ウラジーミル・ソローキン『テルリア』リプス!
『青い脂』の凄まじい読書体験が忘れられないウラジーミル・ソローキンの描く、”ユートピア的多島海(アーキペラゴ)”と化した近未来ロシア。
なんというイマジネーション! なんという自由! ワケがわからない面白さ。
『青い脂』でもそうだった、妙味に気づけていないことは読みながらにして明らか。
なのに麻薬のように不思議世界へ引っ張られ、あらゆる手法、あらゆる長さ、あらゆる遊びとイロニーで読まされてしまう。
むつかしくても放り投げられない。
『青い脂』よりストーリー性を失った、際物なのに、増します無二観。
ずっとソローキン作品を翻訳し続けている松下隆志氏に感謝しつつ、恐れ入るばかり。
<タリバン>襲来後の世界に、すでに日本はない。
サハリン島として黄色く塗りつぶされてしまう程度だ(46章)。
政治も宗教も人間も、複雑多彩に存在する新しい中世には巨人や小人、獣人までいる。
それなりに和平を結びながら、しかしアルタイ地方のテルル合法の産出国”テルリア”だけは権威を強めていく。
頭を剃り耳の上に打ち込む釘=テルル。
麻薬であり、それ以上でもある。
もしも打ち込みに失敗すれば命を無くしかねないテルル。
電脳とそのバーチャルリアリティの支配する世界で、自然へと回帰していくひとりの男の原始的生活が綴られて、最終章は幕を降ろす。
訳者あとがきにあるように、一続きの物語があってないゆえ適当に好きな章から読んでみるのもありなのだ。詩みたいに。
それがいつかの再読の楽しみになればうれしい。
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