eponymous verbs(人名が由来となった動詞)|言葉ノート#3-1
〖2024年2月15日更新|未完成〗
人名が由来となった単語をエポニム(eponym)という。日本語では名祖(なおや)とも漢語化されている。実際には、もっと広い意味(名祖の名を持つ、またはそれに関する、またはそれ自体である)を含んでいる。
人以外の固有名詞や地名が由来となった単語もエポニムという場合もあるようで、特に後者は「トポニム(toponym)の誤りでは?」と突っ込みたくなる。しかしながら現実には、「list of eponyms」(名祖リスト)で検索をかけると、それらが入り混じったものばかりが見つかる。
エポニムはまた、神話や小説などの架空の登場人物を由来とするものも含んでいる。筆者は(この記事を書く際)どちらかと言えば、〝身近な〟人名が一人歩きした結果、一般に使われるようになったエポニムに興味を持っていたので、なかなか目当てのものが見つからず、残念に思っていた。
筆者は、mesmerize[mesmerise](~を魅惑する、~に催眠術をかける)がフランツ・メスメル(Franz Mesmer)に由来するのを知ったことをきっかけに、「人名が一般動詞化するとは面白い」と、エポニムに興味を持った。そこでここでは、かたくなにその方向性(名祖動詞)でお手製の名祖リストを試作したい。「(身近な)人名が由来となった動詞(eponymous verbs)」だけを取り上げた単語リストだ。
人名自体も元を辿れば一般名詞や動詞などが由来であるものが多く、「鶏が先か、卵が先か」のジレンマがあるが、ここでは不問としたい。
なお、「get Steved(≒(Apple社から)クビにされる)」や「get O.J.-ed(≒(テレビ、ラジオなどの)番組が(O. J. シンプソン事件の過剰な報道で)中止になる)」、「do an Elvis」/「do a Dylan」などのような言い回しで人名が出てくるものは、ここでは除外する。
そもそも、「枝る」などがあったように、スラングや死語も含めればいくらでもあり得るはずだ。筆者は個人的な興味でまとめたいだけなので、どれくらい人口に膾炙しているかはあまり考慮しなかったことをご放免願いたい。
前篇はAからKまで、後篇はLからZまで記載する。
algorithmize [algorithmise] | algorithmisieren (algorithmieren) | algorithmiser | –
アルゴリズム化する(雑多になっているプロセスや手順を、ある一定の形式に則って順序立てる)。
アッバース朝時代のバグダードで活躍したイスラム科学の学者、アル゠フワーリズミー(Al-Khwārizmī)が由来だが、紆余曲折があるもよう。
babbitt | – | – | –
摩耗を軽減するために、バビットメタル(軸受合金の一種)で裏打ちする。
バビットメタルは、アメリカの発明家、アイザック・バビット(Isaac Babbitt)によって、1839年に発明された。
– | – | – | バリカンする
クリッパーで剪髪(せんぱつ)する。
ジュール・バリカン(Jules Bariquand)が由来。より正確には、日本に最初に舶来したクリッパーが、フランスのバリカン・エ・マール(Bariquand et Marre)製作所のものであったことから。
– | – | barémiser | –
フランスの数学者、フランソワ・バレーム(François Barrême)が由来。近代会計の開拓者とも見られている。
burke | – | – | –
窒息死させる。(解剖学者や外科医に売る人体を得るために)人を殺す。転じて、抑え込む、隠蔽する。
William Burkeが由来。英式・濠式英語。
bowdlerise, bowdlerize | – | – | –
暴力的な、淫らなといった好ましくないと考えられるものを取り除いたり、表現を変えたりすること。censor, expurgateとほぼ同義。
William Shakespeareの戯曲を「女性や子どもにも穏当な」ものに再編した『The Family Shakespeare』を著したThomas Bowdler(1754–1825)が由来。
boycott | boykottieren | boycotter | ボイコットする
ある団体・会社などに対して、その商品を使わない・買わないことで抗議の意を表明すること。対義語(=ある団体・会社などに対して、その商品を使う・買うことで支持の意を表明すること)としてbuycottが造語されている。
