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SS 犬……猫……いや狸……? #ストーリーの種

「犬……猫……いや狸……?」
「違います、キツネです」

俺の前に変な動物が居る。話をしている。駐車場に小さな祠がある。俺は、そこにたまたま、お供えをしたらしい。記憶が無い。

「私のほこらにお酒を置きましたよね」
そういえば缶ビールを置いた気がする。途中まで飲んで忘れたのかもしれない。キツネが言うには返礼したいと言う。何ができるか聞いてみた。

「家事掃除くらいはできます」
その日から俺の部屋にキツネが居る。女の子に化けてる。十八歳くらいだ。問題は服や下着を用意しなければいけない事だ。金がかかる。そして食費もかかる。

夜になるとキツネに戻る。ほこらに帰る。最初は期待したんだが淡泊なのかベタベタしない。普通に親族みたいに部屋の掃除をしたり、食事を用意してくれるだけだ。それでもかなり助かる。

「なぁたまには外食しようぜ」
「お金が無駄です」
バイトの俺は貧乏だ。自炊のお陰で貯金できるようなった。キツネが居ると金が貯まる。そこだけは嬉しい。俺はキツネにバイト中は何しているか聞くとTVを見てるらしい、韓国ドラマが好きだと言う。キツネが出るドラマも面白いとか言う。そこらの女の子にしか思えない。

「なにしているんですか?」
トイレのドアが叩かれる。生理現象だろうが。いつもは部屋の中でする。キツネが居る間は無理だ。風呂かトイレでしかできない。
「なんだよ、小便だよあっちいけ」

トイレから出るとキツネが見ている。
「生理的欲求?」
うっせい。
「なんだよやらしてくれるのか?」
「それはダメです」

妙に身持ちが堅い。まぁ缶ビールを置いたくらいじゃやらしてくれないか。そこで気がついた、お供えを豪華にしてみる。おれはこっそりと昼間に油揚げとかほこらに置いてみた。

「今日はお供えありがとうございます、延長しときますね」
どうやら期間が延びるだけらしい。それでも俺は女の子と一緒に暮らすのが楽しかった。

「あれ?今日は来ないな?」
いつもの時間に来ない。駐車場に行くとほこらが無かった。取り壊されたのか跡形も無い。おれは悲しかった。

部屋の中でぼんやりする。キツネが俺の部屋を掃除して食事を作ってくれる。こんな幸福な時間は無い。
「アプリでもしようかな」
マッチングアプリでもするかと携帯を取り出すと。留守電が入ってた。知らない電話番号だが、さみしさから電話する。

「あー、つながりました?良かった」
キツネだ。
「なんか管理会社の都合でほこらが移動したみたいで、通いが無理ですね」
そうか遠くなのか。
「それで神棚つくって置いといてください。稲荷水玉もお願いします」
え?神棚?そんなもんないぞ、電話が切れた。それから調べて通販で神棚と稲荷水玉を注文した。こんなもんあるんだ。

夜になるとアパートのドアが叩かれる。開けるとキツネが居た。中に入れると女の子に化けた。

「今日からよろしくね」
通いをやめて寝泊まりしてくれると言う。俺は彼女を抱きしめた。

終わり


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