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"復職式"で伝える「おかえり!」~男性育休取得率100%を叶えたオイシックス・ラ・大地

育児休業から復帰する仲間を歓迎するため、入社式や入学式のように「復職式」を開いている会社があります。「Oisix」や「らでぃっしゅぼーや」など、食品の定期宅配サービスで知られるオイシックス・ラ・大地さんです。

単なるセレモニーと思うなかれ。毎年開催することで、社員の子育てを応援する風土が生まれ、2023年度には男性の育休取得率が100%になりました。何より、当事者が抱える育児や復職への不安を和らげ、復職しやすい職場づくりを進める狙いがあるそうです。

取材をしたらウェルビーイングな職場づくりのヒントが、たくさん見つかりそう。そこで、「幸せな働き方伝え隊!」は復職式を企画した鷲尾早紀さんと、実際に復職を経験した大熊俊之さん、細木友希さんにお話をうかがいました!


「戻ってきてくれて、ありがとう」

「おかえりなさい」「復職を社員一同、心待ちにしていました!」。2024年4月、女性9人、男性1人の計10人が参加した復職式。お野菜のブーケと共に手渡された「復職証書」には、歓迎の気持ちを伝える言葉がつづられていました。

復職するみなさんに贈られた復職証書とお野菜のブーケ=オイシックス・ラ・大地提供

式の途中には、新潟に出張中の高島宏平社長がオンラインで登場。こんなメッセージを贈りました。

「復帰後は、復職前の自分とは比較せず、逆にお子さんがいるからこそできることや、新しい働き方、暮らしとの両立をみつけていってほしいです。長期的に持続可能な活躍をしてもらいたいなと思っています。戻ってきてくれて、ありがとうございます」

出張先からメッセージを贈る高島宏平社長=オイシックス・ラ・大地提供

復職式は2017年から毎年開かれています。企画したHR本部人事企画室の鷲尾早紀さんは、式を通して「おかえりというウェルカム感と、安心して戻ってきてほしいという気持ち」を伝えることを常に意識しているそうです。

ご自身も育休と復職を経験したという鷲尾さん。「当事者になってみると、いろんな不安を感じるものですよね」。本当に子育てと仕事って両立できるのかな・・・。自分は会社に求められているのかな・・・。そんな不安を和らげ、少しでも前向きな気持ちで戻ってきてほしいと復職式を企画したそうです。

式には必ず参加しているという高島社長。トップ自らが直接メッセージを贈ることには大きな意義があると、鷲尾さんは考えます。「良い意味で『育休前と同じ働き方は期待してないよ』というメッセージを毎年伝えてくれています。それを社長から直接言われる安心感って絶大だと思うんです」

復職式を企画した鷲尾早紀さん

2023年度、男性育休取得率が100%に

復職式を始めて8年がたち、社内の風土にはどんな変化があったのでしょうか。鷲尾さんは「男性も含めて育休を取ることが当たり前になってきたし、復職後のママやパパを良い意味で区別しない空気が生まれました」と話します。同社のお客様には働くお母さんが多く、社員のみなさんが子育ての大変さを理解していることも根底にあるようです。

象徴的なデータが男性の育休取得率です。2018年度の11%から年々上昇し、2023年度には100%を達成。対象の13人全員が育休を取りました。民間企業の男性育休取得率が30%(2023年度、厚生労働省による調査)にとどまる中、同社の数字は突出しています。さらに、復職のタイミングや勤務内容を柔軟に調整できる仕組みもあり、復職率100%を維持しています。

「1ヶ月じゃもったいない」

復職した社員の方々の実体験も伺いました。大熊俊之さんは双子のお子さんの誕生を機に、3ヶ月の育休を取得。2023年春に復職しました。

男性の育休について、企業によっては周囲の理解が乏しく、取得をためらうケースも少なくありません。しかし、大熊さんの場合は状況が全く違ったそうです。「周りからはむしろ『ぜひ取って』と言われるほどで、本当にありがたかったです。それに、夫婦で育休を取らないと双子の育児を乗り切れなかったと思います」

子どもたちの成長を間近で見られることは「かけがえのない機会」と感じる大熊さん。「だから、1ヶ月しか取ってない男性社員を見ると、『もったいない』って思ってしまいます」

