存在する。そうやって匿名蒸留所ボトルが誕生するわけじゃ。


匿名蒸留所ボトルのパターンあれこれ


シークレット○○と書いて出す

シングルカスクの場合、冒頭に書いたような、「シークレットアイラ」「シークレットスペイサイド」のような、シークレット+五大区分はよくあるパターンじゃ。


完全に名前を変えて出す

「スカラバス」や「ピーツビースト」や「ルーイーン」など、ボトラー独自で匿名用のブランド名を作り、その一環としてリリースする事がある。中身はラガヴーリンだったりカリラだったりアードベッグだったりするわけじゃ。


一滴混ぜて出す

大人の事情感が半端ないのが「ティースプーンモルト」じゃ。「ウチの蒸留所として責任を持てないので、シングルモルトとしてウチの名前を出さないでください → ホラこれでシングルモルトじゃなくなりました(他の原酒を一滴混和)」……これでリリースされるのが「ティースプーンモルト」と呼ばれるジャンルになる。その名の通り、樽原酒にティースプーン1杯だけ他のやつを混ぜるという、タテマエ的な行いじゃ。

てきとうにブレンドしたら当然その蒸留所の味とはかけ離れてしまうし、商品コンセプトがワケわからんようになるから、形の上ではブレンド扱いにして、味自体はほぼシングルモルトとして出す。経営母体が同じ他の蒸留所から一滴ぶんを使う事が多いようじゃが、場合によっては、「一滴混ぜましたよ」といいつつ、実際もはや混ぜてすらいない事もしばしばあると言われておる。真相は当事者にしかわからん。

ティースプーンモルトは蒸留所ごとに名前が決まっている事があって面白いんじゃ。たとえば「キルブライド」はラフロイグじゃ。「ウエストポート」はグレンモーレンジじゃ。「オルドニー」はキニンヴィじゃ。こうなってくると販売店側ではもはやカッコ書きで本当の蒸留所名を書いてあったりして微笑ましい(?)。ただ、表記上は当然シングルモルトという表記はできなくなる。たとえスプーン一杯であろうと、BLENDED MALTという書き方になるんじゃ。


匿名蒸留所ボトルは怪しいの?

では、そうしたシークレットものは不味いのじゃろうか? 蒸留所から押し付けられる外れ樽のオンパレードじゃろうか? 全然そんな事はない。ちゃんとしたボトラーならば……という条件はつくものの、バイヤーはしっかり味を確かめた上で「この樽はイケる」と判断したからこそ買いつけているんじゃ。「このボトラーは不味いボトルしか出さないしょうもない奴」などというイメージがついたらもう終わりじゃろ。リリースひとつひとつが真剣勝負じゃ。

むしろ、どちらかといえば、人気の蒸留所の名前をそのまま出せないぶん、味に対して値段は割安になっている事が多いように思う。ワシ個人の経験でいうと、シークレット○○と書かれたボトルで外れに出くわした事はあんまりないんじゃ。そんなわけで、特にコスパ面でメリットを享受できる場合は多いんじゃな。80年代のマッカランなんか買おうとすれば100万円ぐらいしてしまうが、シークレットスペイサイドならば数万円で買えてしまう事もある。資産価値はないが実際マッカランが飲めるんじゃ。なんと夢のある話じゃろうか。

逆に、匿名ボトルのデメリットや問題点は何じゃろうか。これは当然「飲むまで味のキャラクターが全く予想できない」という点が、特に大きい問題じゃ。さらには……後述するが、さも特定の人気蒸留所のシークレットボトルであるかのような匂わせをしておいて、実際は全然関係ない別物が詰められているという、まさに鬼畜の所業も横行しかねないという危険をはらんでおる。


情報戦に悲喜こもごもが発生!

