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作家にしておくのにはもったいない、イケオジ島田雅彦著『君が壊れてしまう前に』

いつか教育テレビで見かけた島田雅彦氏が、作家にしておくにはもったいないほどの私的イケオジすぎて、著作を手に取ったのはかれこれ7年も前の話。
島田作品はぜんぶいい。そんな感想をどこかで目にして、制覇したいとおもったまま、やっぱり7年が過ぎていた。こわ。
『ニッチを探して』以来、久しぶり。1998年角川書店刊行。

ぼくのまわりは敵だらけだ。謎の教師が教えてくれた、世界とうまく戦うコツを。
1975年正月から一年間つづられた日記。まだ何者にもなりきれない「青二才」としての存在を描く。 (「MARC」データベースより)

ーかつて14歳だったあなたへ。いま14歳の君に。ー (帯)

そんな頼もしいエールを込めた異端児の日々のキロク。
日記文学が好きなわたしによく響いた。

1975年、学生運動がいまだくすぶる時代、当時のわりとブルジョワな家庭の、アンネ・フランクが日記を書き始めたのと同じ年の主人公が日記をつけはじめる。謎の教師とはそう、もうひとりの自己なのだ。

父親の不倫、希死念慮、ノストラダムス、恋、バッハのゴルトベルク変奏曲、日々行われる自慰の儀式アフェア...骨肉腫が同級生の命を奪って少しだけ、続かない日常があることを知る。
名前は<♡君>、てちょっとふざけすぎてるけれど。

科学部でクラシックレーコードに夢中、よく図書館へ通い、邪念を抱きながらも女子大生家庭教師がついて勉強を欠かさない。
ポケットには理科室から盗んだ塩酸。不良たちに絡まれたら迷わずに振りかけるのだ。
日記なんかつけてしまう内省的な奴ほど面白く、マジメな奴ほどヤバイ奴。

14歳の壊れそうな危なっかしい時代を生きのび30歳になった主人公が、別れた彼女に”日記”を奪われたことで、物語ははじまる。
彼女は主人公の過去にまで嫉妬したのだ。言い換えるなら、彼は未だに過去に執着している。
日記を簡単に捨ててしまえるのは女のほうで、捨てられずに持ち続けるのはわりと男のほうなのかもしれない。

拘泥か、ノスタルジーか。どちらにせよ、14歳の日記にはまだ何者かになれると信じていたころの青二才という名の可能性の塊が呼吸をしている。
必死で、ぶれない洞察で、赤裸々な言葉が滑稽に柔軟に真摯で好きだった。

ダダ(父親)、マム(母親)、TM川、ダダ・クラブ、スタンダップ(立ち食い)...1970年代の匂いがぷんぷんする。
そこに数多く登場するクラシックレコードのタイトル、なかでも通奏低音として流れるバッハの『ゴルトベルク変奏曲』が最強。
これを書きながらサブスクで聴いているけれど、CDが欲しくなってしまった。

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