道草の家のWSマガジン

エッセイ、小説、詩、etc. を書く「道草の家のワークショップ」のウェブ・マガジンです…

道草の家のWSマガジン

エッセイ、小説、詩、etc. を書く「道草の家のワークショップ」のウェブ・マガジンです。作品もあれば未完成の素材もあり、メモや、何になるのかサッパリわからないガラクタも置かれているかも。気楽に読んで & 書いてください。

最近の記事

道草の家のWSマガジン - 2024年11月号

詩のようなもの - RT 福井のおがらす神社というところに 今年も行くことができた 暑い暑い日 蝉が鳴いている 透明な水路があって 勢いよく湧き出る水を 触ってみたらひんやりとしていた 大きなボトルに水を汲む人がいて この水で珈琲を淹れてみたいと考える 水路で梅花藻という小さな白い花が揺れる サルスベリの花が散って 白とピンクと緑がゆらゆら 大きな青いトンボが飛んでいく 植木作業をしている人たちが こんにちはと声をかけてくれて嬉しくなった ぺこりと頭を下げて

    • 道草の家のWSマガジン - 2024年10月号

      ネコ番組 - 優木ごまヲ ネコの出てくる番組をつけると子供が喜ぶので、家事をしたい時や、ちょっとエネルギーのない日などに、テレビのハードディスクの中のネコ番組を再生して見せている。野良猫が路地裏を歩きまわり、仲間たちと遊び、ご飯を食べ、のんびり眠る様子が、穏やかな音楽と共に一時間続く。いいじゃないの。遠景にローカル線が走り抜けていく場面などもあるから、鉄道好きでもある子供は大はしゃぎだ。ネコが出てくるバラエティー番組は数あれど、安易に感動ストーリーへ持っていこうとしたり、

      • 道草の家のWSマガジン - 2024年9月号

        誰かを頼るということ - 清水よう子 休職することにした。 自分が使うことはないだろうと、思っていた手札だった。ずっと体調は悪かったが、何とかコントロールしてやっていけると信じていた。 ある日の勤務中、その日は仕事にゆとりがあったので、ぼんやりと考え事をしていた。すると、最近、本当に自分が頼りたい方法で、他者とコミュニケーションを取っていないことに気がついた。 ずっと、1人で生きなければならないと思っていた。辛くても1人で問題を解決しないといけないと思い込んでいた。スモ

        • 道草の家のWSマガジン - 2024年8月号

          麻績日記「蓋をした私」 - なつめ  校長先生に東京に戻ることをお伝えした日の翌日、お世話になった先生方にも東京に戻ることを伝えることも勇気がいることだった。 「え! 急ですね。ざ、残念です」  と先生方に言われ、誰よりも残念な気持ちでいる私は、 「はい、そうなんです。本当に、だれよりも残念なのですが」  と、答え、もうだれに何を言われても私は動じない、揺るがない、そして息子が元気になるために、ここを去ると決めたのだ、と自分に言い聞かせ、東京に戻ることだけをただ伝えたのだ

        道草の家のWSマガジン - 2024年11月号

          道草の家のWSマガジン - 2024年7月号

          旅の話 - 木村洋平 「旅とは健やかに生きること。このことをけっして忘れないように。」これは私がいつかノートに書きつけた言葉だ。 旅は非現実、非日常の感じがする。10代の頃から旅を好きでいながら、どこかで畏れ続けてきた。 はじめ、私の旅は一人旅だった。10代20代の頃、一人であてもなく歩くことを旅だと思った。けれど、次第にそれをただの観光、娯楽、趣味にすぎないと感じるようになってやめた。 次に移住をした。北海道の風土に惹かれ、札幌に賃貸で住んだ。その時、ある仕事に取

          道草の家のWSマガジン - 2024年7月号

          道草の家のWSマガジン - 2024年6月号

          お出かけやめた - Huddle 中庭のグランドカバーになっているクラピアが一斉に花をつけて、緑のうえに大きな雪片がバラまかれたような景色に、きょうもまいあさうっとりしなければならない。クラピアの花は小さいのにとても複雑なつくりになっていて、その構造をつぶさに覗き込むための若い眼がほしい。ゴールデンウィークに出かけるのをやめた。唐突に先月のことを振り返るコーナーだった。昨年はしまなみ海道をドライブしてまわったようだった。どの方角にも橋が眺められる展望台がすてきだったのに、

          道草の家のWSマガジン - 2024年6月号

          道草の家のWSマガジン - 2024年5月号

          帰り道花見 - 片山絢也  川沿いに桜がずっと続いている。近くの行政管轄の施設の敷地には、また別の種類の桜が植えられていて、もっと色味が濃い。どちらの桜もライトアップされて、滲んだ光になっている。自宅方向に歩いていくと、敷地を通り抜ける花見を終えた人たちとすれ違う。そのときに起きる風は、甘い香りがする。また、少し空気が揺らいでいるようにも見える。時々、川と緑の匂いにかき消される。  その人たちは、年代も人数もばらばらだが、姿が木々の陰になって、それぞれ別の深い感情があるよ

          道草の家のWSマガジン - 2024年5月号

          道草の家のWSマガジン - 2024年4月号

          春に - 橘ぱぷか みててよね儚いだけじゃないからねバーンと夜に桜のランウェイ 毎度のことながら慌ただしい毎日がはじまって、嘘みたいな速さで時間が過ぎていく。意味わかんない意味わかんないゆっくりしたい、けれどできないが続く中、気づけば桜が満開になっていた。咲いたそばからすぐにひらひらと散っていくのがかなしい。でも綺麗。 昼間は控えめ、夜はまばゆく月やライトに照らされて、なにやら溜まった鬱憤を晴らしてるみたい。 華やかな風景やゆるんだ空気に心が追いつかず、今年もうまく春に

