【税理士監修】ストーリでわかる「未成年者の相続」
美香(42歳)は、神戸市の閑静な住宅街にある自宅の庭で、週末を過ごしていた。夫(健太・45歳)と長男の太郎(10歳)は、犬の散歩にでており、次男の一郎(7歳)がリビングで子供番組に夢中になっている間、彼女は大切に育てているバラの手入れをしていた。
そのとき突然、携帯電話が鳴った。画面には夫である「健太」の文字。美香は、不思議に思いながら電話に出た。
「もしもし、あなた?」
「お母さん、すぐにきて。お父さんが...」
電話は太郎からだった。太郎の声は震えていた。美香は胸が締め付けられるような不安を感じながら、急いで夫と太郎のもとへ向かった。
到着すると、そこには悲しい現実が待っていた。夫の健太が突然の心臓発作で亡くなったのだ。
悲しみに暮れる中、美香は自分がしっかりしなければならないと感じていた。
数日後、家族や親戚が集まり、健太の遺産相続について話し合うことになった。美香は相続に関する知識がほとんどなく、不安を感じていた。そんな時、父の古い友人で税理士の田中さんが、相談に乗ってくれることになった。
「美香さん、まず理解しておいてほしいのは、太郎君と一郎君も相続人になるということです」と田中さんは説明を始めた。
美香は驚いた。「子供たちも?でも、まだ小学生ですよ」
「そうなんです。ここで重要になってくるのが、『特別代理人』という制度です」と田中さんは続けた。「未成年者は法律上、単独で相続の手続きをすることができません。かといって、あなたが代わりに手続きをすると、利益相反の問題が生じる可能性があります」
美香は困惑した表情を浮かべた。「利益相反?」
「そうです。子供たちの取り分が不正に減らされることがあるので...それを防ぐために、中立的な立場の人が子供たちの代理人となる必要があるんです。」
美香は少し安心した。「なるほど。子供たちの利益が守られるわけですね」
「そのとおりです。特別代理人は家庭裁判所に申立てをして選任されます。早めに手続きを始めることが大切ですよ」
次に、田中さんは別の重要な点について話し始めた。
「それから、お子さんたちには『未成年者控除』という制度が適用できます」
美香は首を傾げた。「未成年者控除?初めて聞きました。それは一体何ですか?」
田中さんは丁寧に説明を始めた。「未成年者控除は、18歳になるまでの期間、1年あたり10万円の相続税が控除される仕組みです。つまり、子供たちの相続税負担を軽減する制度なんです」
美香の表情に戸惑いが浮かんだ。「相続税?子供たちに相続税がかかるんですか?それに、控除って具体的にどういう意味ですか?」田中さんは優しく微笑んだ。「そうですね、少し複雑に聞こえるかもしれません。まず、相続税は遺産の価値が一定額を超えると、相続人全員にかかる可能性があります。子供たちも例外ではありません。」
美香は驚いた様子で聞き入った。
「そして控除というのは、計算された相続税額から差し引かれる金額のことです。つまり、支払う税金が少なくなるんです」
美香はゆっくりと頷いた。「なるほど...でも、具体的にどれくらい控除されるんでしょうか?」
田中さんは計算しながら説明した。「太郎君は10歳ですから、18歳までの8年間で80万円。一郎君は7歳なので、11年間で110万円が控除されることになります。」
美香は目を見開いた。「え?そんなに?でも、それってどういう意味があるんですか?」
「簡単に言えば、子供たちの将来のための資金をより多く残せる可能性が高くなるということです」田中さんは穏やかに答えた。「たとえば、教育資金や生活費として使えるお金が増えるかもしれません」
美香はゆっくりと理解し始めた様子だった。「そうか...健太が残してくれたお金を、子供たちのために有効に使えるということですね」
田中さんは頷いた。「そのとおりです。ただし、これはあくまで相続税の計算上の話です。実際の遺産分割とは、別の問題になります。」
美香は深く息をついた。相続の複雑さに圧倒されながらも、子供たちの将来のためにしっかりと理解しなければと決意を新たにした。
「ありがとうございます、田中さん。まだまだ分からないことだらけで頭が混乱しそうですが、一つずつ理解していきたいと思います。特別代理人の選任と未成年者控除の手続き、私にできることから始めていきます」
田中さんは優しく微笑んだ。「そうですね。一緒に頑張りましょう。子供たちの未来のために、最善の選択ができるよう支援させていただきます」
美香は窓の外を見た。庭に咲くバラが、健太との思い出とともに美しく輝いていた。これから始まる相続の道のりは決して簡単ではないだろう。しかし、家族の絆と適切な助言があれば、必ず乗り越えられると信じている。