これでわかる!? ボトラーズ・ウイスキー入門
ワシじゃ! ミーミルじゃ。
今日はボトラーズウイスキーというものについて書いてみたいんじゃ。
突然だが、スコッチウイスキーのブナハーブンを見てほしいんじゃ。
ブナハーブンはこんな感じのデザインのボトルで、12年が普及ラインで、高額な25年ものとかも売られておる。白州にノンエイジ、12年、18年などが存在するのと同じじゃな。だいたいシングルモルトというのは、各蒸留所ごとに、3年刻みぐらいでグレードを決めてバリエーションを出しておるワケじゃ。
では、下記のブナハーブンは何じゃろうか。
たしかにこれはブナハーブンと書かれておるが、ボトルのデザインが違うのがわかるじゃろう。そして、年数は18年……アルコール度数は高く54.4度……つまりカスクストレングス……そして、ダイメンションズ(ダンカンテイラー)という表記がある。
「一体これは!? 偽物なの?」本物じゃ! これは実際ブナハーブン蒸留所で蒸留されたウイスキーであること間違いなし。瓶詰めして商品として売り出しているのが、蒸留所ではない別の会社なのじゃ。
外部の瓶詰め業者が樽を買ってきて独自にラベリングして出すボトルを、一般的にボトラーズのウイスキーと呼ぶのじゃ。いわば、量産品に対するカスタム品というか……そういう感じの位置づけじゃ。(いっぽう、蒸留所が正規にリリースしているボトルは「オフィシャルボトル」と呼ぶんじゃ)
ボトラーズウイスキーの例
というわけで、今日はボトラーズのウイスキーについてなのじゃ。
山崎とか白州とか余市とかのボトラーズウイスキーは存在していないので、ウイスキー初心者的な人は全く知らん世界だと思うんじゃ。
まずはイメージしやすいように、代表的なボトラーズウイスキー業者をただ挙げてみる。特にお勧めのボトルということではなく、ただ検索して出てきたやつを貼っただけじゃ。ボトラーズのボトルは一点もの的なものなので、Amazonリンクも早々に切れるかもしれん。
シグナトリー
シグナトリー社が出しているカスクストレングス・コレクションじゃ。ゴツいボトルと金属の缶が目立つんじゃ。シグナトリーはとにかくいっぱい出しておる。
ダグラスレイン
ダグラスレインが出しているオールドパティキュラーのシリーズじゃ。見た目もいいし結構打率が高いブランドじゃ。
アデルフィ
アデルフィは人気で、すぐ売れてしまうんじゃ。シェリー系のボトルが美味い事が多いボトラーじゃ。
つまり、どういうこと?
ウイスキーの蒸留所は大量の樽を抱えておる。蒸留した原酒をさまざまな樽に詰めて寝かせて長期熟成をしているんじゃ。
ウイスキーはモルティング・醸造・蒸留等、錬金術的な過程を経て生み出されるもので、とてもアナログなので、樽ごとに原酒の味は違ってくる。それらを何も考えず樽ごとに右から左へ瓶詰めしていくと、樽が切り替わるたびにめちゃくちゃ味がバラついてしまうじゃろ。これでは大量生産する商品としてはかなりイマイチじゃ。
だから、沢山の樽を、ブレンダーがこれと決めた混合比でうまくバッティングして、豊富な量の均一な味のシングルモルトを作って、それを出荷するわけじゃ。
だが一方で、そうやって本来は混ぜ合わせて使う筈の原酒の樽を、蒸留所から直接買い付けてきて、樽出しで瓶詰めするとどうなるのか? それがボトラーズから出ているシングルカスクのウイスキーなのじゃ。
いわば「樽の横流し」というか……横流しというと印象悪いので別の言葉にしたいが、まあそんな感じがイメージしやすいじゃろう。とにかく、蒸留所から樽を買い付けて、それを独自に瓶詰め・ラベリングして売る……それがボトラーズ業者じゃ!
