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頼り頼られる関係性をたくさんつくり、幸せの総量を増やしたい。スタートアップ「ATOMica」が“結ぶ”幸せのヒント見つけました!

時には頼り、時には頼られる。そんな関係性をたくさん創ることができたら、きっと世の中の幸せの総量は増え続ける――。こうしたミッションを掲げるスタートアップがあります。全国でコワーキング施設を運営しているATOMicaアトミカさんです。

世の中の幸せの総量を増やす!? まさに、われわれ「幸せな働き方伝え隊!」が目指していることと同じではないですか! 一体どうやって、「頼り頼られる関係性」を創り出しているのでしょう? ウェルビーイングのヒントを探すため、代表取締役Co-CEOの嶋田瑞生さんにお話を伺いました。


嶋田しまだ瑞生みずきさん
ATOMica代表取締役Co-CEO。1994年、仙台市生まれ。東北大学1年生の冬にゲーミフィケーションの領域で起業。その後、靴磨きを通じて学生のキャリア教育と地域活性をめざすビジネス団体を立ち上げ、仙台市長から表彰される。新卒でワークスアプリケーションズにエンジニアとして入社。2019年4月、ATOMicaを創業。大学時代からの友人である南原一輝さんと共同代表を務める。

オフィスというより公民館!?

そもそもATOMicaは、どんな事業を手がける会社なのでしょうか。柱の一つが、企業や自治体、大学などの施設をコワーキングスペースとして企画・運営するサービス。現在では全国26都道府県で40施設を展開しています。

コワーキングという名前から連想するのは、ビジネスパーソンたちがパソコンと「にらめっこ」しながら黙々と働いている姿。しかし実際には、幅広い年代が利用しています。例えば宮崎市にある「ATOMica宮崎」では、学校帰りの小学生が宿題に取り組んだり、お年寄りが読書を楽しんだりしているそうです。

「僕たちは『ワーク』をいわゆるお仕事だけでなく、ライフワーク(趣味)やホームワーク(宿題)まで含めて幅広くとらえています。ですから、オフィスというよりも公民館に近い場所かもしれません」。嶋田さんは、こう話します。

ATOMica宮崎。利用者たちは思い思いに自分たちの「ワーク」をしています=ATOMica提供

人と人を結ぶ「気持ち良いおせっかい」

年代も所属も、そしてバックグラウンドも多種多様な人たちが集う。そんな空間で、「頼り頼られる関係」はどのように生まれるのでしょうか。

利用者と利用者をつなぐ「ハブ」の機能を担うのが、「コミュニティマネージャー」と呼ばれるスタッフたちです。全国各地に合計100人以上が在籍しており、全ての拠点に毎日常駐。施設の利用方法からビジネスに関することまで、何でも利用者たちの相談に乗っています。

モットーは「気持ちの良いおせっかい」。日々、利用者たちの願い事や悩み事、相談事に向き合うことで信頼関係を築いています。そして、その人の課題を解決したり、願いを叶えたりするために利用者同士を引き合わせるのです。

人と人を結ぶ取り組みは、コワーキングスペースの中にとどまりません。プログラムやイベントを企画して、地域の社会人や学生、企業が出会う機会を提供。場合によっては、コミュニティマネージャー同士が連携し、地域を横断して人や企業を結びます。その領域は、企業と学生を結ぶ採用支援、企業と地域を結ぶ企業誘致のほか、創業支援や商品開発、探究学習などへと広がっています。

学生×スーパー=課題解決

事例を一つ、紹介します。あるとき、宮崎のスーパーから相談が寄せられました。「自社栽培のオーガニック野菜の魅力を多くの方々に届けたい」というのです。ATOMicaは地元の学生たちに、商品開発への参加を呼びかけます。学生たちは農作業を体験したり、クラウドファンディングで資金を調達したり。スーパーと協力し、かき揚げや有機野菜のキッシュを商品化したところ、ロングセラーになりました。

お惣菜を開発する学生たち=ATOMica提供

スーパーにとっては更にうれしいことに、参加した学生10人中、3人がこのスーパーに就職。メディアにも大きく取り上げられました。「デモデイ(成果発表会)の日は参加者みんな大感動で、涙なしでは見られなかったなぁ」。当時を嬉しそうに振り返る嶋田さんの表情が、とても印象的でした。

