モード、A又はB

モードA
彼は死んだように生きている。牢獄に閉じ込められた彼の心はどうなっているのか。鎖につながれて自由を奪われているのかも知れない。固まって化石になっているのかも知れない。彼はそれをそのままにして、生きている。心のスイッチをオフにする。そうすると、悲しみを感じなくなる。同時に、歓びも感じなくなる。全てのスイッチがオフになる。彼はそれでも良いと思い、スイッチをオフにし続ける。歓びがなくても、悲しみがなくなると、楽になると思った。しょうがなかったのだ。彼は生きていかなければならなかった。あと少しだけ、この世で生きていかなければならない。彼はスイッチをオフにする。「あなたは、生きているのだろうか」と誰かに問われても、彼は応えない。生きると決めて、死んだように生きる。

モードB
彼は生きたいように生きている。閉じ込められていた牢獄から解放された彼の心は、つながる鎖を断ち切り、奪われていた自由を取り戻した。固まって化石になっていた心を包み込んで柔らかくする。彼は意志をもって、生き直す。心のスイッチをオンにする。そうすると、悲しみを感じはじめるが、同時に、歓びも感じはじめる。全てのスイッチがオンになる。彼はそれが心地よくて、スイッチをオンにし続ける。歓びと悲しみが溢れてきて、生きていると思った。どうにかしたかったのだ。彼は生きていくことに決めた。あと少しだけ、この世で生きていく。彼はスイッチをオンにする。「あなたは、生きているのだろうか」と誰かに問われると、彼は「生きている」と応える。生きると決めて、生きたいように生きる。