ボトラーズ・ウイスキーの特徴
だいたいカスクストレングス
ボトラーズのウイスキーは大体の場合がカスクストレングス&シングルカスクじゃ。加水したりバッティングしたりしないで出すのが一番手っ取り早いからの。大量生産しないし、初めからマニア相手なので、無駄に着色したり冷却濾過する必要もない。
そういう意味で、樽出しそのままの、手が加えられていない、濃厚でキャラが強いウイスキーを飲みたいならば、ボトラーズのウイスキーは有効な選択肢じゃ。
もちろん、加水されているボトラーズのボトルもある。加水すると樽ひとつから多くのボトルを取れるし、値段も安く売ることができるんじゃ。加水を明言していない場合は、度数でなんとなく見分ける以外の方法がないんじゃ。
また、複数樽の原酒をバッティングしているボトラーズのボトルもある。代表的なのはブティックウイスキーというボトラーじゃ。ここは複数の樽を混ぜて「バッチ1」「バッチ2」と回数を重ねてリリースしておる。この場合は「カスクストレングスではあるがシングルカスクではない」という事になるんじゃ。
スペックが細かく書いてある
シングルカスクが多いこともあって、大体の場合、原酒の蒸留年やボトリングされた日付が明記されており、ボトルのシリアルや、何の樽で熟成されたかなどが明記されているんじゃ。オフィシャルのボトルは複数の樽から作られるし、まあ、あんまり書かれてない事が多いんじゃ。その点、ボトラーズのボトルには、スペックの詳細が明記されておる。
ボトラーズが出やすい蒸留所、出ない蒸留所がある
第三者のボトラーズからリリースがあるかどうかは、蒸留所によってマチマチじゃ。たとえばさっき少し述べたように山崎とか余市とか、日本国内の蒸留所のボトラーズリリースはほとんどない。外部に樽を売る慣習がないとか、業者間での原酒のやり取りをしてこなかったとか、そういう事が理由なのじゃろう。
スコッチウイスキーの蒸留所でも、全然ボトラーズに樽を出さないところも普通に存在する。もしくは、こっそり出す場合があるんじゃ。理由は色々あるじゃろう。理由を想像するのも容易い。とにかく、たとえばマッカランやグレンリヴェットやグレンロセスが「シークレットスペイサイド」という表記でリリースされたり、ハイランドパークが「シークレットオークニー」表記でリリースされたりするんじゃ。
シークレットは全く正体不明のこともあれば、明らかにそれとわかる記載がされていることもある。極端なやつになると「シークレットスペイサイド(マッカラン)」とそのまま商品説明に書かれているやつもある。シークレットものは色々面白いのでそのうち記事として書こうと思うんじゃ。
さらには、ティースプーンモルトというのじゃが、シークレットの原酒にほんの僅かに他所の原酒を混ぜて(もしくは、混ぜた事にして)、「お察しください」的に別の名前にしてリリースしたりすることもある。グレンモーレンジィはこのかたちで「ウエストポート」という表記で出る事が多い。ラフロイグは「キルブライド」じゃ。
バリエーション無限
オフィシャルのシングルモルトは、バーボン樽熟成やシェリー樽熟成のもの、ヘヴィピートのもの、そうでないもの等、色々な樽の原酒を混ぜて完成させる。しかしボトラーズの場合、入手した樽一発の味で勝負じゃ。いきおい、その蒸留所内で仕上げられたオフィシャルボトルにはないキャラクターのものが飲めるし、ボトラーズ自体が樽を移し替えて独特のフィニッシュを行う場合もあるんじゃ。
熟成年もオフィシャルではだいたい12年・15年・18年……のように刻まれているところ、ボトラーズは何年熟成のものを出そうとかまわないワケじゃ。たとえば、ミーミルお勧めのクライヌリッシュは、オフィシャルからは14年ものしか出ていない。
そうではないクライヌリッシュを飲みたい場合は、普通なら限定エディション頼みとなるんじゃ。しかしボトラーズのクライヌリッシュは自由なリリースが期待できる。だから、いざ「長熟もののクライヌリッシュを飲んでみたい」と思った場合、自動的に、ボトラーズが何処かからリリースしてくるシングルカスクのクライヌリッシュをその都度探す事になるんじゃな。
オフィシャルの決めた枠組みを超えて、もっとその蒸留所の出すウイスキーを深く知りたいと考えた時、ボトラーズから出ているやつも飲みたくなるのは人情というものじゃろう。
ボトラーズのボトルとは一期一会
ボトラーズウイスキーは樽出し一発勝負じゃ。樽ひとつから払い出せるボトルというと、だいたい200本~500本ぐらいが普通じゃ。その中から日本に入ってくるのは数十本という事になる。
だから、どんなに美味しいボトルがボトラーズから出たとしても、後日に同じものをリピートすることはなかなか難しいといえるんじゃ。そんなわけでAmazonリンクを貼るのも難しいし、「このボトルがお勧め!」みたいな事を言って紹介するのも難しいんじゃな。
そんなわけで、味以上に、洋服の一点ものに近い貴重感が出てくるのは確かじゃ。他人と分かち合う事もできん。修羅道じゃ。
オフィシャルより長熟ボトルが安く手に入る?
