『サウンド・オブ・フリーダム』にみる、荒涼たるアンダーグラウンド
これほど一筋縄でいかない作品も珍しい。
国際的な人身売買組織から少年少女を救い出した実在の人物ティム・バラードを、ジム・カヴィーゼルが渾身で演じる。
アメリカだけでも年間200万人の子どもたちが誘拐されているという驚愕。連れ去られ、小児性愛者(ペドフィリア)の欲望を満たす道具となる子どもたちは、ドラッグより長く金になる資金源なのだ。
闇社会に挑んできた連邦捜査官ティムの仕事は性加害者を検挙すること、被害者の子どもたちを救えはしない。ある時この事実に耐えきれなくなったティムは、おとり捜査でメキシコ人少年を救ったのがきっかけで、危険な潜入作戦に出る。少年の姉・ロシオや大勢の子どもたちを救出するため、いつか組織からも離れ、コロンビアの奥地へと向かうことになるのだった。
ジム・カヴィーゼルのクリスチャンとしての信念、生き方そのものが作品に滲み出る。
かつてキリストを演じた、ガタルカナルの戦場で、強制収容所で見せた、あの眼差しとおなじものなのだ。
唯一無二で強すぎる。
そして、どんなにおぞましい社会派であってもエンタテイメントを忘れず、ティムの助太刀に回る怪しげなはぐれ者バンピロ(ビル・キャンプ)との間に息つく場面を用意する、ふと笑える瞬間がある。全くぬけめがない。
メキシコで、コロンビアで、米国で、繰り広げられる人身売買の有様は想像逞しく観ても信じがたい規模の計り知れない酷さなのだった。
撮影から5年、政治的な圧力を乗り越え上映に漕ぎつけたという本編は、一部の人間にとってタブー。作品の評判を調べればおのずとQアノン陰謀論にあたり、あのイカレタ映画『アドレノクロム』まで思い出した。
かつて『パッション』でタッグを組んだメル・ギブソンは本編で製作総指揮に名を連ね、メルといえばトランプ支持者で、もうなにがなんだか。
よくわからないけれど暗示に満ちている気がする。
世界はどこへ向かっているんだろう。
いい作品だったのに、単純にそれだけで終わない、一筋縄でいかないこのかんじ。
エンドロールにはジム自ら観客へ向かって思いを語るのだ。
公開までの困難やシビアな内容に対する配慮を。作品を広めるためQRコードをスクリーン上に表示させアクセスを促す。
ジム・カヴィーゼル独壇場。
監督は『リトル・ボーイ 小さなボクと戦争』のアレハンドロ・モンテベルデ。
鬼畜。
コロンビアの奥地が恐ろしかった。