イギリスの土地差配人、Charles Boycott(1832–1897)が由来。アイルランドで自身が管理していた土地で、法外な額の借地料をその小作農に課した為に、村八分にされた。
– | – | calepiner | –
chaptalise, chaptalize | – | chaptaliser | –
cicerone | – | cicéroner | –
古語。博物館や美術館などを訪れた人に対して、博物学、歴史学、美術学といった物事を雄弁に説明するような人のたとえ。
ローマの雄弁家Marcus Tullius Ciceroが由来。英語にはイタリア語経由で入ったらしく、英式発音では/ˌtʃɪtʃəˈroʊni/となっている(米式発音では/ˌsɪsəˈroʊni/)。
daguerreotype | – | daguerréotyper | –
– | – | – | 出歯る
derrick | – | – | –
Thomas Derrickが由来。
diesel | dieseln | diéséliser | –
ドイツ語はeindieseln、nachdieseln、フランス語はdédiéséliserなどの派生語あり。
– | einwecken | – | –
ガラス瓶(ジャー)に食品などを詰める。類義語にeinmachenがある。
ドイツのガラス瓶ブランド「WECK」が由来。1900年、ヨハン・カール・ヴェック(Johann Carl Weck)がゲオルク・ファン・アイク(Georg van Eyck)とともにに創業したJ. Weck u. Co.(ただしヴェックは1902年に退社する)で、いちごに「WECK」レタリングのロゴが施されたガラス瓶が製造され、ドイツやその周辺国のキッチンに置かれるようになった。
– | fringsen | – | –
hoover | – | – | –
掃除機をかける。または比喩的に、ものを機械的に吸い込む。イギリス、アイルランドでもっぱら使われる。
ウィリアム・ヘンリー・フーヴァー(William Henry Hoover)とその息子、ハーバート・ウィリアム・フーヴァー・シニア(Herbert William Hoover, Sr.)が起業したアメリカの掃除機メーカー、The Hoover Companyが由来。
アメリカではもっぱらvaccumが使われる。ダイソン(Dyson)はたしかに有名だが、一般動詞化はしていない模様。なお古語として、元FBI長官のEdgar Hooverにちなみ、to hoover the telephone(盗聴器を付ける)という意味で使われたこともあったようだ。
galvanise, galvanize | galvanisieren | galvaniser | –
電流を通す
Luigi Aloisio Galvani (1737–1798)
– | gaucken | – | –
gerrymander | – | – | –
選挙において特定の政党や候補者に有利なように選挙区を区割りすること。Gerryとsalamanderのかばん語で、元々はhard gで発音した(≒ゲリマンダー)が、現在はsoft gで発音する(≒ジェリマンダー)。
元マサチューセッツ州知事、Elbridge Gerry(1744–1814)が由来。州知事選挙でまさに上記のようなことをした結果、『Boston Gazette』の記者にこの語を造語されて批判された。
grangerise, grangerize | – | – | –
guillotine | guillotinieren | guillotiner | (ギロチンする)
– | – | – | ホッチキスする, ホチキスする
kafkatrap | – | – | –
– | – | karchériser | –
アルフレート・ケルヒャーが由来。カルシェリゼのように発音。フランス語辞書に見つけたがドイツ語辞書に見つけられていない。
kondo | – | – | –
「片づけコンサルタント」こと近藤麻理恵が由来。
備考
スイスドイツ語に「bostitchen(鎹(かすがい)を打つ、またはホチキス留めする)」という名祖動詞がある。スタンリー・ボスティッチ(Stanley Bostitch)が由来だが、これはあくまで会社名。Stanleyは親会社、Bostitchは旧社名(Boston Wire Stitcher Company)を参照。
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