たとえば、マッカランはオフィシャルで25年のものを買おうとすると数十万円するわけじゃ。
しかし、ボトラーズからマッカラン蒸留所のボトルがリリースされた場合、その10分の1ぐらいの値段で購入できてしまう可能性があるんじゃな。たとえば「ウィスキペディア シークレットスペイサイドM」は26年もののマッカランで、3万円ぐらいだったんじゃ。
まあこれは2022年現在は一概にそうとも言い切れない状況となってきており、ボトラーズ=安く買える、という事も、あまりなくなってきたように思うんじゃ。なんにせよ選択の幅が広がるという風に考えておけばよいじゃろう。
プライベートボトルも出る
蒸留所から樽を買いつけてボトリングするのがボトラーズ業者だが、さらにそのボトラーズ業者と酒屋やバーがコラボして、プライベートボトルを出す事がある。ボトラーズ業者を介さず、蒸留所が直接プライベートボトルを出す事もある。
なかなかややこしいが、日本の酒屋や輸入業者がボトラーズ業者と協業して独自のリリースを行う事はしばしばあり、だいたいプロモーションも重点的になされるので、話題になりやすいんじゃ。信濃屋とかがよくやっておる。
当たり外れがすごい
当たり外れ……それがボトラーズの永遠のテーマといえる。何しろ樽単位の話なので、同じ蒸留所のボトルでも、それがうまくいった樽なのか、失敗樽なのか、一切わからん。ボトラーズの担当者が蒸留所に行って、樽を吟味して、これだと決めたやつを買いつけてくるわけじゃ。これがヘタレだともうどうしようもない。
判断材料はそのボトラーズが信用できるブランドなのか、公式テイスティングコメントはどう書かれているか、蒸留年は評判の良い年なのか、飲んだ人のレビューはどうなのか……等じゃ。
絶対にハズレのないボトラーというのも稀に存在する。逆に、出すボトル出すボトルどれもダメで、「これは蒸留所が要らない樽を安値で押し付けてるだけじゃろ」と真顔になってしまうようなブランドもある。
そういうはっきりした目安があればまだよいが、全体的には、良かったり悪かったり、打率の問題なので、結局飲んでみるまでわからん。雲をつかむような話じゃ。しかも確たる評判を待っていると、詳細がわかった頃には売り切れたりするわけじゃな。
ボトラーズ買いの銭失い!?
まず言っておくと、「ボトラーズ=美味い」という思考停止はできん!
ボトラーズはなにしろ小規模であり、樽単位でしか作らない一点もの的なボトルがほとんどなので、オフィシャルボトルの12年ものくらいの普及ライン価格はほとんど存在しない。安いやつでも8000円ぐらい……1万円台は、もはや割安で、それ以上する場合がほとんどじゃ。
そもそも、ウイスキー1本に3万円とか支払う事はまともなのか、まともではないのか? ボトラーズを買っていると、だんだん感覚が麻痺してきて、それが普通に思えてくるから恐ろしいんじゃ。
グレンモーレンジ18年は1万円で買えて最高に美味いんじゃ。しかしボトラーズのウイスキーで18年もののボトルとなると、シングルカスクであることも相まって、だいたい2万以上するのが普通になるんじゃ。味は果たしてグレンモーレンジ18年に勝てておるかの?
