Message1
枕元のiPhoneを探し当てて指紋認証でロックを解除する。画面に目を近づけると5時半のアラームが鳴る少し前だった。天井に向き直して布団の中に身体を潜り込ませる。
予定通りアラームが鳴ってiPhoneのサイドボタンを押す。スヌーズで10分確保だ。
自分を大切にすること
ことばが頭の中に浮かぶ。
自分を大切にする。あー、そうだな。そうそう。自分のこと、大切にしなくちゃな。そのつもりだったけど、忘れてたかな。
ん?なんで、こんなことばが浮かんだのだろう。目が覚めてくる。
昨夜は「本を読む」ことについて、考えていたんだ。なぜ、本を読むのだろう。読みたいから。そう、読みたいから。なぜ読みたいのだろう。面白いから。そう、面白いから。でも難しくて面白くない本を読もうとしている。なぜ?
知識を得るため?得た知識は何に使うの?誰かに説明(自慢)するため?いや、そんなんじゃない。理解するため?理解したことを使って何かするつもり?うーん、何かしたい気もあるけど、そればかりじゃない。理解できないことたくさんあるし。じゃあ、その本読んで理解できないことは、無駄ってことになるの?うーん、無駄だとは思いたくないなぁ。
自分を大切にすること?
スヌーズのアラームが鳴るまであとどれくらいだろう。薄暗い天井を眺める。
じゃあ、自分を大切にするには、どうしたらいいの?
ひとまず、全肯定すること
またことばが浮かぶ。
全肯定。これは苦手だな。全、オール、なんてもちろんのこと、小さく肯定するのも苦手だ。
スヌーズのアラームが鳴る。10分遅れの月曜スタート。早めに動かなくちゃ。
起き上がってダイニングに向かうと家内はキッチンで卵焼きをつくっている。
「あら、おはよう。今朝は遅めね」
「ちょっと寝坊した」
洗面所に向かって歩く。
「体調はどう?」
背中に小さく聞こえる。
「たぶん大丈夫ー」
大きめの声で答える。
洗面所で蛇口のハンドルをひねる。少し待って出てきたお湯の温度を調整する。手に取った石鹸をお湯で泡立てる。目を閉じて顔全体に泡を広げる。手で掬ったお湯で泡を洗い流し、置いてあるタオルで顔を拭く。鏡に映る、寝むたそうな顔。目の奥を見る。
自分を大切にすること
ひとまず、全肯定すること
忘れていない。
覚えている。
これは、メッセージだ。