SS 泣いてたまるか 創作民話
蔵六は小さい頃から頭がにぶい。
小さな村の貧乏の家に生まれた彼は言葉をろくに
覚えれない、両親との意思疎通も難しかった。
他の子供にもいじめられたが、その事も気にしなかった。
その行為を悪意と解釈できない。
大きくなると言われた事をして飯を食うだけの毎日。
庄屋に奉公に出されて主人から、こき使われる
「蔵六、マキを割ってこい」
外に出て斧を取り出す、機械的に斧をふる
「ぞうろく、なにしてるの」
庄屋の孫娘が近寄ってくる。
蔵六は、幼い少女を見ながら手を止める
マキが割れて飛ぶかもしれない
「ななえさま、あぶないです」
手をふって少女を遠ざけようとする
七枝は逆に近寄って蔵六の足にまとわりつく
蔵六は頭をかきながら、少女の胴を掴むと
母屋まで連れて行く
「まぁ何しているの蔵六」
母親は娘に触られて恐怖で怒鳴る
「離して」
叱責すると、蔵六は七枝を降ろして戻る
「あの蔵六は頭が弱いんですよ、娘が危ないですよ」
母親は父親の庄屋に苦情を言う
「まぁ大丈夫だろ、あいつは頭は弱いが勤勉だ」
すっかり信じているようだ
しかし母親は納得しなかった
その日は母親から珍しく使いに出されて道を歩いていると
「蔵六なにしている」
子供の頃から叩いたり蹴ったりしていた男達が近寄ってくる
いつものように笑いながら蔵六を叩く
叩くと言っても本気半分だ
骨まで響くような勢いで殴る
蔵六は黙って頭を下げると歩き出す
「逃げられると思うなよ」
囲まれて散々殴られる
「もう手が痛てええな、石でいいか」
石くれを拾うと滅多打ちをした
路上で倒れている蔵六を村人が見つけて実家に戻した
熱が出て動けないが、十日もすると起き上がれた。
それでも数ヶ月は寝たり起きたりだったが回復をする
その間は、なぜ怪我をしたのかを言わなかった。
知恵があっても犯人は言えない
庄屋の次男坊に殴られたと言っても、うやむやにされる。
蔵六は元気になると庄屋に戻された
勤勉な働き手を怠けさせても仕方が無い
「ぞうろく、おかえり」
七枝が近寄る、ニコニコしながらはしゃいでいる。
蔵六は少女にぺこりと頭を下げると仕事を始めた
「なんで殺さなかった」
母親は次男を叱りつける
「さすがに死ぬかと思ったんだよ、かあさん」
「今度はとどめを刺すんだよ」
いらいらしている母親は、つい七枝に当たり散らした
「またちらかして」
折り紙で遊んでいる娘を張り飛ばす
わんわん泣きながら外に出ると、蔵六が居る
彼は雑草をむしると、草笛を吹いてみせた
七枝は泣き止むと自分も葉をむしってフーフーと
吹いて見せる。
もちろん音がでないがケラケラと笑い出した。
それを物陰から見ている母親は般若のようだ
蔵六は納屋に住んでいる。
そこで草を枯れさせたわら布団で寝ている。
夜中にどんどんと戸が叩かれるので、蔵六を戸を開けた
次男とその母親が居た。
「殺せ」母親が命令をする
次男が持っている鉈が振り下ろすと肩に当たる
その鉈が食い込んで取れない
それは本能かもしれない、純粋な悪意に反応した。
蔵六は次男の手から鉈を取り上げると、母親へ
振り下ろした。
「なんてこった」
夜中で絶叫が聞こえると、村中の人間が集まる
次男は腰を抜かして震えている
庄屋は次男から話を聞くと決意した
「蔵六を牢に閉じ込めろ」
当時は裁判もない、頭の弱い蔵六は人を殺めた
となれば、庄屋自身に責任も発生する。
公になれば、村全体の事件になる。
納屋を牢獄に改造すると押し込められた。
何年も過ぎる、彼は生かされた。
ただ生きているだけの存在で。
「七枝様、お美しいですよ」
隣の豪商の縁談が決まると七枝は、いつものように
蔵六に食事を持っていく。
「蔵六、お別れです」
成長して事実を知ると七枝は蔵六を哀れんだ
食事をきちんと与えるようにした。
でもこれでお別れだ
七枝は涙を少し流すと、座敷牢の鍵を開けた。
その日のうちに蔵六は居なくなる
「七枝、しあわせにな」庄屋は涙を流して見送る
村人も手をふる、婚姻用の馬は、美しく飾られて
七枝は乗馬するとみなに手をふる。
峠を過ぎてもう隣の村だ
「ななえさま」
大きく大きく一回だけ声が聞こえた
泣いているように聞こえた
七枝は心の中でだけで蔵六に返事をした。
おわり
曲から作成してみました