ふと立ち止まって客観視してみた時……その2万5千円とか支払って購入したボトラーズのウイスキーは、その値段を正当化するだけの味があるじゃろうか……納得できるじゃろうか……そういう恐ろしさがあるんじゃ。
妙なプレ値がついている日本の新興蒸留所のウイスキーは別として、ウイスキーという嗜好品自体は、かなり味と値段が正比例するアイテムといえる。だいたい高いやつは美味い。しかしながら、「結局バランタイン17年が美味い」というオチも往々にしてあるんじゃ!
ボトラーズ沼に心乱されるべからず
昔はウイスキー不況時代が長かったので、当時、樽を買ってくれるボトラーは蒸留所にとって助かる存在だった筈じゃ。しかし今は逆に世界的にウイスキーが人気で、慢性的な原酒不足じゃ。蒸留所としても、ボトラーズに樽を売るくらいなら、自分のところのシングルモルトの原酒に回してしまったほうがいいとか、そもそも第三者に原酒を融通してやる余裕自体が無いとか、そういう状況じゃ。そんな中で、ボトラーズが美味いシングルカスクのウイスキーを100%出してこれるという確証は無いんじゃ。
スシのネタでも、人気のある魚が不漁になり代用魚が必要になるとかそういう話があるじゃろ。ボトラーズも同じじゃ。数年前はボウモアやラフロイグやクライヌリッシュのような有名な蒸留所のボトルが普通に出ていたが、いまはそういうリリースはほとんど無くなった。そして他の蒸留所のボトルにリリースが移ってきた。こういう「掘り尽くしたら次へ」的な流れは、なんとも苦しい感じじゃ。
ボトラーズ沼に足を踏み入れると、毎月「話題のボトル」が耳目を集める。これを買い逃すと次は出ないかもしれない……この蒸留所からのリリースは貴重……80年代に蒸留されたボトルは恐らくこれが最後……そういうFOMOを煽ってくる。そして実際、困ったことに、そういう「今買わないと損」は実際わりと本当なのが困ったところなんじゃ。
今買わなければ来年はもっと高いし、今出ている蒸留所のリリースは来年はほとんど無くなる。原酒不足と円安で、ボトル自体の値段も上がり続ける。そういう過渡期にワシらは生きておる。
だからといって、その流れにどこまで付き合うべきか?
頭がカーッとなって、何万円もするボトルを毎月次から次へ買っていったらどうなるか……破滅しかないぞ! 踏みとどまる事はできるか!? わからん。これがボトラーズ沼の沼たるゆえんじゃ。水槽がゆっくり煮えていって気づかず死んでしまうカエルのようにならない為には、それなりに強い意志が必要かもしれん。ワシからは「気をつけろ」としか言えん。健闘を祈る。
ワシが買ったボトルの例
出て売れたらそれで終わりの世界なので、オススメを挙げづらいのがボトラーズじゃ。ともあれ、例として一応、ワシが去年から今年くらいに飲んで美味かったやつの中から幾つか挙げてみるんじゃ。
スピリッツショップセレクション
クライヌリッシュ1996
スピリッツショップセレクションは台湾のボトラーじゃ。これはめちゃくちゃ美味かった。開けたてはあまりよくわからんが、少し瓶内で減ってきたら、とてつもない美味さになった。クライヌリッシュはどうもそういうパターンが多く、不思議なものじゃ。今日びボトラーズのクライヌリッシュは異様に高騰してしまったので大変じゃ。
モルトウイスキーカンパニー
ウエストポート1997(21年)
モルトウイスキーカンパニーはバイオショックのようなルックスのボトルがカッコいいボトラーじゃ。これは感動的に美味いウエストポート(グレンモーレンジィ)じゃった! あまりに美味いので結局もう一本買ってしまったんじゃ。
キモカワなコラージュがラベルに描かれた、デイドリームシリーズの第一弾として出たカリラ7年。カリラは短熟でも美味いんじゃ。このマデイラカスクは素晴らしい一本じゃった。
以上じゃ
というわけで、今日はボトラーズについて長々書いてみた。
ボトラーズに手を出すのがマニア的行為であることは否めないし、「最初にボトラーズを買うならコレ」というお勧めの仕方も難しいんじゃ。
しかし、買う買わないは別として、ボトラーズという概念を知っているだけで、色々と納得がいき、おぬしのウイスキーライフはもっと豊かになる筈じゃ。
長くなってきたので、今日はここまでじゃ。またの。
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