シンゴ
シンゴ
子供の頃、僕にはシンゴと言う友達がいた。友達と言っても十くらい歳上だったかなと思う。
どのように出会ったのか覚えていない。いつの間にか右横にいて僕の話をよく聞いてくれた。
シンゴには何でも話した。嬉しかった事、悲しかった事、むかついた事…とにかく色々話した。
いつもゆっくりと聞いてくれて、穏やかな声で答えてくれた。
師走上旬の事、クラスメイトにからかわれた。とても腹が立って悲しくて、悲しくて授業放ったらかしで学校を飛び出して全力で走り部屋へ戻った。
涙が溢れ、止まらなくて…僕は感情にまかせてシンゴに訴えた。
「僕にはクリスマスが来ないって…親無し捨て子だからだって。お前なんかにクリスマスが来る訳ないだろ?って皆んなが言うんだ!笑うんだ‼︎」
「…そんな事は無い。クリスマスは誰のところにも必ず来るんだよ。サトシにも、私にも。」
シンゴはいつもの調子で答えてくれた。僕の中のトゲが抜けて少しだけ気持ちが楽になった。
「…そうか、そうだよね。…うん。うん分かった。」
「もうおやすみ。いつでも話しにおいで。」
シンゴはそう言って微笑んだ。
「ただいま。」
「お父さんおかえり!」
僕が仕事を終えて家に帰ると、五歳になる娘が迎えてくれた。あれから二十年が経っていた。
「あのね、今日お母さんとケーキ作ったんだ。見てみて!」
「へえ、どれどれ……おお⁈サンタはソラが作ったのか?凄いなあ。」
「えへへ、スゴいでしょー?」
「ああいいねえ!…ちょっと待って、着替えるから。それから皆んなで食べよう。」
「わぁーい、やった‼︎」
娘は腕を振り回しバタバタ走り回って喜んだ。
いつしか僕にも普通にクリスマスが訪れて心がぽかぽかと暖かくなる。
そう言えば、いつの間にかシンゴを見かけなくなった。
僕の両親は昔、大地震で死んでしまった。とても小さかったのでその事を憶えていない。家がぺしゃんこに潰れてぐちゃぐちゃになったと、街が燃えて何もかも無くなってしまったと聞いている。
僕もその中に居たけど父が守る様に抱えてたから助かったんだよと、誰かに言われた。誰だったのか分からない。
どの様に出会ったのか覚えていない。
シンゴは確かに僕の右側にいてくれて、ずっと一緒だった、ずっと。
それなのに、僕にも内緒で一体、どこへ行ってしまったのだろう。