SS 色のある世界
「これで見えるようになります」
白衣の医者が自信に満ちた声で私に告げる。私は幼い頃に事故で頭部に外傷を受けて目が見えない。
見えないのは不便だが、馴れてしまえば生活はできた。でも両親は諦めきれずに治療法をさがしていた。
「新しい治療方法が見つかった、これで視力が回復する」
「良かったね」
父と母はとても嬉しそうにしているので、私は黙ってうなずくのみだ。
(見えるってどんな感じ……)
とても幼かったので私は見える事の記憶が無かった。顔は覚えている、部屋は覚えている、家は覚えてる。しかし曖昧で、はっきりしない。
医者が包帯を取り、目にまぶしい光を当てる。そうまぶしい、これが見えるって感じ。
「ご両親が見えるかい」
「……はい、見えます、父と母がそこに居ます」
指さした先には奇怪な物体がある。黒い線を生やした白い物体は、体を様々な色で塗られた布をつけている、私はしばらく見た後に吐いてしまった。
「見えるようには、なりましたが……世界を認識していません」
「そんな……」
見る、ただそれだけの簡単な行為が、長く失われていた事で脳を変異させていた。少女が見ている世界は、奇妙で奇怪な化け物の世界。
両親も医者も看護婦も、普通の顔な筈なのに醜悪で恐ろしい。自分の顔を見ても同じだ。巨大な目を持つぶよぶよしたものが見つめ返す。
いつしか精神がまいってしまい、医者に懇願する。
「私の目を、また見えなく……」
「それはできない、君は美醜が逆転しているんだ」
「そんな……」
「サングラスを使い、色の波長を減衰させよう」
白と黒の世界、私は様々な色が混じった世界よりは楽になった。奇怪な顔もなれてしまえば、気持ち悪くない。
そんな私もいつしか恋をする、とてもハンサムな男性を好きになり告白した、彼は戸惑いながらも、冗談じゃ無いとわかると真剣に愛してくれる。世界が明るく輝き真っ白に染まる。両親に報告しよう。
「お父さん、お母さん、この人と結婚します」
「……」
美しい娘の横に、老いぼれて腹の出た皺だらけの男がうれしそうに立っている……