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SS 悲しいおままごと #たいらとショートショート

「先にお飲み物お伺いしましょうか?」
おままごとのつもりなのだろう、俺に何も入ってないコップを持ってくる。娘は母親が死んでから俺にそんな事をする。俺は泣きたくなるが「じゃあ水で」というと幼い娘は水道水をおもちゃのコップに入れてくる。「おまちどうさま」まだ十歳だ。

俺に笑いかけながら、膝で甘える。「パパ、お腹すいた」俺も空腹だ。俺は鬱状態なのか仕事も辞めて部屋の中で引きこもっている。飯も作らずに娘を飢えさせる俺は悪い父親だ、死んでしまえと思う。ゆっくりと台所に行くと包丁を見る。これを使って娘を殺して、俺も死のう。

「ママのご飯おいしかったね」娘がつぶやく、俺は大粒の涙を流しながら包丁を握る、くそくそくそくそくそくそくそくそ。俺は包丁を叩き続けた。タマネギを切り刻む、ニンジンも容赦なく皮をむく、ジャガイモを入れてカレーを作った。米を炊いて娘の元に戻ると、おいしそうな臭いに娘は喜ぶ。おままごとの続きだ。
「ご注文はいかがなさいますか?」

(417文字)


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