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短歌 街角の少女 令和版百人一首 【冬の部】
雪降り日 暑さ感じる 胸の音 とどけとどけと みつめる横顔
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音が無い街で自分の鼓動だけ感じる。いつもの時間、いつもの姿、いつもの彼。
「あの……」
「……」
彼に声をかけてしまう。そっと見てるだけで良かったのに、魔がさしたように近づく。
「その……」
「何」
冷たい眼は拒絶を意味する。判っている、彼は心を許さない。
「いっしょに……」
「……わかったよ」
近づくと傘をさす。雪がいつのまにか強くなっていた。彼は言葉を選ぶようにささやく。
「駅まででいい?」
「はい」
嬉しかった、もうこれで死んでもかまわない。
「きっと幸せになるよ」
「そう……ですか」
「ああ、迷う必要なんてないんだ」
「はい」
もう駅が見えてきた、誰かに恋して失って身を投げた。彼はそんな私を見てくれる。
雪降る駅前で少女はすっと消えた。少年は傘を閉じると駅の雑踏にまぎれていく。