ウイスキーの保管にはパラフィルムもガスも使わない
ワシじゃ!
今日はウイスキーの保管についての話じゃ!
「ウイスキーはどれぐらい日持ちしますか?」という質問は、誰もが知りたい、常にホットなトピックじゃ。
なにしろ、ウイスキーは酩酊や喉越しを目的にゴクゴク飲むような酒ではない嗜好品なので、あまり量を飲まない人間は、一晩ワンショットで充分だったりするからじゃ。そうなると、ボトルは飲みきらず長期間にわたって手元に存在する事もザラじゃろう。
幸いなことに、蒸留酒であるウイスキーは、ワインのように「開栓したら酸化してしまうのでその日のうちに飲んでしまおう」というものではない。アルコール度数が高いので酸化の影響が非常に少ないし、細菌とかでダメになってしまう事も基本的にはないんじゃ。長持ちするんじゃ!
では、味はどうなんじゃろうか? 劣化の問題はどうじゃろうか?
よく言われているのは「開栓しなければ長期間保ちます」「開栓したら半年以内に飲みきってください」という当たり障りのない説明じゃ。いかにもメーカー製造物責任的な次元の話だし、ワシらはそういう事を聞きたいのではないんじゃ。ウン万円もするボトルを急いで半年で飲みきる必要なんて無い筈じゃ。もっとこう、自己責任で判断するための具体的な手がかりがほしいと思うのは当然じゃな。
開けたウイスキーの味はどう変わる?
では実際どうなのか?
結論から言うと、開けたあと時間が経過しても、ウイスキーの味はそこまで変わらないんじゃ。逆に言うと、少しは変わる。
よく言われるのは「開く」という表現じゃ。開けたてのウイスキーは、ものによっては、アルコールがやけにビリビリして味の詳細が感じ取りづらかったりする。これはよく「硬い」みたいな言葉で表現されるものじゃ。
ウイスキーをグラスに注いだあと、数滴加水したり、30分ぐらい放置したりすると、閉じ込められていた香りが外に出てきて、よくわかるようになったりする。これが「開く」というやつじゃ。
開封後のウイスキーは、時間が経つと、瓶内で自然とそういう方向の変化をするんじゃ。開封して瓶を傾けてグラスに注ぐ動作を通して瓶の外の空気と酒がハッキリ混ざり、分子が揺れるか何かして目を覚ます、という感じなんじゃろうかの。謎じゃ。
開栓後の時間経過によって、ウイスキーの口当たりは幾分マイルドになり、香りも感じやすくなる。逆に、バキッとしたアルコールの口当たり、元気のよさといった要素は、少し引っ込むように思う。
……ウーム。トータルで考えると、経年変化は好ましい内容が多いように思えるんじゃが、場合によっては、そのボトルの個性が少し減退する可能性もあるかもしれんな。
ウイスキーの変化の要因
酸化
ウイスキーは無糖で、高濃度のアルコールじゃ。これは酸化に対してかなり耐性があるという事を示しておる。酸化は味の劣化の原因となるので、できるだけ避けたいのは当然じゃが、ウイスキーの場合、その影響は非常に緩やかじゃ。
紫外線
日光は避けねばならない。特に直射日光はアウトじゃ。紫外線に瓶越しに晒されたウイスキーは「日光臭」とも呼ばれる顕著なオフフレーバーを持つようになる。こうなると終わりじゃな。ウイスキーのボトルのガラスが茶色だったり緑色だったりするやつがあるが、これは紫外線をなるべく防ぐ工夫じゃろう。
揮発
グラスに注いで置いておくだけで部屋にそのウイスキーの香りが漂うわけじゃから、言い換えれば、閉じ込められていないアルコールは容易に揮発し、香気となって放出されるという事じゃ。放出されたぶんは瓶内からは無くなるんじゃ。質量保存の法則じゃ。後述するが、栓をしているからといって揮発を完全なゼロにはできん。
熟成?
