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SS 田舎の池【ラムネの音が】シロクマ文芸部参加作品 (940文字位)

 ラムネの音がする。かすかで小さくて聞こえない。栓を抜くとビー玉が容器の中に落ちてくるりと回る。神秘的な蒼い瓶をいつまでも、あきずにながめる。

 ラムネの飲み口に耳をよせるとシュワシュワと小さくつぶやくような音が聞こえた。

「――なにかしゃべってるみたい……」
「よう子ちゃーん」

 遠くで母が私を呼んでいる。池のほとりでラムネを飲むのが好きだ。池の蒼い色で心がやすらぐ。田舎の舗装されていない農道を、雑草を踏みながら家に戻ると母がにこやかに笑っていた。

「お父さんがおみやげを渡したいって」
「……うん」

 再婚した父親は体の大きな男で、よう子は好きではなかった。

「よぅ子、人形だぞ」
「……」

 太い腕を伸ばして私を抱きしめて、人形のように私をいじりまわす。

「良かったわね、よう子」
「人形みたいに、かわいいぞ」

 母は、この男のどこが好きなのかまったく判らない。ただ顔は良いと思うが、それだけだ。いつまでも私の体を触っていた。

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「金がないならバーで働けよ」
「あんたが博打をするから……」

 義父は母を殴ると足蹴あしげにした。子供の私では倒れる母を助けられない。

「よう子が大きくなったら稼げるだろ」

 げらげらと笑う義父は鬼に見える。私は逃げるように家を出た、その時に父に見られたような気がした。

 あてもなく歩くと水神様の小さなほこらに、たどりついた。私が飲み残したラムネの瓶がある。ラムネの瓶をつかみ、蒼いガラスを通して世界を見ると安心した。まるで水の中に居るような……

「お父さん嫌い……」
「よぅ子、なにしている」

 ゆらゆらと瓶を通して、義父が近寄る。

(神様……助けて……)

 瓶の飲み口から声が聞こえる。義父が瓶の中で騒いでいた。とても不思議なのに、不思議に感じない。義父はラムネの瓶の中にいた。

「お父さん、なにしているの」
「ここから出してくれ」
「瓶を割らないと無理だよ」
「早く出せ、ここから出せ!」

 怒鳴る父親が恐ろしい、飲み口から声が漏れて聞こえる。私はゆっくりと池に近づいた。

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「家を出たきりですか」
「はい」
失踪届しっそうとどけを出してください」
「わかりました……」

 母は警察の人に事情を説明してから私を抱きしめた。父は今でも帰って来ない。ラムネは池の底にある。

#ラムネの音
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#小説
#シロクマ文芸部
#ショートショート

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