SS 黒い動物園 #爪毛の挑戦状

　黒い動物園と金属プレートに刻印されているが、一般家庭の表札だ。

「黒い動物園さんのお宅？」

　不動産の査定を頼まれて来たが一戸建ての六十平米くらいの家は静まりかえっていた。
「家主が死んで親戚が売りたいらしい」と上役から頼まれた。事故物件のような嫌な仕事がよく来る。今回も同じだろう。

　鍵を開けて家に入ると電気は止まっているので暗い。ＬＥＤ式の懐中電灯で中を照らしながら、進むとドアの前にもプレートがある。
「キリン」

ドアを開けると首が伸びきった男が椅子に座っている、首だけでくるりと振り向くと「新しい仲間か？」すぐにドアを閉めた。

「なんだこの家は？」家を出ようとするが玄関が判らない、迷いながら狂ったように歩き回る。ドアには動物の名前が入っている。怖くてドアは開けられない。しばらく歩くと、プレートのないドアを見つけた。何も居ない筈だ、入ってから窓から逃げればいい。ドアを開けると一人の男が立っている。

「新しい動物か、そうだなアカゲザルにしよう」
　気がつくと自分の毛むくじゃらの手を見つめている。

「なんだこの家は」絶叫しながら男を凝視する。男は奇妙な古めかしい貫頭衣を身につけていた。

　立っている男は無表情で「終わりの時の用意だよ」とわけのわからない事を言う。
「ただ問題は……雌が家に来ないんだ」

　俺はこいつのせいで動物にされた。
「あんたの名前は？」
「ノアだよ」
　雌のいない動物園は今でも黒いままだ。

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