ウイスキーは、ワインや日本酒や泡盛と違って、不純物が殆ど含まれておらんので、劣化に対して非常に強い。と同時に、瓶内での有意な「熟成」は起こらないと言えるじゃろう。しかし、ちょっとは変わる以上、それを認識することはちっともおかしい話ではない。
「熟成」なのか「変化」なのか……それは単に「どういう言葉をつけるか」でしかないので、本人が変化を熟成だと思っているなら、べつに熟成と呼んでも良いじゃろう。
栓をしても影響は出る
ウイスキーの栓はコルクやスクリューキャップじゃ。これにより外気を遮断し、保存できるようにしてあるんじゃ。しかし残念ながら100%の外気遮断は無理じゃ。
溶接されているわけでもないんじゃから、ミクロで見れば瓶と栓の間には空間ができておる。ここから微細な成分が行き来してしまうわけじゃ。香気やアルコール分や水分が外に出ていくんじゃ。
瓶内の量が減ってくると変化の度合いが増す?
ウイスキーを飲み進めると、瓶内の空気の割合が増える。そうなると、注ぐたびに入れ替わる空気の量も増えて、影響が強まるような気がするんじゃ。なんとなく物理的イメージでそういう気がするんじゃ。実際どうなんじゃろう。そんな気はするんじゃが……。
未開封でも影響は出る
「開封後は半年ぐらいで飲みきってください」みたいな事を言われがちだから、逆に「開封しない限り無敵」と錯覚するかもしれんが、そもそも未開封であろうと、たいして厳密な封印はされとらん。栓の上から紙キャップみたいなやつとかセロファンみたいなやつが被さっているだけじゃ。別に同じじゃ。
ウイスキーはなにしろ開けて飲むために作っておるんじゃから、ボトルは本来、何十年も保存する事を想定した造りではない。それゆえ、長い長い年月のなかで色々ガタが来るんじゃ。
一番わかりやすいのは、コルクのぶっ壊れじゃ。コルクは優れた密閉性を持つが、だいたい5~10年で劣化し、溶ける。乾燥しすぎて割れたり、逆にウイスキーが浸透してジュクジュクになったりして、本来の役割を果たせなくなるんじゃ(この辺の問題は、オールドボトルを買ったりすると容易に経験できるじゃろう)。
極度に劣化したコルクの栓は、中のウイスキーを何処まで守っているじゃろうか? これはもう未知の領域といえる。開封せずに保管していたとしても、結局、外の環境から完全に「無敵」で居続ける事はできんわけじゃな。
というわけで、まずは「ある程度の変化は防ぎようがない」という事実を受け入れねばならん。そのうえで、日々気を使って面倒を見てやっている限り、「まあ、言うほど破滅的な劣化はしない」という事も知っておいてほしいものじゃ。
ウイスキー保管のコツ
「常に言われるウイスキー保管の基本」というものがある。おさらい的に並べておきたい。
横向きに保管しない
ワインと違って、ウイスキーの横向き保管はご法度じゃ。ウイスキーの高いアルコール度数は長時間でコルクを溶かす。溶けたコルク成分がウイスキーと混ざる。完全にまずいウイスキーの誕生じゃ。絶対ダメじゃ。
オールドボトルは日本でウイスキーのリテラシーが低かった時代に保管されてきており、横置きでしまわれていた事も多々ある。そうするとコルクが溶け込んだり蓋の裏の金属が溶け込んだり、もうダメダメな事が多いんじゃ。
ともあれ、数日ぐらいの横置きで即座にヤバい事になるわけでもないので、「オンラインで購入したら横向きで郵送されてきた! もうおしまいだ!」みたいにパラノイアになる必要はないじゃろう。
冷暗所にしまう
これは励行すべきじゃろう。
しかし、冷暗所って何処じゃろうな? とりあえず直射日光は絶対避けねばならん。これはウイスキーを保管している部屋に遮光カーテンとかを使ってどうにかするようじゃろう。
「冷」についてはどうか? 確かに温度が高いと瓶内の液体が揮発するポテンシャルが高まってしまいそうじゃ。だからといって冷蔵庫は止めたほうが良い。冷蔵庫といえば「ニオイ移り」じゃ。こんなのは今そこにある危機であり、絶対ヤバいじゃろう。冷蔵庫の継続的な微震動にさらされ続けるのも、なんだか気持ち良いとは思えん。
ならばワインセラーは? 横向き保管はダメじゃ! ともかくウイスキーはそこまで温度に対して神経質になる必要はないし、こだわると逆に他のリスクを発生させてしまう可能性があるので、変なことはしないほうがマシじゃ。普通の冷暗所に保管すべし。
化粧箱は有効
高いボトルを買うとだいたい化粧箱に入ってくる。あれは入れておいて何の損もない保管手段といえよう。瓶だけで置いておくのと比べて、空気の動きがワンクッション挟まるし、光も遮ってくれる。悪い事ナシじゃ。かさばって場所を取る以外には……。
ウイスキーに有害あるいは疑わしい工夫
ガスをスプレー?