大熊俊之さん

大熊さんは、食品宅配サービス「大地を守る会」で畜産・農産品の仕入れや開発を担当しています。復職後について、不安はなかったのでしょうか。

「あまりなかったですね」と答えたものの、すぐに「でも、そんなことないな」と苦笑い。「うまく言葉にできないんですけど、仕事を復職前と同じレベルでできるか、不安はやっぱりありましたね。仕事って、一つの点で終わらないというか。その次の点やその先の背景があって、いろんなことが有機的につながっていると思うんですね。でも、復職後はそのあたりの想像力があんまり働かないし、数字もなかなか頭に入らなくて・・・」。そう語る大熊さんに「勘が鈍るという感じですか?」と聞くと、「あっ、そうです。その表現がすごくしっくりきます」

では、男性が育休を取りやすい環境に必要なことは何でしょうか。「会社の制度や仕組みも必要ですが、やっぱり受け入れる側の理解やサポートが大切だと感じています。受け入れる環境が整っていれば、『俺も取って大丈夫かな』という心理的な安心感が生まれると思うんです」。復職後、支えられる立場だった大熊さんは「今度は育休の経験者として、復職する仲間たちをサポートしていきます」と話してくれました。

悩み、戸惑った 1度目の復職

細木友希さんは2度の復職を経て、挑戦する勇気と仕事の楽しさを得たといいます。

最初の復職は2020年春、1年半の育休を取った後のことでした。「子育てはもちろん、長期間休むことも初めてで不安は大きかったですね」。当時はコロナ禍の真っ最中。オンラインによる復職式に参加し、「コロナ禍でどんな風に働けばいいのかも分からないなか、会社が自分のことを待ってくれていると思えて、本当にありがたかったです」

細木友希さん

それまで残業も厭わず働いていたという細木さんは、育児と仕事との両立で悩むようになります。「働く時間は限られてしまうし、子どもが熱を出すこともあって・・・。初めて自分の仕事の『出来高』みたいなものを考えるようになり、職場のサポートに見合った仕事ができているのか分からなくなってしまいました」

正社員をやめてパートで働くことも考えたといいます。「子どもを保育園から移そうと幼稚園の願書を取り寄せ、にらめっこしながら悩む時期もありました」

それでも、仕事を続けたのは、サポートしようという会社の姿勢を意気に感じたから。「ライフステージが変わっても働き続けられる環境を整えてくれていることは分かっていたので。今はちょっとつらいけれど、もう少し頑張って働いた方が結果的にはプラスになるんじゃないかと思ったんです」

今、仕事が断然面白い 2度目の復職

そして、2人目のお子さんを出産。2023年春、2度目の復職を迎えました。一度経験したことで、何事も「いいようになるでしょ」と割り切れるようになり、気持ちが楽になったそうです。

「職場でも家庭でも、前より人に頼れるようになったことが成長かなって思います。仕事をたくさん抱えそうになったら、上司や仲間に相談するようにしています。夫も在宅で働く時間を増やせるようになって、夫婦で育児をする環境ができています」

細木さんは今、「仕事が断然面白い」と感じています。入社以来、プレミアム時短をコンセプトにしたミールキット「Kit Oisix」を担当。「扱っている商品はずっと同じですが、チャレンジする案件の大きさが変わりました」。現在は10分以下でメインの一皿が作れる「超ラクKit Oisix」というラインナップでリーダーの役割を担っており、自らの裁量でプロジェクトを進める面白さを感じています。

「新しい世界が待っているよ」

2度目の復職後、大きな案件を任されたときには驚いたそうです。「子どものことで突発的に穴を空けてしまうこともあるし、働く時間の融通もきかないのに。私で大丈夫ですかって思わず聞いてしまいました」。それでも、職場の上司や同僚は「大丈夫、やれるから」「困ったら助けるから」と背中を押してくれました。「チャレンジする機会を与えてくれて感謝しています。子育て中でも『できるよ』って言ってもらえる。そんな環境が復職者には大切だと思うようになりました」

復職前は、今のように仕事を楽しむ自分を想像できなかったそうです。「私の場合は、子どもがいるから『自分はできない』と考えずに、まずは挑戦したことで世界が広がりました」

これから育休を取る人や復職を控えている人に向けて、細木さんにメッセージをいただきました。「前向きにいろんなことに取り組む人も、子どもとの時間を優先してゆっくり過ごす人も、それぞれ素晴らしいと思います。どんな過ごし方であっても『復職したら、新しい世界が見えて楽しいことがあるよ』ということは言えるかなと思います」

#人的資本経営 #人間関係 #子育て #オイシックス・ラ・大地