ATOMicaがこれまでにインターンやキャリア支援をした学生は4700人以上。2024年上半期だけで、2700件以上の相談事や悩み事を集め、人や企業の出会いを1700件近く生み出しました。こうした取り組みが評価され、2024年11月には「地方創生テレワークアワード」(地方創生担当大臣賞)の「地域課題解決プロジェクト参画」部門で受賞しています。

2024年11月開催の「地方創生テレワークアワード」表彰式に出席した共同代表の南原一輝さん(右端)と嶋田さん(左端)=ATOMica提供

ゆるくていい。「結び目」を増やしたい

ATOMicaは、「人と人」や「学生と企業」といった関係性をKNOTノット(結び目)」と呼んでいます。つながることを意味する「CONNECT」ではなく「KNOT」と呼ぶことには、嶋田さんたちのこだわりがあります。

「CONNECTには『つながっているか否か』という二択のイメージがあります。でも、結び目を意味するKNOTなら、つながりの濃淡をうまく表現できると思うんです」。その心は、つながりは必ずしも強固である必要はない、ということ。「緩くても、弱くてもいい。頼りになる仲間に声をかけ、かけられるような関係性がたくさんあれば、一人で悩む時間がその分減りますよね。これって、ウェルビーイングだなって思うんですよ」

こうした考えには、嶋田さん自身の経験が紐づいています。

学生時代に起業したこと。新卒で就職先を見つけたこと。そして、ATOMicaを始めたこと。「どれも自分で能動的に調べてたどり着いたわけじゃなくて、人との出会いやレコメンドがきっかけになっていました」。この人と出会わなかったら、こんなことはできなかった……。人生の転機には、そんな思いもよらなかった出会い=KNOTがあったといいます。

おせっかいとハラスメントの中間地点

嶋田さんは大学生のとき、地元・仙台で初めての起業を経験。地元の起業家や先輩、市役所の人たちに支えてもらったと振り返ります。

「いろんな人たちに引き合わせてもらったり、このイベント出てごらん、これしてごらんってアドバイスもらったり。おせっかいとハラスメントの中間地点というか。当時の僕には本当に良い塩梅でした」

無関心でも、押しつけや介入でもない。嶋田さんにとって、まさに「気持ちの良いおせっかい」だったのです。「おかげで、自分自身を閉じ込めていた枠や障害がなくなり、可能性が高まりました。同時にこうした経験を、他の人にもぜひ味わってほしいと思うようになりましたね」

起業家の人は行動力があって、人脈づくりにも貪欲。そんなイメージがあるのですが・・・。嶋田さんは首を振り、こう話します。「自分は出会った人たちの『推し』で生きていたい人間です。バックパックで世界一周するようなエネルギーの持ち主ではありません。自ら動き、出会いやチャンスをグイグイつかみ取る。そんなマッチョな人じゃなくても活躍できる世界にしたいんです」

「推し」から得られる「個別解」

インターネットやAIが発達し、様々な情報に簡単にアクセスできる時代になりました。それでも、嶋田さんは「頼り頼られる関係性」の中で得られる「推し」の情報にこそ強みがあると考えます。

「情報化が進んだおかげで『答え』にたどりつく速度が激しく上がりました。便利になった半面、『答えは必ずあるもんだ』という誤解も同時に広がったと思うんです。でも、答えって本来、一つじゃないですよね」

困り事や悩み事の背景や程度は、人や企業によって様々。だからこそ、身近な存在の「推し」から生まれる「個別解」は「腹落ち度が違う」というのです。「ネット上に広がる『最適解』や『単一解』を無理やり自分に当てはめようとすると『呪い』になってしまう。『推し』の中で暮らしていけると、幸福度も上がると思うんです」

ATOMicaが生み出したいのは、「それってちゃんとググった?」と同じ感覚で、「それってちゃんと人に頼った?」と言える文化です。「人に頼ったり頼られたりするのって、悪くないよね。そんな世界になると、ウェルビーイングがもっと広がると思っています」

#起業 #地方創生 #人的資本経営