ネットで無責任に推奨されがちなアイテムじゃ。プライベートプリザーブ等のアルゴンガスの缶は、ワインを長持ちさせる為に作られた品で、瓶内にノズルで気体を充填する。瓶内にガスが溜まることで酸素と液体が隔離され、劣化を防ぐというわけじゃ。
これはあくまでワイン用のアイテムであり、ウイスキーに使っていいという明確な証拠はない。海外にはアルゴンガスがウイスキーの長期保存にどういった影響を及ぼすかを実際に追跡調査したレポートが幾つか存在しているが、そのどれもが「何もしない場合よりもウイスキーの味が悪い方向に変化した」というショッキングな実験結果を上げておる。アルゴンは瓶内で酸素を遮断してくれるかもしれんが、充填時のプロパンやブタンがウイスキーに与える影響は未知数じゃ。
追跡調査の情報も確かめられておらんのに、なんとなくの印象、「他の人が言ってたから」みたいなノリで、「こういう手段もありますね」みたいに勧められがちじゃ。しかし、ワシは使わん。
パラフィルム?
ネットで無責任に推奨されがちなアイテムその2じゃ。伸縮性のある剥がしやすいフィルムを巻き付けて密封する。「化学用品をウイスキーの密封に使ってみた」的な思いつきじゃろう。なんとなく良さそうな雰囲気があるし、鰯の頭も信心から的に、「プラマイゼロかプラスなら、巻いたほうがいいだろう」と思うじゃろう。
しかし、これはどうも不穏なアイテムじゃ。ワシ個人の体験としては、パラフィルムを巻いたボトルは、味が「なんかおかしく」なった。全然わからんが、「なんかおかしく」なったとしか言えん。パラフィルムを剥がし、一ヶ月ぐらい置いておいたら、さいわいそのおかしさはなくなり、こなれて元通りになり、胸を撫で下ろした。これはあくまでワシ個人の体験なので、非科学的な感想にすぎず、結局なんともいえん。ワシが狂っている可能性もある。
ただ、そもそもの話として、パラフィルムはガス浸透性があるので、結局、密閉は出来ない。水分を遮断するが気体は通してしまう。そうなると、あまり期待した効果は得られないうえに、通す成分と通さない成分がパラフィルムによってイビツになり、自然に行われるミクロな蒸散のバランスが崩れる……という事すら、あるかもしれん。
悶々としておったところ、3年間パラフィルムを巻いた追跡調査がYou Tubeに見つかった。そこで確かめられていた内容は、ワシの経験と同じじゃった。「閉じ込められた水分で蒸れてしまうのか? よくわからないが、とにかく別物のようになってしまった」という震撼すべきレポートじゃ。
信じるか否かはオヌシ次第じゃが、ワシは自分の体験と合致するので、この報告内容に同意する。
とりあえず言えるのは、「なんかおかしくなった」という体験や追跡調査の結果がある一方、「パラフィルムを巻いた事で、実際に劣化を防ぐことができました」という報告は見かけないという事じゃ。それなのに「保管するならパラフィルム」みたいなことが言われがちなのは奇妙なことじゃ。ワシはもう使わん。
空気を抜いて真空に?