「シークレットボトルがリリースされやすい蒸留所」というのが実際存在する。特にワシがシークレットが多いと感じるのは、カリラ、マッカラン、グレンロセス、グレンモーレンジ、ハイランドパークなどじゃ。

果たして!? シークレットの通説

シークレットアイラ: カリラの事が多い
シークレットハイランド: グレンモーレンジの事が多い 公式コメントでクライヌリッシュの期待を持たせてくる場合がある ロッホローモンドもかなり多い印象がある
シークレットオークニー: ほぼハイランドパーク
シークレットスペイサイド: グレンロセス、グレンリヴェット、マッカラン、グレンファークラスが多い 正体不明のケースも多々ある

カリラなんかは生産量がめちゃくちゃ多いから、ボトラーに融通する樽も多い。そうなるとシークレットになる機会も高まるんじゃ。ハイランドパークはシークレットオークニーと書かれるが、オークニー諸島で本格的に稼働している蒸留所はハイランドパークとスキャパの実質二個しかなく、ハイランドパークのヘザーピートの香りはそもそもユニークなので、ほとんどバレバレなのが面白いところじゃ。

シークレットボトルは、ボトラーが用意した公式コメントにヒントが書かれている事がしばしばある。たとえば「シークレットハイランド」の説明文に「キリンの首のように長いポットスチルで知られる例の蒸留所のシングルモルトです」と書かれていれば、それはもうグレンモーレンジなんじゃ。スペイサイドで「ウイスキーにビンテージの概念を導入した蒸留所です」と書いてあれば、それはもうグレンロセスなんじゃ。この辺、蒸留所うんちく勝負というところがある。日頃から色々学んでおくと有利に情報戦を進められるじゃろう。

うんちくではなく、テイスティングコメントでの「匂わせ」もある。蒸留所の特徴的な味の傾向を書いて、「お察しください」とやるわけじゃ。シークレットハイランドで「オイリー」と書かれていれば、クライヌリッシュの可能性が高まる。シークレットアイラで「スミレのニュアンス」みたいな事が書いてあればボウモアの80年代蒸溜原酒の可能性が高まる……といった具合じゃ。ただし、味というのは主観の問題なので、「違うじゃねえか!」と詰め寄られても「私はそう感じましたので。はい論破」と言い張れば、ある意味無敵じゃ。ゆえにこれは特定するヒントとしてはだいぶ確度が下がるうえに、匂わせの悪用も出来てしまうんじゃ。


結局マジでわからない

シークレットボトルは長年の「お察しください」の積み重ねによってナアナア化が進み、もはや商品名に「シークレットスペイサイド(※マッカラン)」とか書かれている親切なボトルも普通に存在する世の中じゃ。しかしそういう親切な環境に慣れると……突然足元をすくわれる危険も出てくる。

ウイスキー原酒は流通のどのポイントでシークレットになるのじゃろうか? それは実際、蒸留所から外に出る時という事になるじゃろう。という事は、その樽を更に別の買い手に流通させる際にどんな定義付けがなされるか闇の中という事なんじゃ。

蒸留所から原酒を買った人間が他へ売り渡し、さらに別の業者の手にわたり、バイヤーがそれを買い、最終的にボトリングする……。その過程で伝言ゲームが発生して、「これはスペイサイドモルトですがそれ以上わかりませんね」→「これはスペイサイドモルトで、多分マッカランじゃないかな?」→「これはシークレットスペイサイドと書かれていますが中身はマッカランです」と変化していってしまう事もあるじゃろう。

伝言ゲームならまだ良いが、完全に悪意を持った人間がこの流通ルートのどこかに紛れていれば、容易くインチキまがいの悪業が発生してしまう。「なんかこのイマイチな樽、どっかに売りつけて処分してェなァーッ……そうだ、シークレットつってよォ……それっぽいお察しコメント書いておけばよォ……勘違いした奴らが買うんじゃねえかァーッ!?」こんな事がもしあったら、あまりに酷い!

まあ、そんな妄想をしても仕方がない。結局、シークレットボトルの正体というのは憶測ベースと考えて、過度に期待せず、買って実際に飲むまで話半分で居るのが肝要じゃ! 飲んで美味ければそれで良いし、自分が期待した蒸留所のハウススタイルがしっかり出ているなら万々歳じゃ。クライヌリッシュにせよマッカランにせよ、特徴的な味をしているので、ブラインドテイスティングマニアでなくとも「飲めばわかる」事は結構普通なんじゃ。適度に匿名蒸留所ボトルを検討して、楽しいウイスキーライフを送るとよい。

今日はここまでじゃ。またの。


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