『たまごの祈り』⑥

 私たちはそのまま家の近くのコンビニエンスストアまで、月の浮かぶ夜を歩いた。あたたかなラーメンを食べた私はなんだか自分が強くなった気がして、柳の歩幅を無視してずんずん歩き、レ・ミゼラブルに出てくる民衆の歌を、でたらめな音程の鼻歌で歌った。私はそのときどうしてもアイスが食べたかった。歌になった息は白く、まぼろしのように霧になって消えていった。
 柳、私どうしてもアイスが食べたい、と、後ろを歩く柳に間抜けな声で話して、柳の、うん、という言葉を待った。柳はこんなとき、必ず、うん、という返事をくれるだろうという不思議な信頼のおける人だった。柳の、私のイメージの外の現実に住む柳の、うん、という声を聞いて満足した私は、アイスクリームじゃなくてラクトアイスがいいの、安っぽいやつ、と鼻歌のように話しながら前を向いた。柳は、うん、ともう一度、きっと私のために、言ってくれた。
 私たちはアイスを買って、寒い寒いと言って食べながら、お互いの家を目指して歩いた。
その日は革命みたいな夜だった。美味しいものはいつだって私の味方だ。

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