瓶内の空気を抜いて真空にするアイテムはワインでよく使われる。だがウイスキーの場合、それはどうなんじゃろうか?
ウイスキーは保存時の酸化に強い。むしろウイスキーの変化は、空気の入れ替わり時に香味成分が外に出ていく事を大きな原因としている可能性が捨てきれないんじゃ。真空にするために空気を抜くのは、開栓時の空気の流れ込みを最大化する事でもあるので、なんとも不穏じゃ。やらなくていい事をやる気にはなれん。ワシは使わん。
小瓶に入れ替える
空気との接触割合を減らすため、小瓶にいっぱいまで入れておくというのはアイデアとしてアリかもしれん。そこまでやる意味があるかどうかはなんともいえんが、ウン10万とかするボトルを買った時は、一生保存する用に小瓶に入れて穴に埋めるとか、アリなのかもしれん。ワシにはなんとも言えん。
変化を止める事は可能なのか
時間経過によるウイスキーの香味の変化は避けようがない。溶接したガラスの中に入っていればまだしも「時間が止まっている」かも知れんが……。
しかし、不変である事にどれほどの価値があるのじゃろうか? そもそも、ウイスキーを飲むワシらの味覚だって、来年・再来年に今と同じである保証など何処にもない。色々なウイスキーを飲むなかで、後天的味覚が発達して、嗅ぎ取れなかった香味にフォーカスするようになり、今「最高に美味い」と感じているものがそうでもなくなったり、逆に今あまりハマっていなかった銘柄が最高に感じられるようになったり、飲み手の変化も必ずあるんじゃ。
5年経っても味同じ
もうひとつ動画を貼っておくとしよう。これは3分の1ぐらいまで減らしたマッカラン12年とラフロイグ10年を「アルゴンガス充填」「なにもせず」にわけて5年かけて追跡調査した結果の動画じゃ。5年前の動画も存在しており確実じゃ。
何の対策もせず、ただコルク栓をして5年経過させたボトルの味は、未開封のボトルと「大して違いがなかった」。これだけでも相当充分な情報じゃ。何もしなくても特に味が変わらんのなら、リスクを犯して民間療法的なアイテムを使用する必要は一切無いとワシは判断した。実際、この動画内でアルゴンガスを使用したボトルは明確に味が劣化してしまっておる。やらないほうがマシじゃ。
結論:だいたい大丈夫
開栓しようが開栓するまいが、ただしく保管すればウイスキーは長持ちする。開栓しようが開栓するまいが、香味は徐々に変化する。これは避けられないが、気にするほどではないんじゃ。別に腐りはしないし、酸っぱくなったりもしない。カビが生えたとか聞いたこともない。開栓直後の状態から変化しようと、美味いもんは美味いんじゃ。
一例を挙げておくと、
ワシの好きなボトルとして、このシークレットスペイサイド1991、ボトリング年2020、度数43%がある。既に3年くらい特にフィルムもガス充填もせずに普通に保存して時々飲んでいるボトルじゃ。劣化したり香味が薄くなったりはしておらん。アルコールの減衰感もない。
これは恐らくグレンロセスと思われるが、開栓直後は奇妙な蝋のようなオフフレーバーがあって不安にさせられたものじゃ。しかしその後、時間の経過とともに当初の蝋の香りは消滅し、マンゴー系のトロピカルフレーバーが際立ってきた。今となっては液体化したマンゴーのような凄い美味いウイスキーとなっておる。
かように、変化の度合いは「ボトルによる」としか言えん。わりと味が変わるものもあるし、変わらんものもある。因果関係がよくわからないんじゃ。
しかし、あからさまにマズくなるとか、熟成されて美味しくなるとか、そういう事はあんまりないんじゃ。くよくよ悩まずにてきとうに開けて適当に飲む、これが最適解じゃ。
またの!
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