          道草の家のWSマガジン - 2024年4月号

          道草の家のWSマガジン - 2024年3月号

          ミモザによせて - UNI わたしの母は仕事・家事・育児に頑張る女性だった。お昼休みにスーパーに買い出しに行って、それを職場の冷蔵庫に入れていたという。帰りは電動なんてまだ無い元祖ママチャリぶっ飛ばし、すぐに夕飯の支度にとりかかる。 わたしには弟への嫉妬心が密かにあったんだろうと今は思うけれど、母に誉められたくて、洗濯物を取り込んで畳む係を小学校に上がる春に立候補した。母が喜んでくれた顔を鮮明に覚えている。 「えっ、いいの? 毎日?」 「うん、小学生になるんやもん」 それ

          道草の家のWSマガジン - 2024年3月号

          道草の家のWSマガジン - 2024年2月号

          ゆき - カミジョーマルコ 白い影に ふと目をあげると 外は雪がふっていた ふわりふわり ひらりひらり 隣のアパートで子どものはしゃぐ声がする すごいね すごいね お姉ちゃんと妹と すごいね すごいね その上の階に住む若い母親は きっと 産まれてまもない赤ん坊を抱いて 窓の外をみてる はじめてみる白い世界を 赤ん坊にやさしく語りかけている その先に一人で住んでるおばあさんは カーテンを閉めながら きっと ねこのことを考える この雪の中 寒さに震えてるんじゃな

          道草の家のWSマガジン - 2024年2月号

          道草の家のWSマガジン - 2024年1月号

          短いようで長い道のり - maripeace 先月はWSマガジンの原稿を送れなかった。途中までしか書けなくて、送らなかった。たぶんRTさん主宰の「壁の花の会」に参加した時のことを書いたと思う。会が終わった後に見た、ムクドリの大群のことだ。あれから何度か、同じ場所でそれを見た。 去年の夏、北海道を楽しむことに夢中になり、秋に東京に戻る直前に風邪をひいた。帰ったら、自分の部屋の窓から見える風景にものすごく退屈して、それまで過ごした二ヶ月間の高揚感との落差にがく然とした。夏に

          道草の家のWSマガジン - 2024年1月号

          道草の家のWSマガジン - 2023年12月号

          12月 - のりまき放送 降車する停留所を間違えたくなかったので、電光掲示板が見える前方の席に座った。緩やかにバスが振動し、動き出す。町中を抜けて山側へと進んでいく。ちらりと前に座るおじさんを見ると、スマホでアダルトサイトを見ていた。画面が目に入ってきて、自分のほうが恥ずかしくなった。思わず窓の外へ視線を逸らす。降車ボタンが鳴る音。この人は絶対に滝行に行くだろうな、と思っていた人はいつの間にかバスを降りてしまった。しばらくバスに揺られる。停留所から数分ほど歩き、お寺に到着

          道草の家のWSマガジン - 2023年12月号

          道草の家のWSマガジン - 2023年11月号

          沖縄の花 - maripeace 花を一輪買った。時々相談するお坊さんに、自然が足りてないから部屋に切り花を飾るといいよと言われて、花屋さんに選びに行った。デンファレという種類の蘭の花。淡いピンクと白のグラデーションがいいなと思ったのと、香りがないのがよかった。蘭に親しみを感じるのは、沖縄でよく見かけたからかもしれない。住んでいたアパートの前にお花屋さんがあって、一度だけお店の人と話をした。内地では贈答用のすごく値が張る蘭の鉢も、産地だからか手頃な値段のようだった。職場に

          道草の家のWSマガジン - 2023年11月号

          道草の家のWSマガジン - 2023年10月号

          琥珀色 - 田島凪  きみから私をゆっくりと引き剥がし、その背中に枕を添わせる。夜が終わったことを、きみに気取られないようにそっと。腹筋に力を込めて上体を起こし、糸よりも細く息を吐く。目覚めはじめた呼気が、眠りの海に波紋を描かぬようにすっと。 
 猫の足の運びで部屋を後にし、仄かに薄荷の香る台所に向かう。夜を見届けた鏡の前に立ち、時を告げる鳥のように身繕いをする。置く前に心で三つ数えれば、ブラシは音を立てない。  推定十七歳の、この世でいちばん美しい犬は、病と老いの冷雨に

          道草の家のWSマガジン - 2023年10月号

          道草の家のWSマガジン - 2023年9月号

          果実の話 - UNI  フルーツ。fruit. 実を結ぶ。果実が成る。  果実はすべて、人間のためにあるのではない。果実は動物に食べられ、糞として落とされることで種子を運ばせた。果実は動物に選ばせるために自らの色を変えた。果実は時に毒を持ち、自らを守った。  ひとが一人生きる。それは果実である。  ひととひとが生きる。果実が成る。  日々が過ぎる。この日々は果実を実らせるために過ぎるのか。実らないのであれば日々はなぜ過ぎるのか。  少し前にはメロンの小玉を、そして数日前に

          道草の家のWSマガジン - 2023年9月号

          道草の家のWSマガジン - 2023年8月号

          「藤橋」覚え書き - スズキヒロミ  昔々、あるところに、一本の橋がありました。その橋は藤の蔓を編んだ吊り橋で、村人から「藤橋」と呼ばれていました。  藤橋は、その村と向こうの村の境にあった沼を渡り、そしてその先の道は中山道の宿場に通じておりました。そのため行き交う人は多く、荷を積んだ牛や馬も通りましたが、なにしろ藤蔓の吊り橋なので、渡るのに難渋する者が多かったといいます。  ある時、そこに一人の旅人が通りかかりました。小平次というその旅人はいわゆる「六部行者」で、全国六

          道草の家のWSマガジン - 2023年8月号