SS 暗い川【ムーンリバー杯参加作品】(改)
月夜に流れる川は、深く暗く何も見えない。
「おっかぁ、おっかぁ」
おっかぁは川の中に入ったまま出てこない。怖くてさみしくて悲しいけど岸辺で待っていた。いつのまにか寝てしまい朝日で目が覚めると、私の横でおっかぁが立っていた。
「おっかぁ、なんで川に入った」
「なんでもないよ、家はどこだい」
おかしな事に、おっかはまるで記憶が無いのか、家に戻っても家事をいろいろ教えろと言われる。
「おっかぁ、みんな忘れたの? 私も忘れた」
「覚えてるよ、ごはんをもらったよ」
変な事を言うおっかぁは、夜に出かけて朝に戻ると食事を出してくれる。
「良かった、もう村のみんなは食べるものが無くて死んでるのに」
「そうなのかい……」
不審に思ったのか、村人がおっかぁを責めた。
「どこに食い物がある?」
「おまえらだけ食えるのがおかしい」
怒られても責められても殴られても、おっかぁは黙ったままだった。
「やめて、やめて。おっかぁをいじめないで」
「うるさい、このガキが」
私が殴られると、おっかぁは茶色の大きな鉄のような尻尾を出して村人を叩き潰す。
「……おっかぁ、その尻尾は?」
「お前を守るためだよ」
おっかぁは、私の手をひくと狐に化ける。私も一緒に子狐になる。そうかずっと昔に、子狐におイモをあげったっけ……
暗い川に月がゆらゆらと映る、親狐と子狐は野原を走り去る。
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